第957話 岩壁を登ろう!
セリオス長老様に連れ去られたレベッカを追うためにレイ達は食事の片付けを済ませて、周囲を散策しながら二人の待つ山の麓に辿り着いた。
「レイ様ーー!!!」
「ふはははははははははははは!!! 婿殿達も山を登りたくてもう来たようじゃ!」
僕達が麓に辿り着くと先に待っていたレベッカと長老様が大きく手を振る。
「別に登りたくて来たわけじゃないんだけど……」
「案内人に来いと言われて無視するわけにもいきませんものね……」
長老様の言葉に僕達は苦笑する。
「そうか、それもそうであったな! では早速向かうとするか!!」
長老様はそう言って今から登る山の頂上に視線を移す。
「この山を登った先の頂上付近に我々の村がある。特殊な結界が張られているためここからではその佇まいを見ることは出来ぬようになっておるが……さ、気合を入れて登るが良い」
「登るが良い……といわれても……」
僕は呆然としながら眺める。見た感じ、上の方には道らしい道があるものの肝心の麓から上に向かうための山道らしき道がない。
どうやって登るのだろうか?
「ふむ? もしや婿殿達は山登りは初めてか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……下の方に道らしいものが見当たらず、崖のような岩場しかないのでどうやって上に上がればいいのかなって」
「ふはは! そんなの簡単な事よ!!」
長老様はそういって何も掴む場所がない岩壁に向かって大きく跳躍する。
「とうっ!!」
そうして五メートルほどの高さまで跳躍したところで、僅かに足場が飛び出た岩場のところに片足を乗せて更に上に向かってジャンプ。
「ほっ、と」
今度は両手でバランスを取りながら岩壁を蹴って上昇していく。
そうして高さ二〇メートル程度の場所まで登って、しっかりとした足場に辿り着く。
「ほぅら、婿殿らもやってみよ。要はロッククライミングの要領で登れば良い。
多少運動能力は必要じゃが、吾輩の見立てでは婿殿らは魔法など使わずともこの程度の岩壁なら登れるじゃろうて」
「簡単に言ってくれますね……」
僕は呆れた声を出しながら岩壁に近付いて手で触ってみる。あまり凹凸がないため普通のロッククライミングの方法では登れそうにない。
「(……飛行魔法を使えば特に問題なく登れるんだけど……)」
僕は上に登った長老様の顔を見る。
長老様は僕達がどうやって登るのか今か今かと楽しみに待っている。
「(困ったな……多分、僕一人なら登れなくは無いんだけど……)」
僕は背後をチラリと覗き見る。
そこには姉さんを含めた僕の大切な仲間達が勢揃いしている。
しかし、僕以外は全員女の子だ。
運動能力に優れるカレンさんやレベッカは問題なく登れるだろう。
問題は姉さんを含む他のメンバー。
飛行魔法が使えれば何の問題も無く飛び越えていけるのだが、それ以外のメンバーは基本飛行魔法及び飛行能力を有した手段での移動を得意としている。
逆に言えば長老様のように体一つで山の乗り越える身体能力は有していない。皆、華奢でか弱い女の子だ。彼女達を置いてきぼりにするわけには……。
と、僕が悩んでいるとカレンさんが言った。
「レイ君、こういう時はコレを使うのよ?」
カレンさんはそう言って僕に大きめの釘のような先の尖った鉄の棒とハンマーを取り出す。
「何それ?」
「鉄の楔よ。これを岩壁にハンマーで打ち込んで、それを足場にして上に向かうの。所謂、
「流石カレンさん!!」
僕は頼りになるカレンさんに感動して思わず手を取ってしまう。
「ふふふ、別に大して凄い事じゃないわよ」
とカレンさんは照れたように微笑む。
しかしカレンさんのお世話係のリーサさんは目を細めてカレンさんを睨む。
「……カレンお嬢様……」
「な、何よ?」
「伯爵のご令嬢のカレンお嬢様がそのような知識を持っていることが問題なのですが?」
「ぼ、冒険者歴が長いんだから仕方ないでしょ?」
カレンさんは痛い所を突かれたと言った顔で目を泳がせる。
「というか、普段からそんなものを持ち歩いているのもどうかと……」
「ああもういいじゃない、そんな事は! それよりレイ君、これを使って足場を作ってよ。
レイ君が上の方まで足場を作ったらのそこにロープを括って下まで降ろしてくれたら他の女の子も簡単に登れるようになるわ」
「分かった。じゃあそれ貸して」
僕はカレンさんから鉄の楔とハンマーを受け取り、それを使って自分の目の前の岩壁打ち付けてみる。
かなりの衝撃を感じたが、なんとか楔を打ち付ける事が出来た。
楔を軽く揺すってしっかりと打ち込めているか確認し、そこに鉄の楔を刺した部分を避けてハンマーで数回叩いて地面に打ち付ける。
これで足場は出来たはずだ。
それを足場にしてさらに上に登り同じ事を数度繰り返す。
「……ふむ、堅実な手段で登って行きおるの」
「カッコいいです、レイ様!!」
いつの間にか長老様の所まで登っていたレベッカが長老様と一緒に僕を応援してくれていた。
「レベッカちゃん、いつの間に……」
「後方三〇メートルくらいまで下がって助走を付けてダッシュしたと思ったら、一瞬であそこまで跳んで登って行きましたよ」
「……え? 何それ怖い……」
姉さんがレベッカの事を不思議がっていると見守っていると、背後にいたエミリアが驚愕の事実を口にした。彼女の運動能力はよく知っているけどちょっと予想を超えていた。
「(あの男の孫娘なだけある……レベッカ……)」
アカメはレベッカの隣に居るセリオス長老の姿とレベッカを交互に見比べながら、一人ゴクリと息を呑み込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます