第982話 不審者に厳しい一党
夜中のデートを満喫したあと、レイとレベッカは村に戻ってきた。
なお、前回『甘く蕩けるような時間』とか言ったが、それはあくまでも言葉の綾であって決してそういうことを致したわけではない。
彼女の年齢は15歳だが、容貌は下手をすれば10歳前後に見える幼児体型ということを忘れてはいけない。そんな彼女に手を出すなど紳士のやる事ではないのだ。
……あれ?ってことは僕は見た目幼女の女の子にプロポーズをした事に……。
「レイ様、どうされたのですか?」
「あ、なんでもない」
彼女にプロポーズしたことを仲間に報告したらどういう反応されるか、今更ながらに不安になってきた。
「ではレイ様、まずは父上と母上に報告を……」
「う、うん……」
ヤバい。めっちゃ緊張してきた……!
「……と言いたいのですが」
「え?」
「流石にもう夜遅いので、神殿も立ち入りが出来なくなっております。今日の所はお爺様の家に戻りましょう。その……プロポーズの話は、明日……ということで……ポッ」
レベッカが恥ずかしそうにしながらそんなことを言うので、レイはズキューン!と矢で胸を貫かれたような衝撃を受ける。
「う、うん……分かった」
あまりにも可愛らしいレベッカの様子に悶えながら、僕とレベッカは長老様の屋敷へ戻った。流石にもう夜も遅いので寝静まっているだろう。そう思っていたのだが……。
◆◇◆
「おかえり」
屋敷の門の前には何故か箒を持ったアカメが待っていた。
「アカメ……えっと、もしかして僕達が帰ってくるの待ってたの?」
「うん」
アカメは無表情でそう頷く。
「どうしてこんな時間まで……」
「もしや、わたくしがレイ様を独り占めしたことをお怒りに……」
「ううん。違う」
アカメはレベッカの言葉に首を横に振ると、レイの方をじっと見て言った。
「二人が心配だった」
「え?」
「だから、念のためここで待ってた」
心配……?
確かに帰宅の時間は遅れてしまったし、普通の家なら門限なんてとうに過ぎているだろう。周囲も暗いし魔物に襲われたらベテランの冒険者も視野が利かないから危ないのも理解出来なくはない。
僕がそう解釈していると、アカメはフルフルと首を横に振る。
「そういう意味ではなくて……」
「どういうこと?」
僕がそう質問するとレイ達が戻ってくる二時間程前の事を語り始めた。
◆◇◆
リーサと二人で仲間の帰りを待っていたアカメは兄のレイと仲間達が戻ってくるのを部屋で静かに待っていた。
それから一時間程して、仲間達が全員戻ってきたのだが……。
「……お帰り、お兄ちゃんとレベッカは?」
アカメは何故か家の中に入らず門の入り口で話し合っていたカレンとエミリアの元へ飛んでいき、声を掛ける。
「ああ、アカメ。ただいまです」
「レイ君はまだ帰ってこないわよ。尾行がバレちゃってレベッカちゃんと一緒に何処かに行っちゃったわ」
「あれだけ大勢で押しかけたらレイに気付かれちゃいますよね」
「むしろデートの邪魔をしちゃったわ……。申し訳ないし、今はレイ君の気持ちを尊重して二人きりにさせてあげましょう」
「ま、ちょっと気に入りませんけどね」
カレンとエミリアはそう言って「「ねー」」と声を合わせて頷き合う。
「……お兄ちゃんがまだ帰ってこないのは分かったけど、何故二人は家の中に入らない? 他の人達はもう寝静まっているようだけど……」
「そう、それなのよ。アカメ」
「実はですね。私たちが諦めて帰ろうとしたタイミングでカレンが変な気配に気付いたみたいで――」
「……その不審者……どうもレイ君達を監視してたみたいでね。捕まえようとしたんだけど逃げられちゃったのよ」
「気配……?」
「ええ……どうも金髪の眼鏡を掛けた女らしいんですけど、アカメは心当たりあります?」
「……知らない」
「ですよね」
