第989話 恋愛模様
前回のあらすじ。
レベッカとの結婚の許可を貰うために彼女の両親の元へ訪れたレイとレベッカの二名。
最初こそ上手く説得出来たのだが、その後レイ達の頼みに渋い顔をしたウィンターさんに苦戦する二人。
しかしそこでラティマーさんの大女神的な一言で事態は好転し、最終的には許しを得ることが出来たのだった。
こうして、レイとレベッカは親公認のカップルとなったのだが……。
「いやはや……しかしキミ達の提案には驚いたよ。まさか他の女性の話まで出してくるとはね……思わず手が出そうだった」
「あ、あはは……」
ウィンターさんの顔は笑っているが、目は全然笑っていなかった。
「このような提案をしてしまい申し訳ありません、父上。……ですが、レイ様を慕う女性は多いのです」
「あらまぁ、レイさんってばモテモテね」
「い、いえ……実際の所、僕も自分であんまり自覚無くて……」
「あら、そうなのかしら? まぁレイさんは確かにこの村の男性の理想像とは遠い感じではありますね」
ラティマーさんはきょとんとした顔で首を傾げる。
「ふむ、確かにこの村の女性は、長老様のような逞しい男性を理想にしているからね」
「え、長老様ですか!?」
僕はあの巨大な肉壁のような暑苦しい老人の姿を思い出す。
「ああ、女性のみならず村の男性も、長老様のような圧倒的な肉体と強さを目指しているからね。中には長老様に弟子入り志願する男性も何人かいたはずだ……。まぁ……皆、最終的に長老様の暑苦しさと、修行内容の苛烈さに挫折したらしいがね」
「あはは……」
確かにあの暑苦しさを毎日受け続けたら、それは耐えられそうにない。
僕は思わず遠い目をしてしまった。
「うふふ、ウィンターさんったら。貴方も長老様に弟子入り志願した一人じゃないですかぁ」
「そうなのですか、父上?」
レベッカは驚いた顔でウィンターさんに言う。
「ちょ、ラティマー? それは娘の前では言わない約束だろう?」
「うふふ」
ラティマーさんは愉快そうに笑い、ウィンターさんは困ったような顔で苦笑いしている。そんな二人を見ながら僕はふと疑問に思った事を聞いてみた。
「その……ウィンターさんは何故長老様に弟子入りを……」
「いや……まぁ……その……ね……」
ウィンターさんは渋みのある顔を僅かに紅潮させてラティマーさんの方を見る。
「(もしや……)」
僕が何となく察していると、ラティマーさんがとても嬉しそうに言った。
「ねぇねぇ聞いてくださいよ、レイさん♪」
「あ、はい」
まるでうら若き乙女のようなラティマーさんの口調に、僕は思わずドキッとする。外見がレベッカをそのまま大人にしたような外見なので、正直意識してしまっている。
「……むー」グイッ
「ちょ、レベッカ! 僕の太腿をつねらないで!」
「……」
プイッ そんな僕の反応を見てレベッカは不満げに顔を背ける。
可愛すぎて僕が死にそう。
「うふふ、それでね……。ウィンターさんったら私に隠れて長老様に弟子入りした時に、長老様にこう言って頼みこんだのよ~♪」
「おいおい……」
「『今まで私は自身を高める事のみを生きがいにして修練に望んでいました。しかし、私の運命の人が現れたのです。私はその人を見た途端、私の胸の中が熱くなり、その人の事しか考えられなくなってしまったのです。あの人は正に私にとっての天使だ……!
