第932話 目立つのは嫌だけど仲間だけ目立つのに嫉妬するレイくん
キマイラとの戦いが終わり、レイ達はその場である程度の休息を取ってからゼロタウンに帰還した。
毒を受けていたアカメとルナもエミリアが用意した解毒剤で無事に解毒されたことで目を覚まし、無事に帰ってくることができた。
その後、冒険者ギルドで今回の正体不明の魔物の事をミライさんに報告した時には随分と驚かれてしまった。
「そんな強い魔物がこの近辺に隠れ住んでいたとは……」
「もし私たちがこの依頼を受けなければ、この国はいずれ滅んでいた……お兄ちゃんに感謝すべき」
アカメがそんな事を言うので、聞いていた他のギルド職員さんが騒然としてしまい、危うく大ニュースになってしまう所だった。
その後、ギルドの奥に通された僕達は初めてゼロタウンのギルドマスターと対面し、少々大げさなくらいの対応で出迎えられた。
「よくやってくれた! 君達はこの国の救世主だ!!」
そんな大袈裟に褒めるギルドマスターだが、正直今更感がある。
「あ、あはは……どうも」
エミリアの認識阻害の魔法は便利なのだが、お陰で僕の事を以前から知らない間柄だと誰も僕の事を魔王を倒した勇者だと認識しない。
とはいえ、元々ギルドマスターというものは社長みたいなもので、ある意味雇われている平社員のようなポジションの冒険者と面識が無い事の方が多い。
カレンさんのような英雄級の冒険者ならまだしも、僕がお世話になっていた頃は駆け出しも良いところだったので知らないのも無理のない話だ。
「ギルマスなのにレイの事知らないなんて……」
「いや、アンタの施した魔法のせいでしょ、エミリア……」
隣で僕の袖を引っ張りながらエミリア。その様子を見ながらカレンは少し呆れ顔となる。
「……ん? そちらのお嬢さん、もしかして……英雄カレン!?」
ほら、有名人のカレンさんはすぐに気付いた。そしてカレンの存在に気付いたギルドマスターが彼女に握手を求めに行く。
「いやぁ、貴女のような人に会えるとは光栄です」
「え、ええ……」
カレンさんは露骨な造り笑顔を浮かべてギルマスの握手に応じる。明らかに僕と対応が違うのが少しもにょる……。
……別に良いんだけどさぁ。今回正体不明の魔物を倒したのは一応僕なんだけど……。
「ねぇエミリア。今、認識阻害の魔法解いたらどうなるの?」
「んー……凱旋の時の映像はこの国にも放映されていたはずなので、あのギルマスもレイが勇者だという事に気付くんじゃないですか? あのギルマス、思い出したら腰を抜かすかもしれませんね……試してみます?」
エミリアは悪戯っぽくそんな事を言うが、とんでもないと首を横に振る。
「いいよ、やらなくて」
目立たないことを望んでいるのは自分自身だ。ちょっとカレンさんの知名度に嫉妬してしまったが、僕はこのスタンスを崩したくないのだ。
その後、ギルドマスターに気に入られた僕達(メインはカレンさん)は、元の依頼報酬の十倍の報酬を受け取ることになった。
元の時点でA級高難易度任務のため金貨四十枚という高報酬だったのだが、今回の僕達の情報でそれがS級に匹敵する物だと判断された結果だ。
要するに今回の依頼一つで金貨四百枚の報酬ということになる。
流石に今すぐ用意出来ないので、明日までに用意するから取りに来てくれという事になったので、僕達はギルドを後にして宿に戻る事にした。
「しかし金貨四百枚って、私が受けた報酬の中でも最高額よ」
カレンさんは疲れた表情でさっきの報酬の話を口にする。
「普通じゃ味わえない様な金額ですね」
「もう冒険者業は引退間近だと思ってたから、今になってこんな大金が貰えるなんて予想もしてなかったよ……」
とはいえ、この臨時収入はとても助かる。冒険者の仕事が減ったせいで最近の収入が不安定になってたし、これでまたしばらくはお金の心配をしなくて済みそうだ。
「姉さんにもいい報告が出来そうだ」
宿で待っている姉さんの顔を浮かべて僕は少し顔が緩んでしまう。
「ベルウラウ、家計が火の車ってよく愚痴ってましたからね……」
「(お金で苦労する神とは一体……)」
口にこそしないが誰もがそんな事を思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます