第967話 ???「死ねばいいのに」

 前回のあらすじ。


『真・ミリク様、ここに参上じゃあああああああ!!!!』


 ミリク様に似ていない女神像の話で盛り上がっていたら本人が降臨した。


「まぁ……」


 リーサさんは初めて見る女神様に驚きの表情を浮かべる。


「み、ミリク様……」


 久しぶりに登場したミリク様は出現と同時に叫んだと思ったら、そのままゆっくり地上に降りてくる。そして。


『ふぅ、スッキリしたのじゃ』


 ミリク様はやり切った顔で、その場に座って胡坐をかく。


「何やってんすか、ミリク様」


 出現時だけ神々しいのに、出てきた瞬間に威厳の欠片も無いミリク様に思わずツッコミを入れる。するとミリク様は僕をジト目で不満そうに見る。


『……』


「ミリク様、もしや何か仰りたい事が?」


 レベッカがその場にしゃがみ込んで彼女に視線を合わせて問う。


『……何故じゃ』


「え?」


『ここに旅行に来るのを分かっておって何故儂を誘わなかったのじゃ!! ここは儂を崇め奉る場所じゃろ!?』


 ミリク様は突然立ち上がって、泣き怒りながらレベッカに訴える。


「え、えっと……その、それは……」


 レベッカが何を言おうか僕達に視線を求めて助けを求めてくると、姉さんが呆れた表情でミリクに言う。


「普通、神様を誘うわけないじゃない。長く歳を取り過ぎてボケたの?」


『うっさいわボケェ!! ふ……お主のような下級神には儂の様な高位の神の孤独が分かるまいよ』


「あ?」


 姉さんはミリク様の言葉にピクリと反応して、額に青筋を浮かべる。


「姉さん落ち着いて、顔が怖くなってる」


「……あ、あはは……冗談よ。怒った振りをしただけ♪」


「(明らかに本気で怒ってるように見えたわ……)」


 レイに言われて取り繕うベルフラウの言葉にノルンは心の中で突っ込む。


「で、結局何しに来たんですか?」


『こほん……お主らがこの土地に遊びに来たことをイリスティリアに教えられてのぅ。折角なので儂もお主らと旅行を楽しみたいと思い、こうしてわざわざ顕現してやってきたのじゃ』


