第954話 世紀末史上最強のお爺さん

 そして時間になり、遊覧船はついに目的地にたどり着く。


「皆様、長旅お疲れ様でございます。


 港に到着致しましたので、どうぞお降りください」


「はい、ここまでありがとうございました」


「あとよろしくね。リーサ、一緒に行きましょう」


「はい、カレンお嬢様」


 僕達は船員さん達に挨拶をして先に降りる。そして今回はカレンさんのお付きとしてリーサさんも僕達と同行することになった。

 

 乗組員に言われて船を降りるとそこは小さな港で近くには村も町も見当たらない。遠くを見渡すと平原や森が見えており、更に奥には山々が連なっている。


「ここがレベッカの故郷なの……?」


「はい。とても長閑な場所で過ごしやすい場所でございますよ。わたくしの村はあの奥に見える山の方にございます」


 そう言ってレベッカは山の方を指差す。


「い、田舎とかそういうレベルじゃないね……」


「正に辺境といったところですか。これは村に辿り着くのにも苦労しそうですねぇ……」


 エミリアがさっそくダルそうな表情で呟く。レベッカの話を聞いて不安になったのか、カレンさんがリーサさんの方を向いて耳元で質問する。


「リーサ、貴女大丈夫?」


「うふふ、私の事はお気になさらず。カレンお嬢様の為ならば火の中水の中、そして海だろうが絶壁の崖だろうがおとも致しますよ」


「そ、そう?」


 リーサさんの言葉は頼もしいけど、絶壁の崖は流石に勘弁してほしい。


「でもサクライくん、空を飛べば一発じゃないの?」

「あー、それは確かに……」


 ルナの言う通り仮に山の奥地だとしても飛行魔法やドラゴンに変身したルナの背に乗ればそこまで苦労はしないだろう。


「でもレベッカ、長老様が迎えに来てくれるんだよね?」


「はい、もうすぐ既定の時刻でございますしそろそろ……あ、皆様、あちらをご覧くださいまし!」


 レベッカが指差すと少し離れた場所から誰かがこちらに向かってくる。


 おそらく例の長老様なのだろう。僕達は挨拶をする為にその人を出迎えようとしたのだが、近付いてくるにつれて段々と長老様がおかしい事に気が付いた。


「……あ、あれ? 長老様ってお爺さんなんだよね?」

「はい」


 近付いてくるお爺さんはどう見ても老人のそれではない。お年寄りといえば以前のケイローンの町で出会ったお爺さんのように腰を曲げているイメージだと思う。


 でもあの人は服装こそ普通だが、遠目からでもかなり大柄で服の上からでも筋肉隆々の強靭な肉体をしているのが遠めでも分かる。っていうか……。


「うおぉぉぉぉ!!! 我が愛しのレベッカァァァァァ!!!!」


 物凄い漢泣きしながら物凄い勢いで走ってくる。近づいてくる毎にその巨体の大きさが尋常では無いと分かる。


 およそ身長は3メートル弱。老人とは思えない凄まじい筋肉という名の強靭な鎧を身に纏っており凄まじい威圧感と圧力を感じる。

 顔は老人のそれで白髪で長い髭をしているが覇気があり、どうみてもただの老人とは言い難い。


 端的に換言すると、世界観が違う。あれは多分世紀末なんとかとか史上最強のなんとかの達人みたいな人だよ。怖い。


「お爺様ーー!!!」

「レベッカァァァァァ!!!」


 二人は互いを呼び合いながら駆け寄って抱き合った。


「レベッカァ! 会いたかったぞぉぉ!!」

「わたくしもですお爺様ァァ!!」


 数年ぶりの再会に涙ながらに抱擁する二人。


 感動の再会なのだろうけど、体格差があり過ぎて抱擁というよりはベアハッグにしか見えない。


 お爺様に抱きしめられてレベッカの足が浮いてるし、苦しくないのだろうか。


「お爺様、苦しいです……」

「おぉ!すまんレベッカ!」


 そう言ってようやく抱擁から解放されて地面に降ろされるレベッカ。


「こ、この人が長老さん……?」

「……ええと、ご老体なの……よね……?」

「その辺の若い人よりよっぽど元気そうなんだけど……」


 ルナ、姉さん、それにカレンさんが長老様の姿を見て驚き戸惑っている。


「……ん、おお!そこな女子おなごたちがレベッカのお供というわけか?」

「あ、はい」


 長老様がようやくこちらに興味を示したのか、僕達の方を見る。


「は、初めましてベルフラウです」


 姉さんは少し呆気に取られながらなんとか笑顔を取り繕って返事をする。


「カレン・フレイド・ルミナリアですわ。レベッカちゃんにお聞きしていた話よりも随分とパワフルな方で少し驚きました」


 カレンさんが名乗ると隣に立っていたリーサさんが深々と頭を下げる。


「……エミリア・カトレットです。一応、レベッカの親友を名乗らせてもらってます」


「る、ルナです……」


「ノルジニア・フォレス・リンカーネインよ。皆は私をノルンと呼んでいるわ、以後よろしくね」


「……アカメ」


 それぞれが長老様に向かって挨拶を行う。


「……ふむ、皆、中々に器量の良い女子達であるな。我が村での生活を楽しみにしているといい」


 ……なんか、いちいち言動が暑苦しい人だなこの人。


「さて、ということはそこにおる……」

「!」


 長老様は僕の方に視線を向ける。


「は、初めまして。サクライ・レイです。皆は僕の事をレイと呼んでいます」


「ふむ。レベッカの報せ通りの名である。吾輩の名はこのレベッカの故郷のヒストリアの長でもあるセリオスだ。うむうむ、此度の長旅ご苦労であったな」


 そう言って豪快に笑って僕の背中をバンバン叩く。


「い、痛いです……」


「ふはははは!! うぬも男であろう!!そんなナヨナヨした見た目ではなく吾輩のようにもっと身体を鍛えねばな!!」


「は、はい……」


 ……いや、本当に勘弁してほしい。

 その後、僕達は長老様に連れられて村まで案内されることになった。

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