第993話 何がが起こった

 僕とエミリアは長老様に一言断りを入れてから村の広場に向かった。

 僕達以外には誰も居なかったので、そこに腰を落ち着かせることにした。


「この辺でいいですかね」


 エミリアと僕は公園にあるベンチに座る。


「それで、話って?」


 ベンチに座って落ち着いたエミリアに僕は尋ねる。するとエミリアは僕に手渡された帽子を膝に置いて、少し間を置いて話し始めた。


「……こっちに来て、私達の関係性が色々と変わったじゃないですか。レイはレベッカと結婚して、私達もその……ね……レイのハーレム要員になりましたし」


「いや、ハーレム要員て」


 エミリアの言葉に思わず突っ込みを入れる。


「……それは冗談として……レイとしてはどういう気持ちなんです?

 レベッカだけじゃなくて、私達とも……事実上、恋人以上の関係になったわけですし……ていうか籍入れちゃってますし」


「正直、ここに来るまで結婚するなんて考えてなかったんだけどね……」


 彼女の質問に僕は素直にそう答える。実際問題として結婚するという事がどういう事なのかも分かっていなかったし、何より元の世界ではそういった事は考えもしなかった。


「いきなり全員と結婚することになったのは、自分でも驚きを越えて困惑してるけど、後悔は全く無いよ」


「それはつまり、最初から私達とそういう関係になりたかったと?」


 エミリアは口元に笑みを浮かべて挑発的に僕を見つめる。


「う……まぁ……全く想像しなかったわけじゃないけど……」


「ふーん?」


 エミリアはそう返事をしながらも目を細めてニヤニヤとしている。


 ……そんな反応されると非常に困るんだけど……。


 僕は気恥ずかしさと照れで思わず視線を外す。そんな僕の様子を見て、彼女は小さく笑う。


「まぁ意地悪はこの辺にしときましょうか……実際の所、私達もそれが目的でしたし……」


「え?」


「……なんでもないです。それより、レベッカとの新婚生活を始めた感想はどうです?」


「感想って言われてもまだ分かんないよ。今日が一日目だし、今の所お互いに遠慮し合っててぎこちないし」


「ヘタレですねぇ。二人きりになったら押し倒しちゃえばいいのに」


「そんな事出来る訳ないでしょ……」


「で、そのレベッカを一人にさせて大丈夫なんですか?」


「ああ、それは大丈夫。レベッカの入浴のタイミングで家を出たし、ちゃんと書置きを残してきたから」


「……え?」


 エミリアは僕の言葉を受けて硬直する。僕はそんな彼女を不思議そうに見る。


「あれ、どうかした?」


「そんな美味しい状況なのに、なんで覗かないんですか?」


「いやなんでだよ!!」


 エミリアの言葉に僕は思わず突っ込む。


「え、新婚ですよ……!?」


「いやいや、確かにそうだけども!?」


「そういう気分にならないんですか!? もしかして、レイ……性欲が……」


「僕が不能みたいな言い方やめろぉ!僕は正常だよ!!」


「ですよねー」


 エミリアは僕の反応を見てケラケラと笑う。


 ……なんだか彼女の玩具にされているような気がして、僕は溜息をついてしまう。


「……はぁ。僕もレベッカもまだ子供だよ。そんな未熟な状態で、責任も取れない状態で行為に及ぶとか駄目でしょ。ましてレベッカは僕達よりも成長が遅いんだからね……」


「尤もらしい事言ってますが、結構前に私を押し倒そうとした事ありましたよね」


「(ビクッ)」


「あの時、私を押し倒そうとした事に関して何か言う事は?」


 エミリアは僕をジト目で睨みつけながら質問してくる。


「ご、ごめんなさい……」


「まぁ怒ってはいませんけどね。あの時、レイの下半身を思いっきり蹴飛ばしちゃいましたからノーカンです」


「あの時は本当に死ぬかと思ったよ」


 魔物よりもエミリアの方がよっぽど恐ろしいと思った。


「……ま、そういう訳でレベッカがお風呂から上がる前に帰るとするよ」


「あははは、今こうして私と夜に出歩いてるのがバレたら浮気になっちゃいますもんね」


 エミリアは笑いながら言う。


「ま、私としてはどっちでも構わないんですけど」


「少しは構ってよ……」


 彼女の言葉に僕は苦笑して返事を返す。

 そうして、僕達は笑いながらお互いの帰る場所に戻ろうとするのだが……。


「……?」

「……なんか、おかしくないですか?」


 そこで僕達はようやく気付いた。いくら夜で周囲に人が居ないといっても静か過ぎる。自然豊かなこの村は夜でも野鳥や虫の声が聞こえてくるものだというのに、そういった音が全く聞こえてこない。


「何か嫌な予感がするね……」

「ええ、早く戻った方がいいかも……」


 僕達はそう言って頷き合い、走り出そうとする。だが、途中で見えない壁に遮られてしまう。


「結界!?」

「なんでこんなところに……!?」


 僕はエミリアと背中合わせになり、周囲を警戒しながらそう呟く。


「エミリア、索敵お願い!」

「ええ……<索敵>サーチ

 僕が彼女に指示をすると、エミリアは帽子をかぶり直してから杖を地面に突き刺して詠唱を始める。


 ……しかし。


「……おかしい、私達以外の気配が感じられません」


「どういうこと?」


「この村全体を対象にして索敵を掛けたのですが、私達二人以外の気配が全くありません。

 結界によって気配を遮断されている可能性もありますが、もしかしたら私達だけ何処か別の空間に隔離されているのかも……?」


「……だとしたら、皆が危ない!」


「……ですね。急ぎましょう!」


 僕の言葉にエミリアが同意してそれぞれ武器を見えない壁に向けて構える。


 そして、一斉に攻撃を仕掛けようとしたタイミングで―――


「――安心して、私は何もあなた達に敵対するつもりはない」

「……!?」


 突然、僕達の前に黒いローブを着た謎の人物が現れる。


「誰……?」


 エミリアはそう言いながら杖を構えて警戒する。僕も同様に武器を構えつつ相手を観察するが……。


「……まさか、カレンが言ってた不審者ですか!?」

「……!!」


 エミリアの言葉で、以前にカレンさんが不審者と遭遇して逃がしてしまったという話を思い出す。


「何者だ……!? 僕達を閉じ込めて何を企んでる……?」


 僕は目の前の不審者に剣を向けて油断なく相手の動向を探る。


「ふふふ、安心してください。別に貴方方を取って食おうなんて思っていません……久しぶりね、桜井鈴くん」


 黒いローブの女はそう言うとフードを取り払って顔を晒した。


 ……その顔を見て、僕は驚愕に目を見開く。何故なら――


「……え?」


 それは僕が知っている人物だった。

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