第976話 偽姉「レイくんが浮気した」
その日の夜。
皆、帰宅して夕食を終えた後の話。
覚悟を決めた僕は皆と談話しているレベッカに話しかける。
「レベッカ」
「レイ様、どうされたのですか?」
「この後、用事ある?」
「え? いえ……特にはありませんが」
突然の問いかけにレベッカは困惑した表情で首を傾げるが、素直に答えてくれる。
「珍しく改まってどうしたの?」
「なになに、レベッカちゃんに何かあるの?」
僕の言葉が気になったのか、カレンさんと姉さんが会話に加わって来る。
他の皆も僕とレベッカに注視し始めた。
「(しまった。もっといつも通りに話しかければ良かった……)」
普段の僕は仲間内にはここまで改まって声を掛けて話すことが無い。そんな僕がレベッカに改まって話があるとなると、自然と注目が集まってしまった。
「ええと……その」
僕はそう言いつつ、どう切り出そうか迷う。しかし、ここでまごついていても仕方ない。
「……その、レベッカ……。今からデートしない?」
僕がレベッカにそう告げた瞬間、部屋が静寂に包まれる。
そして、数秒後。唐突に周囲が騒がしくなる。
「ふ、ふえっ!?」
「れ、れ、れ、レイ君が自分から女の子をデートに誘った!? いつも毎回こっちから誘わないと全然動かないあのレイ君が!?」
「ズルい、お姉ちゃんもデートに誘ってよ!?」
そして僕の問いかけに動揺するレベッカと、余計な事を言ってくれるカレンさんと姉さんの二人組。
「……年上二人組の嫉妬はともかくとして」とエミリアが呆れたように言う。
「嫉妬じゃないわよ!?」
「エミリアちゃん、私は純粋にデートに誘ってほしいだけなんだから!」
するとカレンさんと姉さんがエミリアの言葉にそれぞれ反応する。
「サクライくんがレベッカちゃんをデートに誘うなんて……」
「……」
「……皆、過剰に反応し過ぎよ。返事をしようとしてるレベッカも困ってるでしょ?」
僕達の事を気遣ってくれているのか、遠巻きから様子を見ていたノルンがフォローしてくれた。
「で、どうするのレベッカちゃん」
カレンさんがレベッカに問う。
少しだけツンツンした態度になってるのがちょっと気になる。
「えっと……その……」
レベッカは顔を赤くして視線を彷徨わせて戸惑う。そして彼女は助けを求めるような視線を僕に向けた後、僕にこう告げたのだった。
「よ、喜んで……」
レベッカがそう言ってくれた瞬間、僕は少しだけ緊張が解ける。
周囲が浮足立ってる事もあり、下手をすればレベッカに断られてしまう可能性もあったからだ。
だが、これで少なくとも二人きりで話を出来る機会を得られた。
「……良かった。じゃあ二時間後。屋敷の外で待ち合わせでいいかな?」
「はい……。その、少し待っていてくださいね……」
レベッカはそう言って、若干フラフラした様子で自分の部屋に戻って行った。
「……ふぅ」
そんなレベッカの背中を見送ってから僕は大きく息を吐くのだった。
そして僕も準備をする為に部屋を出ようとするのだが……。
――ガシッ。
部屋を出ようとした僕の肩を姉さんが後ろから掴まれる。
「――どういうこと?」
普段の姉さんとは思えない握力で僕の肩を掴まれて、僕の肩が軽く悲鳴を上げる。
「ね、姉さん。落ち着いて……ね?」
「ベルフラウさん、気持ちは分かるけど少し落ち着きましょう。そんな風に力んでいたら綺麗な顔が台無しですよ?」
「で、でもねカレンさん……!」
カレンさんが姉さんを宥める事で姉さんの力が弱まって僕の肩から手を放してくれた。しかしそれでも姉さんの感情が収まらないらしく、目元を若干赤くして涙を溜めている。
姉さんの気持ちを察せられないほど僕も朴念仁ではない。
だけど、ウィンターさんの約束を守るために本当の事を話すわけにはいかない。
かといって姉さん達に事情を話さずに説得するのはかなり骨が折れそうだ。
どう答えようか迷っているとエミリアに声を掛けられる。
「レイ……正直な所、私もちょっと動揺してます。
昨日までレベッカとは普段通りに過ごしてて特に何かあったわけには見えませんでしたし。
レイがレベッカに対して好意を持っているのは今更疑いませんが、今まで特に進展させる気が無さそうだったのに一体どういう心境の変化ですか?」
エミリアが困惑した様子でそう尋ねて来た。
彼女だけではなく、ルナもノルンも僕の方を見て不安そうな表情をしている。
アカメとリーサさんは普段とさほど様子は変わらない。事の成り行きを見守っているのだろう。
やはり皆に注目される場所で言うんじゃなかった。と、今更ながら後悔しているが、いずれは分かることだ。
誤魔化しても仕方ないので、ここは偽りない言葉で皆の不安を払拭する。
「……ええと、皆、色々誤解していると思うんだけど……」
僕はそこまで行ってから「すぅー」と深呼吸で気持ちを落ち着けて言葉を続ける。
「特に意図があるわけじゃないよ。言葉の通り、レベッカと二人で過ごしたくてデートに誘ったんだ」
「そ、そうですか……」
僕が素直に答えるとは思っていなかったのだろう。
あるいは何かしら意図があるのではと勘繰っていたのかもしれない。
エミリアは表情を変えないが、少し口元が引きつっていた。
「(流石に限界かな……)」
これ以上、追及されるとボロが出そうだ。
そう判断した僕は少し強引に話を切り上げることにする。
「それじゃあレベッカを待たせるわけにもいかないし、僕も行くね」
そう言って僕は足早に部屋を出ていった。
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