「一生出てこなくて良かったのに」


『あ!?』


 姉さんの呟きに今度はミリク様が切れる。この二人、仲悪いなぁ……。


「要するに、僕達と旅行を楽しみたいって事ですか?」


『うむ! 流石儂の勇者! この行き遅れの元女神と違って話の本質をよく理解しとる!』


「誰が行き遅れよ!? 行き遅れとか言い出したら貴女なんか数百年単位で行き遅れてるでしょうが!!」


『うっさい、バーカバーカ!! 儂は最高神やっとるし、定期的に儂好みの男の子を摂取しとるから何の問題も無いんじゃ!!』


 子供か。


「え、定期的に?」


「今この駄女神、とんでもない事を口にしましたよ」


「二人とも、聞かなかったことにしよう」


 ルナとエミリアがミリク様の言動に驚く中、僕は二人に対して耳を貸さないように言う。


「……やっぱりこの世界の神は滅ぼして良かったのでは」


 後ろでアカメが不穏な事を口にしてるけど、とりあえず今はスルーだ。


「ノルン、さっきから黙ってどうしたの?」


「……気にしないで、カレン」


 カレンさんの心配そうな言葉にノルンは返事をする。ノルンは二人の言い争いを聞いて気分が悪くなったようだ。


「大丈夫?」


 僕は心配してノルンに声を掛けるが、彼女は無表情で「問題ないわ」答える。


「(行き遅れ……私も樹になってた時間を換算すると千年超えてるから他人事じゃないわ……)」


 二人の口喧嘩に流れ弾を喰らって地味にダメージを受けていたノルンだった。


「ぐぬぬ……!」


『がるる……!!』


「あのベルフラウ様、ミリク様、その辺で……」


 レベッカは二人の喧嘩がヒートアップする前に止めに入る。


「ミリク様が良ければ、僕達と一緒に来ます? 僕達、今はこの神殿の見学中なんですが……」


『お、良いのか?』「!?」


 良いと言わないと、このやり取りがいつまでも続きそうだったから……。

 だけど、僕がそう言った瞬間、姉さんに凄い表情された気がする。


『うむ! ならば案内を頼むぞ!!』


「だ、駄目よレイくん。今回の旅行は身内だけで楽しむって話だったでしょ?」


「んー、それはまぁそうなんだけど……」


 僕は姉さんに言われて二人以外に視線を向ける。


「皆はどう思う?」と僕が皆に質問すると、レベッカは「わたくしは構わないのですが」と答える。


「ただ、この後わたくしの両親と夕食する予定がありまして……ミリク様の事はどう説明すれば良いのでしょうか?」


「流石に信仰先の神様とは言えないよねぇ……」


 レベッカの言葉にルナは苦笑して同意する。


『そうじゃのう? この国で正体を明かすと流石に騒動になってしまいそうじゃし、何かしら変装をするべきじゃろ』


「いや、変装は要らないんじゃないですかね。だってこの女神像全然似てないですし」


『むむ……確かに似とらんの……』


 ミリク様は女神像を見て眉間に皺を寄せて不満げな顔を浮かべる。


『儂を模った女神像の割に美しさが足らん』


「代わりに知性はありそうだけどね。本物はポンコツで頭悪そうだし」


『誰がポンコツで頭悪そうじゃと!?』


「あ、ごめんなさい。本当に頭悪いのよね」


『ぐぬ……! お主、いつもより儂に毒吐くのが酷いぞ……?』


「そうかしら?」


 ミリク様が涙目で姉さんを睨みつける。


『ま、まぁ良い……変装は良いとして、流石に本名を名乗ってしまうとバレる可能性もあるし、何かしら考える必要があるの? ……そうじゃの』


  ミリク様は口元に人差し指を当てて考える。そして数秒後、何か閃いたような表情を浮かべてニヤリと笑みを浮かべ、僕の背後に回り込んで僕の肩に腕を回してくる。


『よし! ひとまず儂はレイの親族を名乗ることにしようぞ!続柄は……まぁ無難に”姉”という事でよかろ?』


「却下です」

「それはちょっと」

「死ねばいいのに」


 僕とカレンさんは苦笑して駄目出しをする。

 姉さんに関しては露骨な反応を見せていた。


『な、何故ダメなのじゃ……? というか、ベルフラウ、お主今何を言った!?』


「ええー、何もー♪」


 ミリク様に詰め寄られた姉さんはニコニコと笑顔で誤魔化していた。


「姉さん、ミリク様が気に入らないからってさっきから酷いよ。少しは優しくしてあげて?」


「む、むー……分かったわよ。でも”姉”は絶対ダメよ。私のポジションを奪い取るのだけは許さない。どうしてもというなら戦闘も辞さないわ」


『こわっ!?』


 姉さんの何故か本気の殺気にミリク様は思わず後退る。ちなみにアカメは無反応だったが、姉さんと同じく不満そうな顔をしていた。


「そうねぇ、どうしてもレイくんの家族のポジションを譲るとするなら………お婆ちゃんでいいんじゃない?」


『おば……!』


「いや、流石にそれは可哀想だし……叔母(おば)さんで良いんじゃない?」


『お、叔母さん……いやいや、儂の外見年齢なら”姉”が妥当じゃろう?』


「いやだって姉さんが嫌がってますし……どうしてもって言うなら、レベッカの姉辺りが一番似合うと思いますけど……」


 外見も衣装も結構似てるし。だけどレベッカは難しい顔をして言った。


「ここはわたくしの故郷でございますし、流石にそれは……」


『むぅ、うーむ……ならばどうすべきかのぅ……』


 ミリク様が腕を組んでウンウンと悩み始める。


『じ、自分でも無理があると思うが”妹”というのは……』


「……」


 ”妹”という言葉が出た瞬間、露骨に殺気を向けるアカメ。


『……い、今のはナシ。……じゃ、じゃあレイの”母”というのはどうじゃ?』


「(いや、美鈴お母さんと全然似てないし)」


 勝手に人のお母さんを名乗らないでほしい。だけど、このままだと話が纏まらないし仕方ないか……。


「……うーん、正直滅茶苦茶不本意ですし、家族の思い出を汚された感じで嫌ですが、今はミリク様も困っていますし”母”ということで了承します」


『露骨な不満を漏らすでない』


「言葉にしている分、不満が一番伝わりやすいわね」


「レイ様はちゃんと言葉にして返す辺り誠実でございますが、もう少し言葉をオブラートに包んだ方がよろしいかと思います」


 カレンさんとリーサさんに言われてしまった。


『……じゃが、これで儂はここに居る間はお主の”母”を名乗って良いのじゃな!?』


「人に質問された時、誤魔化しきれなくなった時だけ許可します。できれば口を噤んでいてください」


『神様に対して不遜すぎんか、お主ら?』


 ミリク様は不満そうだが僕にとって家族は特別な存在だし、不可侵領域に土足で踏み込まれるのが嫌なのだ。


 別にミリク様の事が嫌いというわけではない。


『まぁ良いわ。名前は後々考えるとして、儂もお主らの旅行に参加するぞ!』


 ミリク様はそう言って機嫌良さそうに部屋の出口に向かっていった。

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