第943話 テーマパークに来た
町人の人達に見送られて僕達を道具屋と記念館を目指す。地図を貰ったのである程度の町の全貌を把握できるようになったので目的の場所に進めるようになった。
道中、町の景色を見て回ってが建物や道など全体的に古めかしい感じではあるが、それは年月が経っているからだろう。
「あ、あの建物かな」
町人達の言っていた建物が見えてきた。看板には【勇者ケイローン記念館】と書かれている。どうやら間違いなさそうだ。
中に入ってみると見た目より中は広く、勇者ケイローンに纏わる歴史などがいくつか展示されていた。
しかし予想よりも内容が薄く、展示品の数も少ない。
ケイローンが所持していた遺留品や、彼をイメージしたイラストが描かれた絵画など見応えのあるものもいくつかある。
しかしどれも既存の情報で新たな発見があったわけでもない。むしろケイローンをモチーフにした絵画がメインになっているので、記念館というよりは博物館に近い感じだ。
「なんというか、まぁ……うん……」
どれもやたら美形に描かれているのは良いのだが、ケイローンの人物像がまるで見えてこない。
多分、町興しをする為に少ない情報を水増しする為に、外から彫刻家や画家を雇って銅像や絵画などでイメージアップを図っているのだろう。
絵画の出来はどれも素晴らしく、ケイローン本人は勿論だが、背景や対峙する魔物の臨場感など、思わず引き込まれてしまうほどの出来栄えだった。
しかしそれだけに、勇者ケイローンという人物像がますます霞んで見える気がする。
「うーん……」
この記念館の展示内容で納得してしまうほど町の人はお金がないのだろうか?
いや、町おこしする為に外部から人を雇って色々とやっているようだから金銭的には潤っているはずだけど……。
「素敵な絵だねぇ……」
「……私も絵画出来は良いと感じる、絵画の出来は」
「あはは、アカメちゃんったら」
アカメが褒めているようで褒めていない微妙な感想を漏らし、姉さんもそれに同調している。僕達はしばし絵画の見回って感想を言い合いながら記念館を出た。
「まぁ別に悪くは無かったし、次は道具屋さんにでも行ってみる? そこでお土産を買ってから帰ろうか」
「待って、レイくん。なんか町人の人達、他にも言ってなかっけ……ええと、確か……」
「”勇者の試練”……というアトラクションがあるとかなんとか……」
「あ、そういえば」
僕は失念していたらしい。確かに町人達がそんな事を言っていた気がする。
しかし勇者の試練って……名前だけはそれっぽいけど、一体どんなアトラクションなんだろうか。
「まるでテーマパークみたいでテンション上がるよね」
ルナはちょっと期待しているようだ。
「そ、そうね……でもあんまり期待しない方が良いんじゃないかしら」
「同意」
「……ま、それなら道具屋は最後にして、勇者の試練って場所に行こうか」
「どのあたり?」
「ええと……地図によると町からちょっと外れた場所だね……」
地図には町から少し外れたところにバッテンのマークが記されていた。まるでお宝の地図のようである。しかし、わざわざこんな離れた場所に建てる必要性があるのだろうか。
この町には馬車のような便利な交通機関がない。
飛行魔法を使う手も無くはないが、そこまでしていく場所でも……。
……なんか、急に行く気が失せてきた。
「……面倒臭いし、行くのやめよっか」
「ええー……?」
勇者の試練とか書いてあるが、どうせ町の人がそれっぽい施設を作ってるお遊びだろう。
幻想的な風景を楽しめるとか、希少なお宝が入手出来るとか、そういうのがあれば行こうかなと思うが、そうでなければわざわざ足を伸ばして行こうとまで思わない。
「や、でもね。レイくん。折角皆が行く気になってるし町の人達だって紹介してくれたわけだし……」
「いや、良いって。大体勇者の試練とか書いてあるけどきっと大したことないよ」
「魔王を倒すより簡単そうなのは事実」
「アカメちゃん、現実の話を持ち出すのはNGだよぉ……」
うーん……アカメは特に興味無さそうだが、姉さんとルナは何故か興味がありそうだ。
「あ、レイくん。ここに小さく何か書いてあるよ?」
「ん?」
地図を見ていた姉さんが僕を呼び寄せる。僕も一緒に地図を覗きこんでみると、バッテンマークの近くに手書きでこう書いてあった。
”勇者の試練”攻略者には豪華賞品と記念品授与”……。
「(ろ、露骨だなぁ……)」
何がなんでも話題を作って町興しを企てているようだ。
「サクライくん。あんまり賑わってないようだし可哀想だから私たちが参加してあげようよ」
