第958話 最後はフィジカル

 無事に第一関門を突破出来たレイ一行。


「レイ様、見事な御手前でございいました」

「見事なもんじゃのう」


 レベッカと長老様はそう言ってレイを賞賛する。


「あ、いやそんな大した事は……」


 そもそも僕自身はアイデアを思い付かなくてカレンさんにアドバイスを貰った結果だし、何ならレベッカは一人で簡単に跳び越えていったのであんまり凄いことした感じはしない。


 とはいえ、力の弱い姉さん、ノルン、ルナの三人もロープを使えば問題なく登ってこれたから、このアイデアを試して良かった。なお同じく力が弱いと思われていたエミリアは意外と運動神経が良いためロープを使わなくてもスイスイと僕の後を追ってきた。


「エミリア、やるじゃん」


「お、私が運動神経悪いと思ってました? これでも元ソロ冒険者ですよ?」


 エミリアは僕の言葉に楽しそうに笑う。


「(クイクイ)」


 僕達が話をしているとアカメが横から僕の袖を引っ張ってくる。


「ん、どうしたの?アカメ」


「……私もロープ無し」


 そう言いながら僕を上目遣いで見る。


「……」


 なにこのいもうとかわいい。おもわずナデナデしたくあげたくなる。


「……ぅ」


 しました。

 無表情の多いアカメだけどこういう時は小動物っぽくてかわいい。


「むぅー、レイくん。お姉ちゃんもちゃんと登ってこれたよ♪」


 するとアカメの頭を撫でた事に軽い嫉妬をしたのか姉さんが僕の背後から胸を押し付けてくる。


「はいはい、凄いね女神様」


「もー女神様なんて他人行儀~! ほらほら、お姉ちゃんも撫でて~! ぎゅうぎゅう♪」 


 姉さんはそう言って更に強く僕を抱きしめてくる。


 胸を押し付けられるのは一応男として色々クるものがあるのだけど、義理の関係でも姉弟なのでここは素っ気ない態度を取らなければいけない。


「姉さん、暑苦し――」


「ロープないと登れない虚弱女神」


 ……僕が苦言を口にしたら隣のアカメに言葉を重ねられてしまった。


「しかも登ってる最中の顔がお兄ちゃんに見せられないくらい崩れてた」


 アカメ、容赦なくトドメ刺すの止めてあげて?姉さんの顔が凄いことになっているから。


「アカメちゃん、それ言わないでぇ~~!!」


「……あと無駄に大きい胸はお兄ちゃんに有害、接触は厳禁」


 追撃まで余裕でこなすアカメは姉さんに対して超辛辣だ。


「アカメちゃん、お姉ちゃんに厳しすぎぃ~~!!」


 姉さんは涙目になって何故か僕をポカポカと殴るが、威力はエミリアの猫パンチの1/10以下の威力なので痛くない。


「ふはははははは!! 仲が良くて結構結構!」


「皆様、そろそろ先へ進みましょう」


 長老様は姉さん達のじゃれ合いを見て楽しそうに笑うが、レベッカはそれを見て苦笑いを浮かべながら先へ進むよう促してきた。


「おっとそうだな! それでは婿殿、先に進むとしよう」


 長老様はそう言って僕達を先導する様に、今度は険しい山道を登っていく。先程のように岩壁を登っていくわけではないため、多少は楽に進むことが出来るがそれでもかなり角度の険しい山道は僕達にとっても大変だ。


 それでも少し前に山道を登った経験を活かして出来るだけ皆高まって動く。


 もし誰かが途中で足を取られても後ろに居た仲間がフォローできるし力が足りなければ先導する仲間が後続を引っ張る事も出来る。


 ……もっとも、普通に飛行魔法を使えばそんな面倒な事をやらなくていいのだけど。


「(エミリア、長老様に内緒でこっそり飛行魔法使ってみて)」

「(りょ)」


 エミリアは僕に頼まれたとおりに、長老様の隙を伺ってこっそり飛行魔法を行使する。


 目立たないように僅かに足を浮かせる程度だが、それでも確かにエミリアはちゃんと飛行魔法を使えていた。エミリアはすぐに飛行魔法を解除すると、僕の方を見て親指をグッと立てる。


「(……ちゃんと使えるっぽいね)」


 長老様の話だと山には結界が張ってあって飛行魔法が使えないって言ってたんだけど……。


 僕は不思議そうにエミリアがこっそり飛行魔法を行使した足元を見つめる。


 するとエミリアは僕を見て小さく笑った。


「(内緒です)」


 そう言って人差し指を口元に持っていき、再び飛行魔法を行使する。今度は足だけではなく全身を宙に浮かせるとまるで海月のようにふよふよと空中浮遊して見せた。


「(よーし、僕もちょっとだけ……)」


 エミリアの真似をして僕もちょっとだけ飛行魔法を発動してみる。


 すると一瞬僕の身体がふわっと浮き上がり―――


「!?」


 次の瞬間、自身の重力が数倍に膨れ上がったように上空から圧力を感じて飛行魔法が途切れてしまった。


「ん? 婿殿、今何かしたか?」


 レベッカと一緒に先行していた長老様がこちらを振り返って怪訝な表情で言う。


「い、いいえ、何も!!」


 僕は慌てて否定して誤魔化す。


「ふはは、そうか。吾輩はてっきり婿殿がズルして空を飛ぼうとしたのかと思ったぞ!」


「(ギクッ)」


「お爺様、レイ様は誠実で紳士的な方なのでそのような事はなさいませんよ」


「まあ、そうかもしれんな。ふははは!」


 長老様は僕の事を冗談のネタにしながら再び山道を登っていく。


 ……が、内心冷や汗ものだ。危うく長老様に飛行魔法を使っているのを見透かされるところだったよ……。


 ◆◇◆


 それから二時間後――


「ぜぇ、はぁ……」(レイ)


