第947話 最終形態は多分爆発する

『先手必勝じゃ!』


 ケイローン?はそう叫びながら剣を宙に浮かせてこちらに飛ばす。


「っと」


 僕はそれを見切って右に躱し、ケイローン?との間合いを詰める為に速度を速めて接近する。


『させるか、<光の矢>ライトアロー!』


 続いてケイローン?はこちらの動きに合わせて魔法を唱えて光属性の数少ない攻撃魔法を使用してくる。僕はその攻撃に合わせて剣を横に振るって攻撃をかき消す。


「!」


 背後に物が飛んでくる気配を感じた僕はそのまま背後を振り返ってそのまま剣を振りかぶる。予想通り、彼が飛ばした剣がブーメランのように飛んできて、それを僕の剣で弾いて攻撃を凌ぎきる。


『勘が良いの。背中に目でも付いておるのか?』


「戦士はある程度のレベルになると周囲の動きを感知できるようになるんですよ。ケイローンさんは苦手ですか?」


『この、生意気な……ふん、そのような挑発に乗るほど愚かでは無いわ』


 ケイローン?はこちらの挑発に乗らずに再び自身の剣を回収して壁際の方まで後退する。


 僕とケイローン?の距離はおよそ8メートルといったところ。


 ケイローン?の戦闘スタイル的に考えるならば、本来はもう少し距離を取るべきなのだろうがここは洞窟の中なので必要な距離を稼ぐことが難しい。


 今も僕から距離を取るための精一杯まで距離を取ったという印象が強い。


 対してこちらも剣を存分に振えるほどの広さが無いため最小限の動きを求められる。


 万一、岩壁に剣を持って行かれようものならその隙を狙われて一気に形勢を逆転される。


 互いに周囲に気を配る必要があるため余裕の無い状況下での戦いとなっている。


「(さて、どうしたものだろう……)」


 僕は剣を構えたまま次の一手を考える。せめぎ合いに関しては手数の多いあちらの方が有利だが、遠隔で攻撃を仕掛けているためか命中精度が若干低く感じる。


 対してこちらはあくまで接近して斬り掛かるスタイルなのだが、今の所近づく前に先手を取られてしまい、凌いだ後に仕掛けようとする前に距離を取られて逃げられてしまう。


 一見すればあちらが有利に見える。

 しかしその実、こちらを近づけないよう必死という印象だ。


「(強引に攻めてみるか?)」


 正直、一撃被弾覚悟して突っ込めば行けそうに思える。だがあちらがまだ手を隠していた場合、その一撃で僕が敗北する可能性もある。


「(……よし、奥の手を出させるために敢えて突っ込んでみるか)」


 僕はまた走り出す。するとケイローン?はさっきと同じようにこちらに向かって剣を飛ばす。


 当然、それをさっきと同じように弾くと、ケイローン本人が手を翳して何らかの魔法を使おうとする。


 ―――が、その前にこちらも魔力を集中させて先手を取る。


<初級雷魔法>ライトニング


 初級の魔法の中では出が早く威力も僅かに高い基礎的な攻撃魔法だ。微弱な電撃が僕の剣から放たれて、ケイローン?に襲い掛かる。


『ぬおっ!』


 しかしケイローン?は驚きつつも、こちらの魔法を自身の掌で受け止め―――それを握りつぶした。


「!?」


『ホッホッホ、この程度の魔法であれば<魔力相殺>ネガティブマジックすら要らんわ。それ、反撃といこうかの―――<光の矢>ライトアロー


 ケイローン?は余裕の表情を浮かべながら、こちらが反応する暇すら与えず光属性の初級魔法をほぼ無詠唱の速度で連続して放つ。


 僕はヒヤリと嫌な汗を流しながらその攻撃を辛うじて横に避けながら接近するが―――


『儂の攻撃に気を取られずぎじゃぞ。ほぅら、後ろの剣に対しての注意が疎かになっとるぞ』


「っ!?」


 僕はケイローン?の言葉に反応して後ろを振り向く。すると、そこには先程弾いた剣が浮遊しながらこちらに迫ってきていた。


「(しまった!)」


 僕は咄嗟にその剣を自身の剣でガードしようと盾代わりに前に突き出すのだが、剣と剣が接触する瞬間。


 ――パキン。


「は!?」


 突然、折れたような音がしたと思えば、ケイローン?の剣が二つに割れて、その両方が全く逆の軌道を描いて左右から高速で迫ってくる。


「(そ、そんなのアリ!?)」


『勝負アリじゃ、小僧!!』


 ケイローン?のその宣言と共に、僕の左右から同時に襲い掛かる!!


