第986話 お姉ちゃんの自爆カウンター
神官プラエが去った後。
「ふむ……プラエの奴、完全に拗らせおって……。まぁ、アレでも悪い男ではないんじゃがな」
神官プラエの去っていった方を向いて長老様はボヤく。
「婿殿、レベッカよ。どうやらお互いに決意が固まったようじゃの。
もうお主らの恋路の邪魔をする奴はおらん。あとはラティマーとウィンターの元へ向かい、二人へ自分の気持ちを伝えると良い」
「はい、長老様」
レベッカはそう強く頷く。しかし、長老の言葉に返事をしたのはレベッカだけだった。
「……う……うぅ……」
「姉さん……」
レイの姉であるベルフラウは、レイの強い意思を聞いて涙を流していた。
「ご、ごめんね……こういう時、本当はお姉ちゃんは率先して祝福してあげなきゃダメなのに……」
ベルフラウはレイが自分ではなくレベッカを選んだ事への悲しみ。
それと同時に、彼がここまで成長して自立していた事への嬉しさと寂しさ。
様々な感情が入り混じり、彼女の涙腺を崩壊させてしまっていた。
そんなベルフラウにレイは優しく微笑んで彼女を優しく抱きしめる。
「……!!」
「……ありがとう、姉さん」
突然の事に驚いた様子のベルフラウだったが、やがて彼女もゆっくりと両手をレイの背中に回し、彼の胸に顔を埋める。
「この世界に来て、ずっと姉さんや皆と一緒に旅が出来て僕はずっと幸せだった。これからも、ずっと皆と一緒に居たい。
……だけど僕は彼女を支えてあげたいと決めたんだ……ゴメン、こんな突然決めちゃって……なんて皆に言えば良いのか分からないけど……」
「……うん、分かってるよレイくん。お姉ちゃんは貴方の事、応援してる……」
そう言ってベルフラウはレイの身体を離すと、今度は彼の隣にいたレベッカに抱きつく。
「……レイくんの事よろしくね。レベッカちゃん」
「ベルフラウ様……」
涙を流しながらレベッカを抱きしめるベルフラウ。
そんな彼女に、レベッカは天使の様に穏やかな笑みを浮かべながらベルフラウの頭を優しく撫でる。
そしてレベッカは彼女の耳元に手を当てて、周りに聴こえないように自身の口を近づけて呟く。
「(レイ様の事、お任せくださいまし。ですがベルフラウ様、わたくし一人で幸せを甘受するつもりはございませんよ)」
「……え?」
レベッカはそれだけ呟くと、顔を離して再び天使のような笑顔をベルフラウに向ける。
「れ、レベッカちゃん。今のどういう意味……?」
「ふふ……ベルフラウ様。屋敷に戻ったら、他の皆様に『少しだけお待ちを』とだけお伝えください。必ず吉報をご報告に参りますので……」
「吉報……分かったわ」
ベルフラウは頷くと、レイとレベッカへと向き直る。そして涙を自分の手で拭い、笑顔を二人に向ける。
「レイくん……レベッカちゃん……ご両親への挨拶……頑張ってね」
「うん、ありがとう姉さん」
「では行って参ります。レイ様、行きましょう」
「うん」
レイとレベッカは頷き合って手を取る。
そして、二人は神殿へと足を運ぶのだった……。
◆◇◆
レイ達と別れたベルフラウは複雑な感情を抱きながら、仲間達が待つ屋敷へと戻ってきた。なお、放心していたので長老様の背に背負われて戻ってきた。
「ただいまー……」
ベルフラウは力なく屋敷の扉を開く。
「お主、大丈夫かの? 随分とやつれているようじゃが……」
「お、お構いなく……長老様……ここまで運んで頂きありがとうございます」
「ふはは! 気にするではない。では吾輩は野暮用に出掛けてくるからの。留守番を任せたぞ」
「はい」
「ふははははははは!! 今夜は赤飯でも炊くかのう!!」
そう言って長老は豪快に笑いながら屋敷を出て行った。
「……元気ね、あの人。あれで150歳超えてるなんて信じられないわ……」
ベルフラウは長老様の岩のような背中を見送って屋敷の中に入る。
「皆、ただいま……」
そして居間に戻って仲間達に声を掛けるが、すぐに座ってその場に項垂れる。
「あ、お帰りなさいベルフラウさん……ってなんか滅茶苦茶落ち込んでるんですけど、大丈夫ですか?」
「レイ達の後を追っていったときはやる気に満ちてたのに……」
「レイにフラれたんでしょ、昨日もストーカーして呆れられてたし」
「うぐっ」
ベルフラウの様子に仲間達は戸惑いを見せるが、その中でノルンの言葉がベルフラウに地味に刺さる。
「ふ、ふふふ……振られたって……? 確かに、お姉ちゃんは振られちゃったけどね……」
ベルフラウは机に顔を埋めたまま、ボソボソと呟く。
「え?」
「でも私だけじゃないわ。ここに居る全員が、よ」
「「「「「え?」」」」」
ベルフラウの言葉の意味が分からず、ノルン達は首を傾げる。
そんな彼女達の様子に、ベルフラウは顔を上げて仲間達に告げる。
「レイくん……レベッカちゃんと結婚するんですって。今からご両親にご挨拶に行くみたい」
……。
…………。
………………。
「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
――その日、屋敷の中から若い女の子達の絶叫が響き渡った。
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