第931話 決着
【視点:レイ】
レイとキマイラの戦いが始まってから30分程経過した頃……。
戦いそのものは相変わらず優勢で、レイ自身まだまだ余裕がある状況である。
エミリアと交代してから僕は既に五回はキマイラの肉体を滅ぼしており、取り込んだ魂もそう多くは無いだろうと予想していた。
しかしここにきてキマイラの様子がおかしくなり、その再生が目に見えて遅れてきた。
いくら不死身の様な再生能力があるといっても実際に不死身というわけじゃない。
”白玉”の反応があったということは、この魔物は内部に魔王のチカラを取り込んでそれを放出することで今の強さを維持している。
キマイラの異常な再生能力もそれが理由だと考えている。
「そろそろ限界近いって事かな……」
取り込んだ力を使い切ってしまえば、魔物の再生能力も当然落ちるという解釈だ。
となればこの戦いももはや終幕。後は剣でも魔法でも何でもいいからこの魔物にトドメを刺すだけ。
そう考えて、最後の一撃を準備する。
「(手負いの獣は何とやらって言葉もあるしね……)」
ここで下手に近付いて手痛い反撃を受けるのだけは避けたい。そう考えて敢えて距離を取って聖剣の力を解放する為に聖剣に声を掛ける。
「蒼い星(ブルースフィア)」
『ん』
もはや阿吽の呼吸とばかりに僕の短い言葉で意図を察した彼女(ブルースフィア)は聖剣の力を解放する。
万一止めを刺し損ねないよう聖剣に力を溜める。接近せずに聖剣技を使用して遠距離から塵も残さずにキマイラの再生能力ごと焼き殺す算段である。
レイは必殺の一撃を放つ為に構えて剣を上空に振り上げる。
「聖剣技―――」
そして、振り上げた剣を振り下ろすと同時に技を解放する。
『GUUUWAAAAAAAAAAAAA!!』
「!!」
しかし、それと同時にキマイラがこちらに向かって物凄い速度で駆けてくる。
が、既に聖剣技の発動は終えている。こちらに迫って鋭い爪を振り下ろそうとするキマイラだが、こちらにその爪が触れる寸前に―――
聖剣を輝きが周囲を包み込む。その輝きと熱量は今までに使ったどの技よりも大きい物で、周囲を眩い白い光が侵食していく。
「―――
刹那、聖剣から放たれた光が周囲を切り裂き焼き尽す。
満天の星空のような美しい輝きを見せる光と裏腹に、キマイラは光の中でその肉体を断末魔をあげながら焼き尽くされていく。
そして数秒後に光が治まると……キマイラの姿は何処にも無かった。
キマイラだった存在は光と共に浄化され取り込んだ魔王の魂は全て天に昇っていくのが見えた。
「……終わった……のかな」
『……お疲れ様』
彼の呟きに相方の蒼い星(ブルースフィア)が淡々とした声で応えた。
「……はは、ありがと」
レイは素っ気ないその声色に返事をしてから、そのままバタリと地面に倒れて大の字に寝転がる。
「……疲れた」
思えばゼロタウンに戻って依頼を頼まれてここに来てからずっと戦い続けてきた。
最初は軽い魔物討伐と調査を頼まれただけのつもりだったのに、最初の魔物の群れを蹴散らしたあとにこんな裏ボスみたいなのが登場するとは思わなかった。
しかも魔王の魂を複数取り込んで実質不死身に超パワーアップ状態とか誰も予想出来ないだろう。
お陰で今回は本気で絶体絶命の状態に追い込まれてしまったし日を跨いで戦い続けた結果、あと数時間もすれば夜明けを迎える。
「なんか眠くなってきたよ……」
『もう深夜だし当然、でもここで寝たら風邪を引いてしまう』
「分かってるけど……」
戦いが終わって安心したら、緊張が解けて一気に疲れが押し寄せてきた。
「でも……もう、限界……」
『レイ?』
「スゥ……」
『……おやすみ』
そんな彼の寝顔は年相応にあどけなく、安らかだった。
そんなレイを見守るように蒼い星が彼の傍で輝き続けていた。
なお、その直後の話。
「眩い光と轟音の直後に化け物の気配が消えて、レイ様の無事を確認にしに来たのですが……」
「レイが倒れています!!」
「嘘……!? レイ君、しっかりして……!!」
ただ寝ていただけなのに仲間に誤解されてしまっていた。
『……』
使い手以外との会話が出来ない蒼い星は、少し呆れながらもその様子を見守っているのだった。
こうして、化け物ことキマイラとの決着は終わった。
ただの寄り道だったはずのギルドの依頼だったはずなのだが、予想外の大苦戦を強いられたレイ達一行。その強さは今まで戦った魔王よりも上で、レイ達はこれ以降、ギルドの依頼を受けるときは自分達の強さを過信せずに入念な準備を行うようになった。
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