第968話 レイくん鋭い

 前回のあらすじ。ミリク様が勝手に出てきた。


『おーい、早く案内するのじゃ!! 先に部屋を出るぞー!』


「お、お待ちくださいましミリク様!!!」


 部屋の出口から勝手に出ていこうとするミリク様に、慌てた様子でレベッカが慌てて追いかける。


「……これは色々面倒な事になりましたね」


「そうね……計画の邪魔されなければいいのだけど……」


 エミリアとカレンさんが深刻な表情で呟く。


「計画? 何それ?」


「……あ、いや、何でも……」


「れ、レイ君は気にしちゃダメよ。私達の個人的な事だから」


「そうなの?」


 二人は誤魔化すように笑みを浮かべる。

 まぁ二人が言いたくないなら無理には聞かないけど……。


「……」


 今回の旅行の計画はカレンさんに誘われたものだ。発案はレベッカによるもので、純粋に故郷に帰りたいという目的だと思っていたが、何か他に理由があるのは察していた。


「(……となると)」


 旅行に来てから女の子達の様子がおかしくて、僕に内緒で集まって話し合いをしている雰囲気がある。


 それに昨日のアカメの態度もいつもと違ってたし、これはもしかして……。


「(あの件、かな……)」


 いつか答えを出さないと皆に失礼だと考えていたけど、どうやら先延ばしにし過ぎたみたいだ。


 レベッカが僕を両親に会わせたがっていた事や、長老様の僕への呼び方。そして、昨日のアカメの意味深な僕への質問。これらをひっくるめて考えると、いくら僕でも結論に辿り着く。


「サクライくん、どうしたの?」

「ん、いや……」


 ルナが不思議そうな表情で僕を見る。

 この子もやっぱり『計画』とやらを知って参加しているのだろうか?


「???」


「何でもないよ。ミリク様を放置するとロクな事にならなそうだし、僕達も行こうよ」


「うん」


 僕は考えるのを止めて、ミリク様の後を追うように部屋の出口に向かう。ルナも僕の隣に並んで歩く。


「……ねぇサクライくん。今回は旅行を楽しんでくれてる?」


「うん、色々ハプニングもあった気がするけど。皆とこうして旅行するのは楽しいよ」


「……良かった」


「……っ」


 ルナの屈託のない笑顔を見て、僕は思わず顔を赤く染めて逸らしてしまう。


「? サクライくん?」


「な、何でもないよ」


 ルナはそんな僕の様子を不思議そうに見ていたが、特に追及することもなく僕達は部屋を出た。



 ◆◇◆


『ふぉぉぉぉぉ!!! ここが儂の為に作られた神殿か!! なんと煌びやかな!! まるで儂の内面を写したかのような美しき建造物!!』


「うっさいわねー……」


 テンションが爆上がりのミリク様を見て、姉さんは眉をひそめて不満そうに呟く。


 姉さんはミリク様が来てからずっと不機嫌そうだ。


「ミリク様、ここは神殿の中なのであまり声を大きくされるのは……」


『ん? 何故じゃ? ここは儂を崇める為の場所じゃろ?』


「いえ、その……この神殿は女神ミリク様を信仰している人達が集う場所でございます……」


『うむ!素晴らしい事じゃの!』


「ですから、あまり騒がれると他の方も迷惑しますので……」


『何故じゃ?』


「え」


『神を信仰するからといって、何も厳粛に崇める必要などあるまい? ワシはそのような堅苦しい事は好まんし、むしろ賑やかな場所の方が儂にとって好みじゃがのぅ』


「……ミリク様」


『まぁ儂が特別変わっておるだけかもしれんが。例えばあの堅苦しいイリスティリアであれば対応はまた違ったじゃろうな。

 じゃが人が十人十色であるように、神も千差万別じゃ。神とて人と同じで、性格も違えば好みも違う。そして儂はおぬしらの信仰する女神ミリクなのじゃから拘る必要ないと思うがの』


「ミリクがまともな事言ってるわ」


「姉さん、今はちょっと黙ろう?」


「むぐっ」


 また二人が喧嘩しかねないので、僕は姉さんの口を塞ぐ。


「……とはいえ、今はここのルールに従った方がいいんじゃない? 貴女の可愛い信徒のレベッカを困らせるのは本意じゃないでしょ?」


  ノルンは冷静にそう言った。


『む、国土神のクセに意見しおって。まぁ一利あるの』


 ミリク様はノルンの言葉に若干上から目線ではあるが、納得した。


『ふむ、しかしまぁここは本当に素晴らしいのぅ……神殿はこうでなくてはの』


 ミリク様はそう言いながら、目を輝かせて辺りを見回して走り出した。


「ああっ、ミリク様!!お待ちくださいまし!!」


『待たぬ! 儂は自由じゃ!! この神殿を隅から隅まで見て回るぞ!!』


 レベッカが慌てて追いかける。


「……あの女神、本当に大丈夫かしら?」


「まぁ……ちょっと不安だけど」


 そんな僕達の心配をよそに、ミリク様は楽しそうに走り回っていた。

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