第972話 モブ村人に転職した主人公

 ヒストリアの村の生活を始めて10日目――


「ふははははは!!皆の者、今日も大地の女神ミリク様に感謝するのだ!!」


 朝の朝礼にて長老様は村の皆はそう呼びかけると、皆が「感謝します!」と言って手を合わせて祈り始める。


「では皆の者、解散!!」


 長老様がそう言うと、皆が散り散りに自分の家に戻っていく。


 この村では早朝に長老様の元へ集まり、こうして毎日祈りを捧げた後に解散するのだ。


 僕達も村の生活に慣れてきたのでこうして参加するようになったわけである。


 それから各々朝食を済ませた後、それぞれの仕事に入る。


 男性は狩猟の為に武器を見繕った後に山を降りて野生の動物や魔物を狩って夕方には戻ってくる。


 女性は畑仕事をしたり、神殿や家などで家事をしたり、狩猟で仕留めた獲物の解体などのお手伝いをする。


 僕達は基本的にお客さん扱いだから基本的に自由に過ごして良いと言われている。


 もっとも村で出来る事はあまり多くないので、彼らの仕事を手伝っている。


 ちなみにレベッカは両親と一緒に居る時間を取るために神殿に向かってお手伝いをしているようだ。


 僕とアカメは主に畑仕事を手伝っており、ルナやリーサさんは僕達のサポートをしてくれている。


 カレンさんとエミリアは時々村の人達と一緒に山を降りて狩猟の手伝いや、得物や魔法の扱いなどを村の人に教えている。


 ノルンや姉さんは村の風習に興味があるらしく、村人たちと積極的に交流をしているようだ。


 王都に居た時と比べて不便な事は多いが、これはこれでやりがいがあってそれなりに充実した日々を送っている。


 ただ、僕としては魔法学校の生徒たちとしばらく顔を合わせられないのでちょっとしたホームシックになりつつある。


 え、初日に既にホームシックになってたって?


 …………あ、あれはお布団が懐かしくてつい……。


 僕は作業する手を止めずに考え事を始めた。


「お兄ちゃん、手が止まってる」

「あ、ごめん」


 畑仕事の最中に手を止めて考え事をしていた僕に、アカメに注意されて僕は慌てて手を動かし始める。


 その様子を眺めていたルナが笑いながら僕に言う。


「サクライくん考え事してたの?」


「うん。王都を出たから、しばらく生徒たちの顔を見れてないなーって……」


「あはは、帰ったらサクライくんは魔法学校の教師に就任するんだもんね。子供達の様子が気になっちゃうよね」


「まぁね」


 ルナの言葉に苦笑しながら僕は畑を耕しながら頷く。


「……そういえばお兄ちゃん。宿題の方は進んでる?」


 アカメが手を止めて僕に質問してくる。


「宿題? ああ、ハイネリア先生に出題された論文の事だね」


「そう」


「遊覧船に乗ってた時から少しずつ進めてるよ。特にこの村に来てからは王都と環境が全然違うから色々参考に出来て助かってるよ」


「それならいいけど……」


「えっと、確か異文化を学んでそれを教育に活かすための論文を纏めるんだっけ? ……漠然とし過ぎて私には全然分かんないよ……サクライくんも大変だねぇ……」


「あはは、まぁね」


 ルナの言葉に僕は苦笑しながら畑を耕す。


「その論文は、この村で過ごしている間に仕上げるつもりだから心配しないでいいよ」


 僕がそう答えるとアカメが感心したように僕を見る。


「流石お兄ちゃん、天才」


「いや、それは買い被りすぎというか……」


「かっこいい」


「その世辞は嬉しいから受け取っておくよ」


「大好き」


「僕もアカメの事が好きだよ」


「女たらし……」


「待って、今なんで罵倒されたの!?」


「……冗談。お兄ちゃんはそんな人じゃないって知ってる」


「アカメ……!」


 アカメの言葉に僕は感動して目をキラキラさせながら彼女の方を見た。

 が、代わりにルナのジト目が僕の視線とぶつかり合った。


「サクライくん、妹にもそういうこと言うんだ……」


「え」


「私には何も言ってくれないの?」


「え、ええと……」


 僕はルナのジト目に気圧されながら言葉に困ってあたふたする。


「……やっぱり、女たらし?」


 アカメが首を傾げて先程と同じ言葉を僕に問いかける。

 すると、ルナがクスクスと笑い始める。


「……ふふ」

「……クスクス」


「もう、揶揄わないでよ……」


 ルナとアカメに揶揄われた僕は苦笑いしてため息を吐く。そんな様子を少し離れたところからノルンと姉さんがやってきて声を掛けてくる。


「おーい、三人共ー」

「昼食の準備が出来たわよー」


 姉さんとノルンは僕達に声を掛けてくる。


「分かったー!!今行く」


 僕は二人にそう返事すると、立ち上がってルナ達に向き直る。


「よし、昼食にしよう!」


 そしてそう言うと、二人と共に皆の所へ歩いていくのだった。

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