第953話 レイくんと結婚したい(断言)
前回のあらすじ。レイくんの外堀が埋められる。
ヒロインズ達の秘密の会議が終わった頃、ようやくレイが目を覚ました。
彼が気が付くと隣で寝ていた筈のアカメの姿がない。
レイは不思議に思いながらもひとまず着替えを済ませていつも通り食堂に向かう。
が、途中の廊下で急いだ様子で戻ってきたアカメと鉢合わせる。
「あ、お兄ちゃん」
「おはよう、アカメ。やっぱり先に起きてたんだね」
「う、うん」
アカメはレイの返事に何故か視線を逸らしながら答える。
「(ん……? なんか様子が変だな……?)」
普段の彼女なら淡々とした声でもっとはっきりと返事をするのだけど、視線もこちらに向いておらず声も小さい。もしや風邪でも引いたのだろうか?
「アカメ、おでこ貸して?」
「え?」
僕はアカメが返事する前に彼女に近付いて彼女の額に手を当てる。
「……熱はないみたいだね」
彼女の額に当てていた手を自分の額にも合わせて熱を確認するがいつもとあまり変わらない。
その割には妙に元気が無さそうなのだが……。
「もしかして何かあった?」
「……何も無かったとも言えるけど、私の倫理観を揺るがす様な事があったと言えなくもない」
「(どういうこと!?)」
彼女の言ってることがさっぱり分からない。
「ねぇ、アカメ? 一体何があったの?」
「……お兄ちゃんは」
「うん」
「……結婚するの?」
「……」
……オニイチャンハ、ケッコンスルノ……?
「……待ってアカメ、それどういう意味?」
片言にしても理解できなかった。何かの暗号だろうか?
いや言葉の意味は分かるのだけど、何故彼女は突然そんな事を言いだしたのか。
……もしや、アカメに好きな男性が出来たとか?
レイの脳裏にそんな思考が一瞬過った瞬間、レイはアカメから背を向けて頭を悩ませる。
「(いやいやいや! そもそもアカメにそんな男性の知り合いなんて居なかったじゃないか!いくらなんでもその考えは早計過ぎる!)」
「……?」
アカメは突然後ろを向いて悩み始めたレイに首を傾げる。
「お兄ちゃん?」
「!」
アカメの声で正気に戻ったレイはすぐに彼女の方を振り返って無理矢理笑みを浮かべる。
「なんでもない。……どうしてアカメは急にそんな事を言いだしたの?」
「……ちょっと色々あって」
アカメは言い辛そうに視線を若干逸らして頭の中で回想する。
思い出すのは少し前の仲間達の話し合いの事だった。
この件はレイには内密にとベルフラウに念入りにお願いされているので彼に話すわけにはいかない。しかし、何も知らない目の前の最愛の兄にどうしても話をしたくなった。
「結婚か……したいとは思うけど今の僕にはまだ全然早いと思うよ。
僕はまだ18歳で、学校の先生になったといっても新米だから今後の事も不安だらけだもん。今は自分の事が精一杯になってしまうと思うし……」
「……そう」
アカメはレイの言葉に少し落胆したような表情を浮かべる。
「……ただ、もし僕が誰かとそういう関係になったとするなら――」
「するなら?」
「絶対に後悔するようなことはしたくないな。離婚とか論外だし、誰かが不幸になる結末なんて考えたくもないよ。
こういうとアレだけど、お父さんとお母さんみたいに結婚して何年たってもずっとラブラブな関係が理想かなーなんて……あはは」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたのか、レイは照れ笑いをしながら頭を掻いている。
そんな兄の姿をアカメは目を細めて見つめていた。
「ちなみに、アカメはそういう願望あるの?」
「……よく分からない」
自分で質問してきたのにアカメ自身はあまり関心が無いらしい。
アカメが他の誰かの所にすぐに行くって事は無さそうでちょっと安心。
「でも」
「ん?」
「お兄ちゃんが誰かと結婚して、それで今以上に幸せになるのなら私も嬉しい」
「お、おおん……ありがとう」