「……大丈夫?(レイの背中に背負われている)」(ノルン)


「……(目立たないように10cmくらい浮いている)」(エミリア)


「足が痛い……エミリアちゃんズルいよ……(足を抑えながら頑張って歩く)」(ルナ)


「……疲れた……(背後に手を回している)」(アカメ)


「ふぅふぅ……ごめんね、アカメちゃん(アカメの手を握って遅れないようにしている)」(ベルフラウ)


「リーサ、平気(隣のリーサさんを気遣いながら)」(カレン)


「少々息切れが……ですがまだまだ平気でございます(意地を張って)」(リーサ)


「ふはは、皆お疲れのようだな! しかしこの先に滝が見えるぞ!」


 僕と姉さん、ルナ、アカメの四名が全員ヘトヘトな状態で山道を登っていく。その前をレベッカと長老様が先導して歩いている。


 二人共余裕そうに山登りしているけど僕達から見ると疲れ知らずとしか言いようがない。レベッカは体力的には僕達と差が無いのに何故かピンピンしている。


 懐かしの故郷が近くて普段よりも元気があるのか、それとも慣れた地のためか。長老様は言わずもがな、レベッカも長老様と同じようにズンズン山道を登ってゆく。


 すると一瞬、僕達の上空に影が差した。


「んん?」


 長老様が怪訝な声を上げて上空を見上げる。


「おや……アレは飛びトカゲではないか?」


「……飛びトカゲ?」


 聞いたことない魔物の名前だと思い、僕達も遅れて上空を見上げる。


 すると、大きな翼を持った全長五メートルくらいのトカゲが……って!!!


「何が飛びトカゲですか!! ワイバーンじゃないですかぁ!!!」


 僕は慌てて剣を取り出して構える。


『クワァァァァァァ!!!』


 ワイバーンは僕達の存在を確認すると、大きく口を開けて火炎を放ってきた。


 普段なら危なげなく回避する所だが、山登りで疲労していた僕達は慌てた様子で散開してどうにか事なき終える。


「あちちち!! あつっ!!」


 直接狙われた僕はワイバーンの火炎を剣で防ぐが、その炎は熱くて火傷しそうな程だった。


「レイ君! 大丈夫!?」


 カレンさんが慌てて僕の心配をして声を掛けてくれる。


「大丈夫、ちょっと当たったけど……」


 そう言って僕はカレンさんを含めた皆に無事をアピールする。しかしこんな時に竜種の魔物のワイバーンと遭遇するなんて運が悪い。


「(いや、長老様は山の魔物は凶暴って言ってたっけ)」

 

今まで魔物には遭遇してなかったけど、なるほどこんなのがウロウロしてるとするなら確かに険し過ぎる山道だ。


 ヒストリアの村の人はこんな険しい道中をどうやって往来しているのかと不思議に思うが、もしかしたらそんな険しい道を行き来しているからこそ結界で村を守っているのかもしれない。


「婿殿、また攻撃が来るぞ!」

「!」


 長老様の大きな声で僕達はワイバーンを注視する。先程の火球の攻撃は様子見だったのだろうか。ワイバーンは大きく深呼吸して最初の倍くらいの大きさの炎を口から放ってくる。


「皆、散開――」


「婿殿、ここは吾輩に任せろ! ………どぉうりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 僕が散開の指示を出す前に長老様が近くにあった巨大な岩を持ち上げて、ワイバーンの炎に放り投げる。


『クェ!?』「は!?」


 長老様のまさかの岩石投げに僕とワイバーンの声が被った。


 ワイバーンもまさか岩をぶん投げてくるとは思わなかったのだろう。岩は炎を押しのけてそのままワイバーンの顔に当たっていく。


 そして……岩が当たった衝撃でワイバーンの首があらぬ方向に曲がってしまった。


『!?!?』


 ワイバーンは声を出せなくなったのか、必死に翼をバタつかせながら崖の下へと落ちていった。


「激しい戦いであったな、婿殿」


「お爺様の岩石投げで速攻で勝負が付いてしまわれましたが……」


 長老様の言葉にレベッカが珍しく突っ込む。


「そうか? ふははははははは!! 次は吾輩は遠慮して婿殿に任せるとしようかのぅ!!」


「い、いや別にそんな遠慮しなくても……」


 僕はそう言ってフォローしようとするが長老様は我が意を得たりとばかりに嬉しそうに笑った。


「それは重畳! それでは皆の者、先に進もうではないか!」


「ふふ、お爺様は相変わらずですね」


 そんな長老様の姿を見てレベッカも楽しそうに笑うのだった。

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