第936話 お節介
前回までのあらすじ。
ゼロタウンの一件を終えた僕達は遊覧船に戻り旅の続きを再開する。
仲間との楽しいひとときを満喫していたレイだったが、カレンとそのお付きのメイドであるリーサとの会話を聞いて彼女達の関係性に思う所があって頭を悩ませる。
そしてレイはお菓子を持って部屋に訪ねてきた仲間達に相談を持ち掛けることにしたのだった。
「―――という事で、カレンとリーサさんの関係の事なのだけど」
僕は仲間にカレンさんとリーサさんの秘められた関係性を自分の推測を交えて解説する。
この話はカレンさんから直接聞いたものではない。元は二人の女神様からの会話から推察したものだ。
しかし、その推察も先程のカレンさんの独り言からおおよそ真実であることは確認出来た。
「……カレンとリーサが本当の母と娘……」
「……以前、私たちが二人の記憶喪失が何か理由があるんじゃないかと相談したことあったけど、まさか本当にそうだったなんてね……」
エミリアと姉さんは少々驚きながらも、どうにか落ち着いて僕の話を聞いてくれる。
「……全然気付かなかった……」
アカメは二人との交友が浅いから気付かないのも無理はない。しかし、僕の話を聞いたレベッカに関しては特に驚いた様子も無く「ふむ」と頷く。
「レベッカ、もしかして気付いてた?」
「はい……以前、カレン様と剣を交えた時、終わり際にカレン様が仰っておりましたので……おそらく断片的にカレン様は記憶を取り戻したのだと思います」
「知ってたなら言ってくれれば良かったのに……」
「申し訳ございません。ですがカレン様も『昔は昔、今は今。彼女は今までずっと自分の傍に居てくれたからそれだけで十分』……と。ですのでそれ以上追及せず、口にするのも避けておりました」
「……カレンさん……」
「……レイ様。もしや、この件をリーサ様に伝えようと考えているのでございますか?」
「うん……そのつもり……」と僕はレベッカの質問に頷く。だがレベッカが言った今のカレンさんの話を受け取ると、本当の事を伝えるのを望んでいるようには思えない。
「……みんなに質問なんだけどさ」
「はい」
「何?」
「リーサさんに『カレンさんの本当の母親は貴女です』って真実を伝えた方が良いと思う?」
僕の質問に四人は長考を始める。そして最初に口を開いたのはエミリアだった。
「私は伝えない方が良いと思います」
「うん、お姉ちゃんも同意見」
エミリアの言葉に続いて姉さんも同意する。
「理由を聞いてもいい?」
僕がそう質問すると、エミリアはコホンと咳払いをして言う。
「根本的な問題を話すのであれば、カレンとリーサに血の繋がりがあるという明確な証拠がありません。
信憑性に欠けるのでリーサも信じきれないでしょう。仮に頷いたとしても自分を気遣うための優しい嘘だと解釈されてしまうかもしれませんよ?」
「……確かにそうかもだけど」
「……何より、カレン自身が今の関係で納得している以上、第三者の私たちが横から入ってきてそれを壊すようなことをしていいとは思いません」
「……っ」
「……レイは事実を伝えたとして、二人にどうなってほしいのですか?」
「……僕は」
僕はカレンさんとリーサさんが記憶喪失になる以前の関係に戻ってほしいと考えている。
すぐ傍に居るのにカレンさんだけが真実を知っていてリーサさんが記憶を失ったままなのは悲しすぎる。だからどうにかしてよりを戻す方法を話し合いたい。
「……大切な人が自分の記憶を忘れてるって辛いことだと思うんだ……」
「……お兄ちゃん」
僕の言葉に、静かに話を聞いていたアカメが反応して僕の方を見る。僕はアカメの傍まで歩み寄って隣に腰を下ろす。そして彼女の手を軽く握る。
「僕は少し前までアカメが自分の妹だという事を知らなかった。でも僕とアカメは少し前まで敵対関係で、その事実を僕に明かすことが出来なかった。そうだよね?」
「……うん。魔王軍に所属していた時にその件がバレてしまうと、私が処刑される可能性があったから……」
「そのような事が……」
「……アカメには長い間辛い気持ちにさせてしまった。
今更謝ってもどうしようもないことだけど……気付けなくてゴメン」
「お兄ちゃん……」
アカメは驚いた表情をする。
「……レイは二人が自分達と同じような境遇だと考えているのですか? それで、カレン達に自分と同じ過ちをしてほしくないから事実を伝えたいと?」
「……」
エミリアの質問に僕は即答はしなかった。
だけど、片方が血の繋がりを知っていて、もう片方が何も知らないという状況のみを考えるならば大体当てはまるだろう。
そしてエミリアの後者の推測も当たっている。
「……なるほど、レイ様が感情的になっているように思えたのは、自分達の境遇を二人に重ねているからという事でございますね」
「……感情的? 僕、そんな風になってた?」
「ええ」
レベッカは僕のその言葉に肯定の意を示して続ける。
「とても焦っているように感じられました」
「……そうか」
自分では気づかなかったけど、事実を知ってほしいという自分の感情に流されていた。
もし皆に相談しなければ、僕はそのままリーサさんに真実を伝えようとしたかもしれない。その結果どうなるかも考えずに。
「……レイくんの気持ちはよく分かったわ」
姉さんはそう言った。しかし、言葉を続ける。
「でも、結局のところ。これはカレンさんがどうしたいのか聞いてみる必要があると思うの」
「……!」
「ということで、カレンさんに会いにいきましょう?」
「え?」
姉さんがそう言うと、皆は一斉に立ち上がる。
「ほら、レイくんも?」
姉さんは座ったままの僕を見下ろしながら僕に手を差し伸べる。
「あ……うん」
僕は姉さんの手を取って立ち上がり、一先ずこの場を離れてカレンさんに会いに行くことになった。
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