「それで」
「え、まだ何かあるの?」
「誰が良いの?」
………。
その言葉を聞いた瞬間、何となく察してしまった。
その後、アカメの質問を遠回しにはぐらかして二人で食堂に向かうと他の仲間達が既に揃っており、皆何故か僕の顔をチラチラ見ていたのが物凄く気になった。
その後は全員で朝食をとって食事の後に予定を話し合う事に。
「今日のお昼くらいに予定の港に到着予定よ」
「港には昔からわたくしのお世話をして頂いていたお爺様が迎えに来てくれている手筈になっております」
レベッカは懐かしむ様な表情を浮かべて言った。
「……そっか、ようやく旅の終着点に付いたんだね」
今思えば遠くまで来たものだ。しかし、これでようやく楽しみにしていたレベッカの故郷の村のヒストリアに行ける。
「どんな場所なんですか、レベッカ?」
「ふむ……わたくしが出た頃は貧困に窮しておりましたので他と比べて寂れておりますが、静かな環境でのんびりと過ごせますし、とても素晴らしい場所でございますよ」
「狩猟の村なんだよね? 今でもそういう生活をしてるの?」
「はい、レイ様。あの村周辺は自然豊か故に他の動物たちが生息しておりますので、それらを狩って生活しておりました」
「へ~。レベッカちゃんのお爺さんはどういう人なの?」
ベルフラウの質問にアカメも興味を持ったのか黙ってレベッカに視線を送る。
「お優しい方でございますよ。わたくしの幼少の頃からお世話をしていただいておりました。村の長老様でもありますから祭事や催し事の企画も進めておられます。
以前は狩猟にも参加しておられたのですが流石にお年を召されていらっしゃるのと考えたのか、今は村の若い者達に任せて自身は見守っていらっしゃることが多いようですが」
「お歳ってどれくらいなの?」
「……さぁ? 少なくとも私が幼少の頃と今のお姿にお変わりは無いようでございますが……」
もしかして、ファンタジーにありがちなエルフ的な長寿な人なのだろうか。
でもノルンほどじゃないよね。
だってノルンってば年齢四桁だもんね。
「……何?」
「なんでもない。そんな偉い人が僕達を迎えに来てくれるって事?」
ノルンにジメッとした視線を向けられて、誤魔化すために僕はレベッカに質問する。
「はい。日頃から故郷に手紙を送っておりましたのでレイ様達の事をいつも気にかけておられたので、今回の旅の事もご報告させていただいておりました」
「なるほど。でもそんな偉い人がわざわざ来てくれるなんて……」
ちょっと申し訳なく感じるが、きっと長老さんもレベッカの顔が早く見たいのだろう。幼少の頃からレベッカの事を可愛がっていた様子だし、僕がお爺さんの立場でも同じ事をした気がする。
「その後、お爺様と一緒に村まで行くつもりなのですがレイ様もそれで構いませんか?」
「うん、全然構わないよ」
レベッカの村にはしばらく滞在する予定だ。村の人に負担を掛けないように自分達の食料はちゃんと船に積んできてあるし、レベッカの村の人達にもちゃんと挨拶しておきたい。
「それで、ヒストリアの村に付いたらまず僕達は何をすればいいの?」
「お爺様が用意してくださっているはずの場所に荷物を降ろしてから村の皆様に挨拶回りに行きましょう。しばし滞在することになりますから、その時はこの村での過ごし方を皆様に説明しなければいけませんし」
「確かに、勝手の分からない土地だと困るよね」
「……それに、儀式の方の準備も」
レベッカはボソッと小さな声で何かを付け足す。
「え、今なんて……」
「な、なんでもございません……! それでは皆様、お時間になるまでごゆっくりお過ごしくださいまし」
「……う、うん」
……さっきのアカメの質問といい、これは何かあるな。
僕は見え隠れする謎を解き明かそうと考えながら、とりあえず昼食まで荷物を整理することになった。
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