だが今の私では、あの天使にとても釣り合わない……。長老様、私を鍛えてください……!』ってね♪」
ラティマーさんは両手を合わせてキラキラと目を輝かせる。
「その女性というのは、やっぱり……」
「うふふ、私のことよ♪」
ラティマーさんは自身の頬を両手で包んでなんとも幸せそうな表情を僕達に見せつけてくれる。
「それで長老様は、ウィンターさんを厳しい修行に突き放したのだけれど、その甲斐あってかウィンターさんはとても強くなられたのよ。今では長老様に次いでこの村で一番の狩人として名を馳せているわ」
「父上が……!」
「惚れた女性の為にそこまで……尊敬します、ウィンターさん!」
ラティマーさんの話を聞いた僕達はウィンターさんに尊敬の念を込めて視線と称賛を向ける。
「いやはや……娘と娘の婚約者の前で言われると……ははは、私の威厳も形無しだな……」
「いえ! 凄くカッコいいです!」
「父上と母上の出会いがそんな情熱的なものだとは……! わたくし、感動で胸が打ち震えております……!」
僕達が盛り上がっていると、ラティマーさんが引き出しの中から何を取り出して僕達の前に見せつけてきた。それは、少し古びた手紙だった。
「でねでね♪ ウィンターさんってば、私にこんな情熱的なラブレターを送ってくれたのよ♪」
「お、おい……!」
「二人とも、中になんて書いてあるか聞きたい?」
「「聞きたいですっ!!」」
「それだけは止めてくれ……。 父親としての威厳が……!」
そこで、ついにウィンターさんの羞恥心が限界突破したのか、彼は頭を掻きむしって激しく悶えていた。そんな彼の様子を、僕達はとても微笑ましく見つめていたのだった。
◆◇◆
ウィンターさんのラブレター絡みでより親睦が深まった僕達は、ラティマーさんが淹れてくれたお茶を飲みながら会話に花を咲かせて非常に穏やかな雰囲気となった。
そして結婚式の日取りや結婚した後は何処で生活をするかなどそういった事を話し合って、色々固まった所でお開きとなった。
「結婚の日を楽しみしてるよ」
「うふふ、可愛い可愛い娘の晴れ舞台を見れて、お母さん嬉しいわ……♪」
「今日はありがとうございます、ウィンターさん、ラティマーさん」
「父上、母上、本当にありがとうございます。わたくしもお二人のように幸せな夫婦になれるよう頑張ります」
こうして僕達はウィンターさん達にお礼を言って別れるのだった。
そして神殿から出たところで見知った顔を遭遇する。
「あ、プラエさん」
「プラエ様、お仕事お疲れ様でございます」
僕達は神殿の入り口で相変わらず門番をしていた神官プラエと遭遇して挨拶をする。
「……」
が、神官プラエは僕をじっと見つめるばかりで何も喋ろうとしなかった。普段から怖い顔をしているが、今は機嫌が悪いのか眉間の皺が寄っており、更に味わい深い顔になっている。
「(あ、これ完全に怒ってるな……)」
やはり去り際の僕のロリコン発言が効いたのだろうか。
如何に優秀な神官プラエといえ、ロリコン呼ばわりの精神ダメージには耐えられなかったらしい。喧嘩した腹いせとはいえ流石に悪いことを言ってしまったかもしれない。ここは素直に謝らないと。
「プラエさん。ロリコンって言ってすみませんでした」
「おい、神子様の前でその言葉を口にするな!」
神官プラエは殺気混じりの怒気を僕に向けてくる。そんな様子にレベッカが驚いて僕に声を掛けてくる。
「れ、レイ様? 何の事でございますか?」
「えっとね、プラエさんがロ……」
「止めろと言ってるだろう! さっさと帰らないと背後を向いた瞬間にお前を撃ち抜くぞ!」
「あ、止めときます」
「???」
僕は神官プラエの迫力にビビって、そのまま言う事を聞く。レベッカは僕の反応に困惑していた。
「では……失礼します」
しかし今は早くこの場から離れたかったので、すぐにそう言って立ち去ろうとすると、背後で神官プラエが声を掛けてきた。
「……神子様のことを、よろしく頼む」「!」
その言葉に振り返ると、既に彼女は僕達に背中を向けていた。恐らくはいつもの様に門番の仕事に戻ったのだろう。
「帰ろうか、レベッカ」
「はい、レイ様♪」
僕がそう言うと、レベッカは可愛らしい笑みを浮かべて僕の腕をとって抱きついてくる。そんな彼女の頭を撫でつつ、夕焼けで赤く染まる道を二人で歩いていくのだった。
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