第955話 「(筋肉凄い……)」
前回までのあらすじ。
世紀末覇者のような長老様に連れられて村に向かうことになった。
が、しかし……。
「よぅし、皆の者。今からヒストリアに向かうぞ。少々過酷な道となるのでな、吾輩に遅れずしっかり付いてくると良いぞ!」
「あ、待ってくださいセリオスさん、セリオスさーん!!」
物凄い勢いで走り出そうとするセリオスさんは大声で呼び止める。
「ん、どうした婿殿?」
「いや、走るより空を飛んで向かった方が―――」
・・・・・・?
「セリオスさん、今の僕の事をなんて呼びました?」
「む? 婿殿だが」
「……?」
今、聞き捨てならないワードが聞こえてきた。
「……レベッカ?」
「!!」
僕が彼女の方に視線を向けるとレベッカは僕から全力で背を向ける。他の仲間達は苦笑いを浮かべているが、僕からの視線を向けられるとやっぱり目線を逸らそうとする。
「(……これは、色んな意味で問い詰めないといけないね)」
そう考えていると長老様のセリオスさんが話しかけてくる。
「ふむ、婿殿。うぬは今、空を飛ぶと言ったような気がするのであるが」
「その前に婿殿という単語を出した理由の詳細を聞かせてください」
「済まぬが隠れ里であるヒストリアの周囲には特殊な結界が張られており、空を飛べば結界に感知されて効果が弱体化されるようになっておる」
いや無視しないでください。
「セリオスさん、それだと移動が不便過ぎませんか?」
姉さんはもっともな疑問を投げかける。
するとセリオスさんは若干バツの悪そうな顔をした後に言った。
「安心せい。一度でもヒストリアに訪れた者は結界の対象外になっておる。だが最初だけは魔法によるズルは出来んぞ」
「ず、ズルって……」
エミリアが不満そうな顔をする。
「ふははははははは!!!! そう睨んでくれるな。とんがり帽子の女子よ!!」
「!?」
「別に魔法を軽視しておるわけではない。
だが―――見よ、この自然溢れる大地を!! この大陸を包み込む母なる海を!!そして、大陸の中心でまるで天へとその大地を伸ばそうとするかの如くそびえ立つ霊峰・テスタロッサを!!」
「はぁ……」
長老さんの謎の勢いに若干引き気味のエミリア。
「我らは幾度もこの大陸が滅びるかどうかという危機を乗り越えてきた!!
この大陸に住まう全ての生き物は、自然という大いなる母から生み出された欠片であり子だ! その雄大で美しい大地を我欲の為に汚すなど言語道断である!! 我らは、この大陸に住まう全ての命と向き合ってこそ初めてヒストリアの長足り得るのだ!!」
「……は、はぁ」
「うぬらも我らと共に苦難を乗り越え、自然と共に生きようぞ!!」
「……レベッカちゃん、長老様っていつもこんな感じなの?」
「お、お恥ずかしながら……」
ルナの質問にレベッカは両手で顔を隠して答える。
「ふはははは!! では行くとするか!!」
そう言って長老さんはドスドスと大きな足音を立てながら走り出す。
「と、とりあえず追おう……!! 皆、無理だと思ったら無理せずに飛行魔法使っていいからね……!」
僕は皆にそう言ってから駆け出す。結界がどうのとか言ってたが、あくまでそれは村のある周辺の話だ。道中は問題ないだろう。
……そう信じたい。
「あ、あのセリオスさん! ちょっと待ってください!!」
「ふははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」
僕は走りながら長老さんの背中に声を掛けて呼び止める。
しかし僕の声が聞こえていないのか、更にスピードを上げて走り出してしまう。そのスピードたるや、もはや短距離走の世界記録を余裕で超えている。
何なら多分その辺の自動車よりも早いかもしれない。
「ち、ちょっと待って……!」
「は、早っ……!!」
僕、カレンさん、レベッカの三人は移動速度を極限まで高める<初速>を使ってどうにか喰らいついているが、他の仲間はどうしようもない。
後ろを見るとエミリアとアカメは即座にギブアップして涼しい顔で空を飛んでおり、後のメンバーは竜化したルナの背中に乗って優雅に空を堪能していた。
……なんで僕達は馬鹿正直に後を追っているのだろう。
「流石お爺様……もう百五十近くだというのに衰えを感じませぬ……!」
「「百五十!?」」
レベッカの呟きに僕とカレンさんの声がハモる。
「ふはははははははははははは!!!自然と一体となってありのままで生きれば人間の寿命など吾輩には無意味!!!されど、それを実現するには強靭な肉体と精神が必要不可欠! 吾輩は、その二つを鍛えに鍛えておるからな!!」
そう言って長老さんは更にスピードを上げる。
「(本当に何なのこの人!!)」
僕は内心悪態を吐きながら全力で走って追いかける。
「む?」
しかし、長老様は急に足を止める。
突然ピタリと止まったため、僕達はそのままブレーキが間に合わない。
「ぐはっ!!」
「きゃっ!?」
ドゴオッ!!……と、人同士が衝突した音とか思えない鈍い音を立てて、僕とレベッカが長老様の巨大な背中に衝突してしまう。
「いったぁ……! ……レベッカ、平気?」
「は、はい……」
物凄い勢いで激突したものの、長老様が直前で筋肉を緩めてくれたお陰かそこまで酷いことにならなかった。
「あ、危なかった……」
並走していたカレンさんは僕達よりも反応が早かったのかギリギリの所で衝突を避けたようだ。
「お、お爺様。急に足を止めてどうされたのでございますか?」
レベッカは鼻を摩りながら長老様に問う。
「うむ、あれを見るがよい、レベッカよ」
長老様は200メートルほど先にある大きな樹の根元を指差す。そこには何か見た事もない巨大な魔物?の姿があった。
何かをムシャムシャと咥えているが、草木でも食べているのだろうか。
「あれはこの大陸の最もポピュラーな動物である。今日も元気にイノシシを狩っておるようだな」
「イノシシ?」
よく見ると、その魔物?はイノシシらしき動物の死骸を貪っていた。イノシシの割にその死骸の大きさはかなり大きく、全長二メートルは軽く超えている。
しかし、そのイノシシを貪る魔物?の大きさはそれらがまるで子供に見えるほどの巨体だった。高さで言えば全長5メートルほどはあるのではないか?