「気になるから私たち二人だけで夜通しそいつを探そうと思うの。二人のデートを邪魔させるわけにはいかないし、何より嫌な予感がするのよね」
「今更新しい敵が出てくるとは思いませんが、コソコソと二人を追い回してると考えると不快な存在ですね」
「ええ、イライラするわ」
エミリアとカレンはそう言って意気投合する。
……さっきまで、レイとレベッカのデートをコソコソとストーカーしていた人間の言葉とは思えない。アカメは二人に対してそんな事を思ったが、口に出さないでおいた。
「というわけで……私達ちょっとこれから夜通しデートを邪魔しそうな奴を探しに行くから」
「私も行く。お兄ちゃんが心配」
アカメも気になってその不審者の捜索に参加しようとするのだが、エミリアは言った。
「アカメはここで待っていてください。先にレイ達が帰ってくるかもしれませんし、無いと思いますが不審者がここに来ないとも限りませんし」
「私たちも適当なタイミングで切り上げるつもりだけど、正直見つけるのは難しいと思ってる。アカメは二人が帰って来たら先に休んでて」
「……了解。もし手が足りないなら戻ってきて」
「ええ、じゃあ行ってくるわ」
「さて……二人がイチャイチャしている間、私たちは働くことにしましょうか、カレン」
「……そう言われたらなんか腹立ってきたわ……不審者が現れたら、絶対捕まえてやるんだから……」
「同感です」
二人は気合十分でそう言って不審者を探しに村の外へ消えていった。
◆◇◆
……そして現在に戻る。
「不審者……?」
「ふむ……そんな人物がこの村に現れるとは……。お爺様に相談して村総出で探すべきでしょうか……?」
「……ともかく、二人は先に休んでて。もしカレン達が見つけられなかったら明日改めてこの話をすればいい」
「アカメはどうするの?」
「私も寝る」
アカメは欠伸を嚙み殺してそう答える。
「じゃあお兄ちゃん……お休み……」
「あ、うん。おやすみ」
「お、おやすみなさいませ……アカメ様……」
僕達が返事をすると、アカメは屋敷の中に入っていった。
そして、残された二人は―――
「え、えっと……それじゃあ僕達も……」
「は、はい……ではレイ様……」
僕とレベッカは二人きりになって気恥ずかしさで互いに顔を背ける。
そしてそのまま屋敷へと戻るが……。
「あ、あのレイ様……」
「え?」
僕が部屋に入ろうとすると、レベッカが声を掛けてきて僕の服の袖を摑んだ。
「その……レイ様、目を瞑ってくださいまし」
「!! ……うん」
僕はレベッカに言われた通り、目を閉じて顔を少しだけ上にあげる。
「……ちゅ」
目を瞑っているので何が起こったかは詳しくは分からないが、おそらく僕の口に何か柔らかいものが一瞬だけ触れた……。
そしてレベッカはゆっくりと僕の袖から手を離すと「お休みなさいませ」と言って先に屋敷に入っていった。
僕一人取り残された部屋で呆然と立ち尽くす。
「……」
そして、僕は熱に浮かされたまま自室に戻ったのだった。
なお。
――ガラッ。
「あ、お帰りなさーい」
「え」
自室に戻ると、怖いくらい満面の笑みを浮かべた姉さんに出迎えられてしまった。
……あの、姉さん? なんでそんなにニコニコしているんでしょうか……?
「んー? ちょっとレイくんとはお話しなきゃいけないことがあるから二人きりで話し合いたいの。いい?」
あ、はい。いいです。
もう何もかも覚悟出来ました。
僕の心は即屈服した。
「……それでね、レイくん」
部屋に入った僕は椅子に座りながら正面に座った姉と対面する。そして彼女は笑顔のまま僕に言った。
「レベッカちゃんとのデート楽しかった?」
「……は、はい」
その後、僕は満面の笑みの圧力に屈し、僕は夜通し話し合いをする羽目になったのだった。
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