「……」
……まぁ人助けと思えば……うん……。
◆◇◆
というわけで、20分程歩いて僕達は【勇者の試練】とやらの場所に訪れた。
何故町の外れにあるのかと怪しんでいたのだが、どうやら自然に出来た洞窟を利用して作ったようだった。
洞窟の入り口に看板が立てられている。
「勇者の試練へようこそ」と書かれているが、「当アトラクションはお一人様専用です(同行してる方の見学はOK)」と書かれていた。
更に勇者の試練の入り口には男性の町人が立っており入るには許可が必要なようだ。
「すみません」
「……! い、いらっしゃいませ! もしかして勇者の試練に挑むんですか?」
僕が話しかけると物凄く驚かれた。
「えと、はい……」
「そ、そうか……こんな物好きなアトラクションに挑戦する旅人居るんだな……あ、いや、すみません」
今、失礼な言葉が聞こえた気がするが聞き流そう。
「じゃあ中に入らせてもらいますね」
「あ! ちょっと待って下さい」
僕が行こうとすると町人が慌てた様子で制止してくる。
「なんですか?」
「いや、そのですね。一応勇者の試練は入場料が必要でして……あ、見学の人は無料でオッケーですよ」
「……」
僕は黙って銀貨を一枚手渡した。これでショボかったら文句言ってやろう。
「おお、有難う御座います! ではお客様ごあんな~い……」
町人はそのまま僕達を洞窟の中に案内してくれた。中は真っ暗……とまでは行かないが入口から光が届く範囲しか見えない。道幅は狭くて人二人が並んで歩くのがやっとだった。
先頭に姉さんとルナ、そして僕とアカメだ。最後尾は町人の男性である。
男性は思い出したかのように僕達に質問してくる。
「ちなみに挑戦者はどなたですか?」
「レイくんですよ?」
「サクライくんだよね?」
「お兄ちゃん」
「……僕です」
「じゃあその……健闘を祈ります。一応、洞窟の中には倒すべき”敵”が複数用意されていますので全部倒せばオッケーです」
「……はぁ……」
僕は気のない返事をして洞窟の奥へ進んだ。洞窟の奥へ進むと、多少なりとも明かりが用意されており、洞窟内も一応歩きやすいように整備されていた。
雰囲気を出すためか、洞窟内の壁や床は土を塗り固めたような感じであまり滑らかではない。全体的に安っぽさを感じており、よく言えば手作り感があり、悪く言えば……。
「……作りが雑ですね……」
「そりゃあこんな辺鄙な場所にあるアトラクションですからねぇ」
「(それを町人が言っちゃダメだろう)」
僕が不満を感じながら前を歩いていると、どうやらその”敵”らしい気配が近づいてくる。
「けけけ……」
「おぉぉぉぉぉ……」
野太い声の男性が呻く様な声が狭い洞窟に響き渡る。試練というよりはお化け屋敷のような雰囲気ではあるが、これはこれでそんなに悪くない。
「けけけ……」
そして洞窟の奥から現れたのは、全身緑色の体毛で覆っている人型の魔物が三体。
……多分、ゴブリン……のつもりなんだろうけど……。
「あの、これ……」
実際に動いているのは、ゴブリンなどではなくそれを模したからくり人形みたいな何かだった。
「さ、流石に魔物を使うアトラクションとか危な過ぎるので……」
……言われてみれば確かに。
「これを倒せばいいんですか?」
「は、はい。でもお気を付けください。一応並のゴブリン程度の強さはあるはずなので―――」
町人の男性の言葉を最後まで聞かずに僕は即座に飛び出し、速攻で人形を蹴り飛ばす。
「は!?」
「これで終わりっと」
男性が驚いているうちに更に残りの二体の人形を軽く殴り倒して終了だ。
壊さないよう軽く撫でる程度の蹴りとパンチで全部終わった。正直剣を使うまでも無い。
「……」
男性に視線を向けて何か言う前に、僕は人形が動かなくなる。そしてゆっくりと床に倒れた。
「さ、流石旅人さんですね……まさか本当に倒してしまうとは」
「まぁ、一応冒険者ですから」
不特定多数の魔王を蹴散らしているのだから、今更ゴブリンと同程度の強さの人形なんて苦戦する要素が無い。姉さん達も特に心配などしておらず、「おー」と感心した声を出しながら手をパチパチしてるくらいだった。
「(ぼ、冒険者ってこんなに強いのか……? 前の旅人は1階層目ですぐに逃げ帰ってきてたのに……)」
男性は何故か少し震えていた。
「じゃあ次の階層の案内をお願いします」
「は、はい」
男性は声を震わせて再び僕達の道案内を始めた。
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