まるでトカゲのように四足歩行だが、その肉体はドラゴンを彷彿させるほどの筋肉質だった。
「あやつはこの大陸に生息する動物の中でも中々の大きさの種族のドレッドリザードじゃ。かなり気性が荒くてな。獲物を見つけるとすぐに襲い掛かるのだ」
「え」
それって近くにいる僕達も危ないんじゃ……?
「む! どうやらこちらに気が付いたようであるぞ、婿殿?」
「婿殿って呼ぶの止めて……じゃなくて、長老様、逃げましょう!!
あんなデカいトカゲに襲われたら一たまりもありません!!」
「は、はい! お爺様、こちらです!」
僕とレベッカが慌ててそこから逃げ出そうとすると、長老さんは物凄い笑みを浮かべながら言った。
「ふははははははははは!!! 吾輩に逃走と敗北という言葉は無いわ!!!
むしろドレッドボアは筋肉質な割に中の肉が上質で柔らかく、丁度良い昼食に出来そうじゃわい!!」
「は!?」
「どれ、ちょっと肩慣らしといくかの………ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
長老さんはそう言ってドレッドリザードに向かって突進する。
「ちょ、危ない!!」
僕は思わず叫ぶが、長老さんはそのままドレッドリザードに衝突した。
しかし……。
「ふはは!! 良い肉質じゃのう! これはいい昼食になるぞ!!」
長老さんがぶつかった瞬間、ドレッドリザードの巨体が宙を舞った。そして数メートル程吹き飛ばされた後に地面に叩きつけられる。
「……」
その光景を見て僕達は呆然としてしまう。
「さ、サクライくん……!!」
声が聞こえたのでふと後ろを見ると、追っかけてきていた仲間達が勢揃いしていた。
その中でルナは竜化の変身を解いたのか人間の姿に戻っており、目の前の光景を見て青ざめた顔をしていた。
「ルナ、大丈夫? 顔青いよ……?」
「へ、平気、それよりサクライくん……。あの長老さんがタックルで吹き飛ばしたトカゲってもしかして……」
「もしかして……?」
長老様はドレッドリザードと呼んでいたけど……。
「あ、あれって恐竜なんじゃ……!?」
「は!? 恐竜!?」
ルナの言葉の意味を理解して、僕は長老様が吹き飛ばした魔物?の姿をよく観察する。確かにその身体は爬虫類のように皮膚は鱗で覆われ、牙や爪も鋭く、額には大きな角があった。
「(た、確かに……昔習った授業で見た恐竜そっくりだ……!!)」
……よく考えたら、長老様はあのドレッドリザードの事を動物と呼んでいた。
僕達はあまりの巨大さに魔物だと思っていたけど、もしかしてこの大陸は、僕達の世界ではとっくに滅んだ恐竜が未だに生存している世界なのではないだろうか……?
「やれやれ、今日も良い獲物が獲れたわい。この調子でどんどん肉質の高い獲物を仕留めていかねばの」
「お爺様……あまり無茶はされぬよう……」
「うむ。レベッカも心配をかけてすまんの……!!
さて客人達よ、折角上質な肉が手に入ったことであるし、ここいらで昼食にするかの? 儂が手料理を振る舞ってやろう!!」
そう言って長老様はドレッドリザードの死体に向かって両手を掲げる。そして……。
「ぬぅぅぅぅぅんぅぅぅ……かああああああああああああっ!!!」
長老様が気迫と共に地面に手を振り降ろすと、轟音と共に大地が割れ、ドレッドリザードの肉体が爆散した。
「……ん? ……ああ、しまった。ついやり過ぎてしまったわい!! ふはははははははーーー!!!」
そう言って長老様は高笑いをする。
「……」
……もう、考えるのは止めよう。
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