第978話 恋愛脳ヒロインズ

 蒼い星との密談を終えた後、僕は屋敷を出てレベッカとの待ち合わせの場所に急いだ。


 屋敷の外は既に真っ暗。


 空を見上げると、雲一つない夜空に数多の星が煌めいている。


 月も三日月から半円になりつつあり、もう間もなく満月になるだろう。


 綺麗な空に見惚れながら周囲を確認するが、レベッカはまだ来ていないようだ。


「良かった。時間には間に合ったみたいだ」


 蒼い星の言葉じゃないけど、デートに誘っておいて女の子を待たせるなんて論外だ。


 僕は時間を確認して安堵の息を漏らすのだった。


 僕は息を吐いて屋敷の外の壁に背中を預ける。


「……」


 それから10分。

 約束の時間ギリギリになってレベッカはやってきた。


「お、お待たせして申し訳ありません!」

「!」


 入り口の門の方から声を掛けられて、僕はそちらの方を向く。

 するとレベッカが僕の向かって走ってくる。


 彼女の姿を見るといつもとは雰囲気が違っていた。


 普段の服装は白いチャイナ風の衣装なのだが、今のレベッカは白地に青い花柄があしらわれたワンピースを身に纏っていて、靴はヒールの付いたパンプスで、頭にはつば広の白い帽子を被り、手には小さなバッグを持っていた。


「(か、可愛い……)」


 思わず見惚れてしまった。普段の神秘的なレベッカの印象と一転して普通の女の子のようなその身なりに胸がときめく。


 元々可愛らしいレベッカはなんでも似合いそうではあるが、シンプルな衣装ながらも彼女にピッタリだ。


「あ、あのレイ様。少し服装に何か違和感がおありでしょうか……。

 わたくし、自分で服を選んだことって無いもので、幼い頃の母上のお下がりのワンピースを着てみたのですが、どこか変でしょうか?」


 僕の視線に気付いたレベッカが不安げに尋ねてくる。僕は慌てて首を横に振る。



「ううん。凄く似合ってる」


 変どころか今まで以上に彼女が愛おしく思える。


「とっても綺麗だよ。レベッカ……」

「あ……っ」


 僕の言葉にレベッカは白い肌をほんのり赤くして俯いてしまう。


「あ、あの……ありがとうございます……」

「!」


 そんな恥じらう姿のレベッカに、ドキッと心が高鳴る。

 僕は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「……レイ様も」

「……?」

「レイ様も、いつもよりも……その、素敵だと思います……」

「あ、ありがとう」


 互いに頬を染めて見つめ合う二人。それから、お互い顔を見ることが出来ずに俯いた状態で居たが、ずっとこんな所で突っ立ってるわけにもいかない。


「い、行こうか……その……デートに……」

「は、はい……。お手柔らかにお願いします……」


 ぎこちない挨拶を交わして、お互い手を握り合って歩き出す二人。


 ――そんな初々しいカップルのような二人を屋敷の窓から見守る人影があった。


「……行きましたね」


 エミリアは窓から二人の背中を見届けると、背後を振り返る。

 するとそこには食い入るように窓の外を覗く他の仲間達の姿があった。


「す、凄い……あんな近い距離でくっついて……」


 ルナは寄り添う二人の姿を見て羨望と興奮を隠せない。


「ルナ、羨ましいの?」

「羨ましい!」

「……」


 アカメの質問に即答するルナに、アカメはほんのり和む。


「レベッカちゃん、普段と全然違う恰好ね……」


「彼女なりにおめかししたんでしょう。普段の恰好から見れば少し地味に見えるのだけど、レイ君の反応を見るに普段の彼女とは違う印象を受けたのでしょうね」


「真っ白な衣装というのもポイント高いかもね。レイは口には出さないけどああいう穢れの無い衣装とかが好きみたいだし……」


 ノルンはレベッカの衣装をじっと見て考察する。


「そのお兄ちゃんもいつもとちょっと違う。髪形も少し変わってるし普段よりもカッコいい」


 アカメは何故か誇らしげに語る。それを聞いたカレンは苦笑して言う。


「普段から身なりを整えなさいってアドバイスした甲斐があったわ。……まぁ、それが自分以外の女の子の前で発揮されてるのがちょっと気に入らないけどね」


「おや、やっぱり嫉妬してるじゃないですか。カレン」


「冷静ぶってるけど、アンタも落ち着きなくなってるじゃない。エミリア」


「うっ……」


 カレンを揶揄おうとしたエミリアは 逆に突っ込まれて言い淀む。


「それでどうするの、ベルフラウ?」


「このまま見送るつもりですか?」


 ノルンとエミリアはベルフラウを方を見て言う。

 そのベルフラウは窓の外を食い入るように見ながら、


「……」


 無言。しかしその表情は真剣そのものだ。

 そして、彼女は言った。


「……お姉ちゃん、行きます!」


『え?』と他の女性陣が声を上げる中、ベルフラウは窓を開けてそこから飛び降りた。


「……私たちも行きます?」

「……」

 

 こうして彼女達は二人のデートをストーキングするのだった。

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