第975話 一体誰なんだ……?

 話し合いを終えた僕達はその場で別れることに。


「レイ殿、私はこのまま神殿に戻るとするよ。部下や娘に仕事を任せてしまったからね。今日、ここで話したことは内密にお願いするよ」


「ええ、分かりました。……あの、この話はラティマーさんは」


「いや、何も話をしていない。今回キミにお願いしたことは全て私の独断だ」


「……」


「だが彼女はああ見えて聡い。レベッカの異変も既に勘付いているはず」


 ウィンターさんはそう言って何故か僕から視線を逸らして答える。僕に視線を合わせない意味を何となく察して僕は追及せずに会話を続ける。


「……分かりました。その時が来たら、僕の方からラティマーさんに話をさせてもらいますね」

 僕はウィンターさんの言葉に頷く。


「ああ、頼むよレイ殿。……キミの感情を無視して重荷を背負わせてしまい申し訳ない。……では、失礼するよ」


 お義父さんがそう言って僕に頭を下げて踵を返す。

 その彼の背中に向けて僕は言う。


「ウィンターさん」

「何かな」


 ウィンターさんはこちらに背を向けたまま僕に返事をする。


「これから僕がすることは僕自身が考えて出した答えです。ウィンターさんだけが思い悩む必要はありません。……ですから、そんなに辛そうな表情で肩を震わせて泣かないで下さい」


「……ふふ、参ったな。一度流して体裁を整えたつもりだったのに、どうやらキミには隠し事は出来ないらしい」


 ウィンターさんはそう言いながらこちらに振り向いて笑顔を見せる。


「今は何も言わないでおくよ。……その代わり、レベッカを頼むよ」


「任せてください」


 僕はそう笑顔で返事をして、去って行く彼を見送ったのだった。


 ……ウィンターさんが去っていき周囲が静まり返ってから僕は息を整える。


「……ふぅ」


 レベッカの話だろうとは思っていた。


 しかし、ここまで深刻な理由でウィンターさんに話をされるとは予想外だ。あんな悲痛な顔で娘であるレベッカを僕に託されるとは想像でも出来ないし考えもしなかった。


「(さて、一旦戻ろうか……)」


 一度長老様の屋敷に戻ってこの後どう動くか決めよう。

 そう考えて僕も帰ろうとするのだが。


「うおっ!?」


「ふはははは!! 人の顔を見るなり『うおっ!?』とは、随分なご挨拶ではないか!」


 突然、巨体の長老様が背後から現れて驚いていた僕に、セリオス長老様は年齢を感じさせない高らかな笑い声を上げた。


「長老様……いつから見てたんですか?」


「ふはは! いつからも何も今さっきここに来た所じゃ!!」


「いや、嘘つかないでくださいよ!? タイミング良すぎますし、さっきから気配を薄くして覗いていたのだって気付いてましたからねっ!」


「ふはははは!……ん、気配じゃと? いや吾輩は本当にたった今来たばかりであるが……」


 三メートルはある筋肉隆々のその老人は首を傾げる。いかつい見た目の割に愛嬌のある動作だった。


「……本当に?」


「ふはは! そもそもこの図体では気配を隠しようがあるまい!?」


「……確かに」


 この人は自分の屋敷の中を闊歩する時も姿勢を曲げているくらいだ。何処かに隠れようとしてもその巨体がはみ出てしまうので気配を隠しようもない。


「……長老様じゃない事は分かりましたけど、どうしてここに?」


「うむ。ウィンターの奴、妙に真面目な顔をして婿殿を呼び出したので少々気になっておった。


 だから様子を見に来たんじゃが、どうやら話はもう終わったようじゃの?」


「はい、ついさっき」


「……ふむ。婿殿の様子を見る限り、婿殿はウィンターから何か聞かされたようじゃが」


 長老様はそう言って僕の様子をじっくりと観察する。


「……レベッカの事かの?」


「……長老様、初めから気付いていたんじゃないですか?」


「ふははは! まぁ可愛い孫のことじゃからのぅ! ……して、奴はなんと言っておった?」


「内緒です」


「ふはははは!! 吾輩に隠し事など中々に豪胆であるぞ!!

 良い、別に無理には聞こうとは思わぬ! レベッカは吾輩の孫娘。そして婿殿はその伴侶であるのだからの!」


 長老様はそう言って笑い声を上げると「ではな」と言って去って行く。


「え? あ、はい……」


 いや、もう全部分かってんじゃん……。

 そう思いながら僕は長老様の後を追って屋敷に戻るのだった。


 ……しかし、途中の気配は一体誰だったのだろう。

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