「くっ……!!」


 ―――次の瞬間、如何なる原理かケイローンの分かれた剣が同時に爆発を起こし、狭い洞窟内にまばゆい光が迸る。


 爆発音と同時にケイローン?は自身の瞼を閉じて耳を抑えて爆発に備えた。


『ぬぅ……っ! これは、中々の威力じゃったの……』


 ケイローン?が爆発から立ち直り瞼を開けると、周囲に煙が立ち込めておりレイの姿を見ることが出来なかった。


『(……いかんの、本気になり過ぎたか……死んでなければ良いのじゃが……)』


 ケイローン?の今の肉体は魔道具によって具現化されているため、この場から動くことが出来ない。


 万一の事があった場合の事を考えながら煙が晴れるのを待っていると……。


「……危なかった」

『!?』


 なんと、レイは剣を構えた状態で無傷で立っていた。


『お、お主、何故無傷なのじゃ!? この狭い空間であれほどの大爆発を受けて無事で済む訳がないじゃろう!?』


 ケイローン?は目を見開いてレイに向かってそう叫ぶ。


「ん? こういうことですよ」


 レイはキョトンとした表情をした後に、剣を構え直す。そして、


「聖剣・解放」


 彼が一言そう口にすると、彼の周囲に僅かな光のオーラが発生して、周囲に立ち込めていた煙が一気に霧散する。


『……聖剣使いじゃったのか……!?』


「まぁ、そういう事です。爆発の直前に聖剣の力を解放することで直撃を防ぎました」


『……お、恐ろしい奴め……』


 ケイローン?はレイのその一撃を防ぐという荒業に冷や汗をかきながら後ずさる。


「そっちも剣を分割したり突然爆発させたりとかやりたい放題だったじゃないですか。お互い奥の手を隠していただけですよ」


『むむ……武器の性能に頼ったやり方をしおって……!』


「いや、貴方だって殆どその剣に頼りきりじゃないですか」


 レイは正論で言い返す。


「これでお互いの手の内は分かりましたし、そろそろ決着を付けましょうか」


『……』


 ケイローン?とレイは互いに向かい合い、間合いを取る。


「……」

『……』


 そしてそのまま沈黙が数秒ほど続き――


『―――こうなれば、最大まで剣の数を増やすまで!』

「!?」


 ケイローン?はそう宣言すると同時に自身の周囲に新たな剣を何本も浮遊させる。


 いや、何本というレベルではない。ケイローン?の背後から同じ剣が二十、三十と次々に姿を現していく。


『お主が聖剣使いだとしても、これだけの数の同時攻撃には手も足も出まい! さぁ、どうする!?』


 ケイローン?はそのうち二つの剣を両手に一本ずつ手に取り、一歩前に出る。


「……」


『んん、どうした? まさか勝負を諦めたのか?』


「いえ、その……」


『なんじゃ、はっきりせんのお……云いたい事があるのならちゃんと声を上げて言うべきじゃぞ』


「……こんな狭い場所でそれだけの剣を飛ばしたら自分も巻き込まれませんか?」


『あ』


 ケイローン?はレイの指摘に、今気付いたような声を上げる。


 そして自身の背後をそっと振り向いた瞬間――


「隙ありっ!!」


 僕は自分に背中を晒したケイローン?目掛けて容赦なく剣を振るう。


『あっ、ちょ――』


「おりゃあっ!!」

『ぬおっ!!』


 僕はケイローン?に剣を思いっきり振り下ろした。


 ……が、剣はケイローン?に当たることなく空を切る。ケイローン?は慌てて飛びのいてそれを回避したのだ。


「……ちっ」


『あ、危ないではないか! 儂を真っ二つにする気か!?』


「はい」


『はいじゃないが!!』


「だって、仮に貴方がここで倒れたとしても本体じゃないのは分かりきってますし」


『……わ、儂にはまだ最終形態が残されて――』


 ゴンッ!!


『痛ぁっ!?』


 僕の最後の一撃はケイローン?の頭に直撃し、そこでようやくケイローン?は床に倒れて消えていった。


「最終形態って大魔王じゃないんだから……」


 僕は剣を鞘に納めてその場を後にしようとする。


「……あ」


 と、僕は最後に振り返ってケイローン?の姿が消えた場所に視線を戻す。


「結局、誰だったんだろ?」


 勝ったら正体を教えてもらう約束だったのだけど、


 結局最後までケイローン?は正体を明かさないまま消え去ってしまったのだった。


 ……まぁ、僕も途中で大体察してはいたんだけど。


「うん……とりあえずみんなと合流しよう」


 僕は考えるのを止めてみんなの所に戻ることにした。

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