第951話(キャットフードください)

 次の日の早朝。


「すー……」

「ん……」


 レイとアカメの仲良し兄妹は仲良く同じベッドで眠りの時を過ごしていた。ちなみに一緒に眠っているといっても特にアレな内容ではなく、レイが夜更かししないようにアカメが監視した結果である。


 レイ自身、アカメの事に色々思う事があり彼女の心遣いは嬉しいのだが、ちょっと懐き過ぎではないかと最近思いつつあった。だが、彼女が傍に居ると安心するのも事実であり、彼女が添い寝している間のレイは少しだけ寝坊しがちだったりもする。


 そして今日も……部屋に何者かが侵入しているのにも気付かず深い眠りに包まれていた。


「(……二人とも眠ってますね……普段起きるより1時間早く来た甲斐がありました)」


 彼らの部屋にこっそりと侵入してきたのは、猫の姿(レイはミーアと呼んでいる)に変身したエミリアだった。


「(しかし、アカメが自分の部屋に居ないせいで余計な苦労をする羽目に……)」


 エミリアは猫の姿でレイ達に近づいてベッドの横までやってくる。そしてエミリアは幸せそうに眠るレイの寝顔をじっと観察する。


「(……出会った時に比べて多少男っぽくなりましたが、こうしてみるとまだ……)」


 まだ子供ですね……とクスリと笑いそうになったが、彼を見て自分の顔がいつもより火照ってる事に気付いてそれを恥じる。


「(い、今はレイの事は良いとして、目的はアカメ……)」


 自身の目的を思い出したエミリアは身体をプルプル震わせて軽く毛づくろいをする。そして今度はアカメの上に乗っかる。


「(……警戒心の強いアカメにしては無防備ですね。隣にレイが眠ってるから……?)」


 敵だった頃の彼女とは大違いだ、とエミリアは心の中で苦笑する。


 エミリアは猫の姿のままで精神を集中させる。眠っている彼女を対象に、自身のマナと間近で眠る彼女のマナをリンクさせて直接心から対話する。


「(アカメ、アカメ……聞こえますか……今、眠っているアナタの心に直接話しかけています……)」


 エミリアは魔力を通じて彼女に働きかける。こうすることによって眠っている彼女に直接語り掛けることが出来るのだ。


 また、副次効果で眠っている彼女の考えていることを断片的に読み取ることも出来たりする。


「(今、夢の中で何を考えているのでしょうか……)」


 目的とは違うが、折角の機会なのでエミリアは彼女の考えていることをこっそり読み取ってみることにした。


「(……お兄ちゃん。お兄ちゃんは何故――)」


「(……何故?)」


「(何故男の子なのにそんなに可愛いの……?)」


「(……)」


 自分の兄に対してのアカメの心の声に、何とも言えない気持ちになる。


「(……聞かなかったことにしよう)」


 気を取り直したエミリアは再び魔力を通じて彼女に呼びかける。


「(アカメー、今すぐ起きてくださいー)」


 しかし彼女が呼びかけてもなかなか起きてくれない。


「(中々起きませんね……仕方ない。こうなれば、この猫の身体を活かして―――)」


 エミリアはそう思い、アカメの頭に向かって前脚を振り上げて――。


「みゃっ!」


 猫の鳴き真似をして、アカメの頭に猫パンチを繰り出した。するとアカメは「……う…ん」と唸り声をあげてようやく反応があった。


「(よし今です! アカメ、今すぐ船内の雑談室に来て下さい!)」


 エミリアは猫パンチに追撃して彼女の心の中に直接語り掛ける。そして、彼女の目が醒めて起き上がると同時にベッドから飛び降りて、僅かな扉の隙間から部屋を出ていった。


 アカメは猫パンチを食らった頭を抑えて起き上がる。


「……今、エミリアの声がした」


 周囲を見渡すが誰もいない。しかし扉が僅かに開いていて、暗い部屋の外から廊下の僅かな光が差し込んでいた。


「……」


 アカメは不審に思ったが、先程の声を思い出して雑談室に足を運ぶことにした。

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