第948話 おうち帰る

 前回までのあらすじ。ケイローン?を倒した。


「皆、お待たせ……って」


 レイが要件を済ませて洞窟から出てくると、そこには仲間達と初めて見るふくよかなおじさんが一緒に僕を待っていた。


「あ、レイくん。おかえりー」


「ただいま……姉さん、そのふくよかな人は誰?」


「ん?ああ、彼ね。この町の町長さんよ」


 姉さんはそう言うとその太ったおじさんに視線を送る。するとその人はこちらに顔を向けて話しかけてきた。


「ど、どうも。今回は私の管理が杜撰で多大な迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ございませんでした!」


 町長さんはそう言いながらいきなり僕に向かって深々と頭を下げてくる。


「え、あの……どういうことです?」


 事情がよく呑み込めず、僕は姉さんの方に顔を向ける。


「えーと、簡単に説明しちゃうとね。この”勇者の試練”アトラクションの管理者はこの町長さんらしいの。普段は彼がここ魔道具を遠隔で操作してるらしいのだけど、私たちが参加中に別の誰かに魔道具の機能を乗っ取られたらしくて……」


「(あー……そういうことか)」


 最後の試練で戦った偽ケイローンが途中から別人のようになったのもそれが理由らしい。魔道具の停止ボタンを押しても止まらなかったのも、途中で第三者が介入したからだろう。


「それでお客様。お怪我はございませんか!?

 このアトラクションは、常に管理者の私がお客様の安全を配慮して”敵”の強さを調整しているのですが、操作を受け付けなくなってからこちらに映像が全く届かなくなってしまい、お客様が無事かどうかを確認することも出来なくなってしまいまして……」


「ああ、大丈夫です。おそらく誰かが介入してるんだろうなーってのは気付いてましたし、最後はちゃんと試練を終わらせてきましたので」


「な、なんと……! ですが、今回はこちらの不手際でご迷惑をおかけしたのは事実ですし、最初に払った入場料は全てお返しします。勿論、予定していたクリア報酬も全てお渡しいたしますので、どうかそれでご容赦を……」


 町長さんはそう言うと再び深く頭を下げる。


「それで僕は全然構いません」


「そ、そうですか……! なんとお心の広いお方だ……!」


 町長さんは僕の返事に大げさに反応して再び深く頭を下げる。


 多少アクシデントはあったものの剣の肩慣らしにもなったし、他にはない面白い戦い方を見れたので不満は特にない。


 ただ、結局魔道具を乗っ取った犯人の正体が有耶無耶になったのが気になる。


「(……まぁ、後で訪ねてみようかな)」


 十中八九、多分あの人だろう。


「では、こちらがアトラクションのクリア報酬でございます。

 最終試練の突破報酬のこの町の名産品の詰め合わせと、著名な作家が書いたケイローンの絵本と、剣をモチーフにしたキーホルダーです。

 それに加えて、この特別な魔道具を進呈いたします。ささ、お納めください!」


 町長さんはそう言って僕達に色々と手渡してくる。そして僕に渡されたのは、部屋の中を勝手に掃除してくれるという掃除機のような魔道具だった。


「では、私は失礼します。引き続きこの町の観光をお楽しみください」


 町長さんは最後にそう一言挨拶して去っていった。


「なんか色々貰っちゃったね」


 ルナは苦笑しながら町長に渡された中身を詰め過ぎてパンパンになった両手の紙袋を僕達に見せつける。中身を確認してみると、お土産屋さんで売ってそうなお菓子の詰め合わせや、 このテーマパークのメインでであるケイローンやケイローンの所有物を元にデザインされたグッズが沢山も入っている。


「まぁ、貰える物は貰っておこうか」


「これだけ色々貰ったら、わざわざお土産買う必要も無いかもね」


 僕達は貰った物を一度鞄に仕舞う。


「さて、それじゃそろそろ帰りましょっか」


「あ、姉さん待って。その前にちょっと行きたい所があるんだけど……」


 僕はここで帰る前にもう一度あの場所に戻ろうと提案する。


「? いいけど……どこに行くの?」


 姉さんの質問に僕は答えて、皆で向かうことにした。


 ◆◇◆


「お爺さん、居ますかー」


「ん……客か? ぬおっ!?」


 僕は遊覧船に戻る前に、最初にお世話になった料理屋に訪れていた。


 お爺さんと少し話したいことがあったので、姉さん達には外に待機してもらっている。店に入ると店主のお爺さんが出迎えてくれたのだが、僕達だと気付いた瞬間に物凄く驚かれてしまった。


「何驚いているんですか? 町を離れるので最後に挨拶したくて来ました。あと、お爺さんの料理をお土産として持って帰りたいんですが、ここってテイクアウト出来ますか?」


「あ、ああ……そういう事かの。少し待っておれ」


 お爺さんはそう言うと慌てて厨房に引っ込み、その数分後にはお盆の上にいくつかの料理をのせて戻ってきた。それを布で包んで袋に入れて僕に手渡してくれる。


「ほら、これを持ってくとよいぞ。料金は……うむ、そのくらいで構わん」


「ありがとうございます」

 僕は取り出した銀貨と銅貨数枚をお爺さんに渡す。


「しかしもう帰るのかの? てっきり一泊くらいしていくものかと思っておったのじゃが……」


「僕達が乗ってきた船が今日の夕方辺りにでもここを出発するんですよ。だからそれまでに港に戻ろうって事になってまして」


「なんじゃい、久しぶりの観光客と思っておったのじゃが」


 お爺さんは顎髭を摩りながらそう呟く。


「すみません、僕達の都合で船を待ってもらうわけにもいかないので……」


「まぁそういう事なら仕方ないの」


「お爺さんのお料理、とても美味しかったです。何か月後になるか分かりませんが、帰る時も良ければまた立ち寄らせてもらいますね」


「……儂の料理をそんなに気に入って貰えるとはのう……こんな老いぼれの作る料理で良ければいくらでも食べに来るが良い」


「ありがとうございます。次に来る時は他の皆も連れてきますね……それじゃあ……」


 僕はそう言って最後にお礼を言ってお店の暖簾のれんを潜ろうとする。しかし、最後に言っておきたいことがあったので僕は振り返って言った。


「あ、そうだお爺さん」

「んん?」

「あんまり町長さんに迷惑を掛けちゃダメですよ?」

「な、何のことかのぅ……?」

 お爺さんは僕の言葉に視線を泳がせながらそう呟く。僕はそんなお爺さんに苦笑しつつ。


「では、お爺さん。また来ますね――」

「うむ」

「――ケイローンさん」

「!?」

 僕がその名前を口にした瞬間、お爺さんの表情が一瞬にして固まった。そして目を見開いて僕を見つめる。

 そんな表情の彼を背中に僕は今度こそお店を出て行ったのだった。


「……わ、儂の正体に気付いた……?」


 老人……いや、ケイローンはレイが去っていった店内で1人呟く。


「(い、いや……儂があの偽ケイローンを操作しているのを看破したという意味じゃと思うが……まさかの……)」


 そして内心そう呟いた後、厨房の奥へ引っ込んでいった。

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