第949話 以上、皆解散

 それから数日後。


 遊覧船の旅に戻ったレイ達は最後の目的地に着くまで、船でのんびりと過ごしていた。


 そしてレイは少し前に立ち寄ったケイローンの町の事を思い出していた。


「(結局、あのアトラクションは町興しになってたんだろうか……?)」


 ケイローン像や記念館や道具屋のお土産など街全体で勇者ケイローンを盛り上げてた割に、町の人達の反応は割と冷めたものだった。


 個人的には最後のアレでそこそこ楽しめたのだが。


「(旅の帰りにはまたお爺さんの所に寄らないとね……)」


 本人が語ったわけじゃないけど、勇者の試練の偽ケイローンの魔道具をハッキングしたのはあのお爺さんだ。


 町人さんに聞いた話だと、あのお爺さんの名前はウロスと言うらしい。昔は別の名前だったらしいからおそらく偽名だ。


「(そして、本名は多分……)」


「ケイローンさん!!」


「(ビクッ)」


 僕が考え込んでいると、突然部屋のドアが開きルナが入ってきた。


「ちょ、ビックリした……! ルナ、部屋に入る時はノックくらいしてよ……」


「あ、ごめんね。サクライくん。でもさっき凄い情報を仕入れちゃったからサクライくんにも教えておきたくて」


「凄い情報?」


 ルナの言葉に僕は頭を傾げる。ルナは扉を閉めて部屋に入ってきてマットを敷いてある床にちょこんと座る。


「あのね、死んでたと思われてた勇者ケイローンが生きてるかもしれないって話が出たみたいなの。

 私たちがちょっと前に立ち寄ったあの町に、私たちが去った後に勇者ケイローンを名乗る人物が現れたんだってさ。ビックリだよねー」


「へぇ……」


「あれ? 全然驚いた様子ないね」


 僕の反応にルナはキョトンとした顔で僕の顔を見つめる。


「いやまぁ……生きてるんじゃないかなーとは思ってた」


「え、そうなの? 50年くらい前に以前の魔王と相打ちになって死んだって伝わってたのに驚きだよね。あ、でも本物とは限らないよね」


「(多分本物だと思うけどね)」


 僕はルナの言葉に心の中でそう思う。


「ねぇねぇ、本物だったら凄いよね! またあの街に寄って確かめようよ!」


「あはは……だね」


 楽しそうなルナの言葉に、僕はウロスさんの恍けた顔を浮かべて笑うのだった。



 ◆◇◆



 それから更に数日後――。

 レイ達の旅の最終目的地であるレベッカの故郷へと近づいてきた。

 そこでベルフラウ達はレイに黙って会議室に集まっていた。


 ―――ゴゴゴゴゴ。


「いよいよね……」


「はい、ベルフラウ様。わたくしの故郷ヒストリアはもはや目と鼻の先でございます」


「そうねレベッカちゃん。そしてその地こそ私たちの望みが叶う場所―――」


 会議室のテーブルに両手を置いて宣言するベルフラウ。


「―――皆、覚悟はいい?」


 ………。


 ベルフラウの無駄に重い口調に彼女達は静まり返る。


 彼女が何が言いたいのか何となく理解しながらも、なんか妙に重苦しい雰囲気なため口を出すのが憚られていたが、皆が黙り込むので仕方なくエミリアは話を進めるために手をあげて質問する。


「ベルフラウ、質問」


「……何、エミリアちゃん」


 手を上げて質問をしてくるエミリアに対してベルフラウは湿度の高い目で見つめる。


「……一応、確認しておきますけど、何の覚悟ですか?」


 エミリアがそう質問すると、ベルフラウは机を軽くバンと戦いて立ち上がる。そして両手を机に叩きつけてエミリアに向かって宣言した。


「レイくんに告白して結婚してもらう覚悟よ!!」


「そうですか、頑張ってください」


 ベルフラウの宣言にエミリアはあっさりと返事をしてそのまま席に座って本を読み始める。そんな反応にベルフラウは不満げに頬を膨らませる。


「ちょっとー! 皆、もっと興味もってよ!」


「いや、だってねぇ……」


「そんな覚悟するだけ無駄じゃないかしら? そもそもレイ君がその気になってくれないとどうしようないわけですし……」


 文句を言ってくるベルフラウに、他の仲間もウンザリしたようにそう呟く。


「……部屋に帰っていいかしら?」


「待ってノルンちゃん! さっきまで真剣な表情してたのに、いきなりいつもの眠り姫みたいな眠そうな顔に戻ってる!!」


「はい、皆様。解散でございます」


「おつかれさまでしたー」


「ちょっとー!?」


 ベルフラウが力説する中、皆は立ち上がって会議室を出てった。そんな彼女達の背中に向かってベルフラウは訴えるように叫ぶ。


「ほ、本当に良いの!? 皆がそのつもりなら私が真っ先に告白してレイくんのお嫁さんにしてもらうんだからーー!!」



 会議室の中、ベルフラウは誰かに聴かれるのも構わずにそう宣言した。



「……今、凄い寒気が」

「風邪?」


 アカメに心配されて僕は返事をする。


「うーん、風邪引く様な事はしてないんだけどなぁ」

「心配。妹として今日から添い寝して見守る」

「添い寝の必要性は何処に……」


 アカメの提案にレイは苦笑した。



 予感を感じたレイとベルフラウの覚悟。彼らの運命は如何に!?

 次回に続く!!!

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