第950話 制御できないもう一人の勇者
僕達の船旅は順調に進み、ついにレベッカの故郷であるヒストリアの大陸目前となった。
その事を僕達は夕食中に話し合う。
「明日、ようやくレベッカの過ごした故郷に着くわけだけど」
「はい、わたくしも故郷に戻るのは久しぶりでございます……こうして信頼できる皆様と一緒にヒストリアへ来れる機会を一日千秋の想いで待ち焦がれておりました」
「あらあら、レベッカちゃん大げさねぇ」
「私達も以前からレベッカの故郷には興味がありましたし、こうして一緒に訪れる機会を作ってくれて感謝しますよ、カレン」
「わたくしからも言わせてくださいまし。カレン様、ありがとうございます」
エミリアとレベッカは向かいのカレンさんにそう感謝を述べる。
「ふふ、そこまで感謝してくれると私も頑張った甲斐があったわ。2年くらい前にあなた達と初めて会った時は、まさかここまで仲良くなれるとは思わなかったけどね。唯一心残りがあるとすればサクラ達を誘えなかったことかしらね」
カレンは微笑みながらも、今回の旅に残念ながら来れなかったサクラの顔を思い浮かべる。
「タイミング悪かったよね、サクラちゃん」
僕は船旅に出る一週間前の出来事を回想する。
自由騎士団を脱退した彼女は友達のアリスとミーシャと一緒に実家のあるサクラタウンに戻っていた。
その頃の僕達はミリク様に頼まれた魔王討伐に注力していたのだが、彼女達はというと……。
「なんかね、実家に書置きがあって―――」
『―――アリスとミーシャと一緒に大冒険に行ってきます!!』
……というよく分からない書き置きを残して家出したらしい。
彼女のお母さんは娘の突飛な行動に怒っていたらしいが、お父さんのアザレアさんに冷静に諭されて今は受け入れているとか。
まぁ魔物が世界中で暴れ回っていた頃より、大人しくなった今の方が冒険するには良い機会なのかもしれない。
今頃彼女達は何処かのダンジョンを巡っているのかもしれない。
大人しくなったとはいえ魔物はまだ潜んでいるだろうが、彼女ならば大丈夫だろう。
問題があるとすれば、今後彼女達に会う機会が訪れるかどうかなのだが……。
「サクラちゃん達、今頃何してるのかなぁ」
「それはもう……冒険では?」
「サクラ、騎士団止めてからとにかく冒険したがってたもんね。ダンジョンでお宝探しも好きだったし……」
カレンさんの言葉を聞いて、僕は彼女と初めて会った日の事を思い出す。
「(宿で会った時は普通に可愛い美少女だと思ってたら中身はアレだったなぁ……)」
いや、アレといっても決して悪い意味では無くて。普通に人当たりが良くて優しくてお茶目で子供っぽい感じの子ではあった。
ただ少々向こう見ずでバトルジャンキーでダンジョン攻略大好きで集団行動が苦手で外見の清楚さと比べてイメージが違った。
まぁ、そういう意味では目の前のカレンさんもイメージが違ったのだが……。
「?」
僕がカレンさんに視線を移すと、カレンさんと僕と視線が合う。
「何?」
「いや、カレンさんも最初に会った頃は色々違ったなぁ……って」
「そうかしら? 今も昔も私はそんなに変わらないわよ?」
「サクラちゃんに聞いた話だと、カレンさんって女の子が好きだって……」
「ご、誤解だから!!」
顔を真っ赤にして否定するカレンさん。
実際の所、サクラちゃんに対してだけスキンシップが過剰だということを後から知った。女の子が好きというよりは自分が気に入った人物に対して情愛が深くなるタイプなのだとか。
今ではサクラちゃんだけじゃなくて、僕にも同じような態度で接してくれるようになった。最初に一緒に止まった宿で同じ部屋で過ごしたのは良い思い出だ。
……それだけ聞いたら如何わしい話にしか思えないだろうが、実際は色っぽい話なんて欠片もなく、魔力の制御が下手なカレンさんの馬鹿力で抱擁で殺されそうになったことを未だにはっきり覚えている。
そうして僕達は夜遅くまで思い出話に花を咲かせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます