第918話 敵がゾンビアタックしてくるクソゲー

 変身したルナの背中に乗ってレイ達は山を降ると、先に麓に降りてきていた先程の冒険者達と鉢合わせする。


「おーい!!」


 ドラゴンの乗ったレイ達の姿を確認した冒険者達は、こちらに向かって手を振ってくる。


 ルナはその声を聞いてレイが指示する前にスピードを緩めて地上に降りていく。そしてレイ達が全員背中から降りるとルナも変身を解除して元の姿に戻る。


 ルナが変身を解いたところで冒険者の一人が言った。


「お、おい。アンタら無事だったか?」


「さっき、物凄い落雷が山のてっぺんに落ちてたが一体なんだってんだ?」


「それに、ルナ……その姿は一体……?」


 冒険者達の心配そうな顔を見たレイ達は顔を見合わせる。僕達の事が気になって様子を見ていたらしい。怪我は全てルナに治療してもらったおかげで治っており、彼はもう既に大丈夫そうだった。


「実は……」


 レイはルナがドラゴンに変身が出来るという事を最初に付け加えて、頂上で出会った魔物の事を三人に説明する。


「……という事なんです」


「得体のしれない正体不明の化け物……」


「それ自体はギルドの情報にあったけど、そこまで恐ろしい魔物だったの……?」


「こうしちゃいられない。早くギルドに戻って応援を呼んでこないと!」


「ああ……! とても俺達にどうこう出来る話じゃない。冒険者総がかりで魔物を仕留めないと!」


「もし人里に降りてきたら恐ろしいことになるわ……!」


 冒険者三人はそう言って僕達に別れを告げて何処かに行こうとするが、それをレイ達は止める。


「ちょっと待ってください」


「どうした?」


 レイが彼らを引き留めると、こちらを振り向いてくる。


「あの魔物は僕達が何とかします。すみませんが三人は今回の情報をギルドに持ち帰って、誰もここに近付かないように言い聞かせてもらえませんか?」


「何だと!? き、君はいったい何を言っているんだ……!」


「そうよ……それほど恐ろしい魔物なら全員で協力しないと……魔王の再来になるかもしれないじゃない!?」


 冒険者三人の唯一女性の人がレイを説得する様に言葉を述べる。

 しかしレイはその申し出に対して首を横に振る。


「……多分、僕達以外じゃどうしようもない相手だと思うんです。それこそ王都の兵隊を率いればどうにかなるかもしれませんが……」


「生憎、ゼロタウンに兵隊は居ないし、失礼かもだけど冒険者のレベルもあっちの方が上だものね……」


 僕の言葉にカレンさんが補足する様に言う。


 その言葉を聞いて冒険者三人のうち二人は唖然とした表情を向けるが、当初足の骨を折って怪我をしていた男性は少し冷静になったのか、僕の顔をジッと見て質問してくる。


「……お前達なら勝てるっていうのか?」


「……今の段階では何とも言えません。ですが、僕達はアレ以上に強い敵と戦った事がありますので……」


「冗談、なんて事は言わないんだろうな?」


「冗談じゃないですよ。もし疑うなら、ゼロタウンの冒険者ギルドのミライさんに僕の事を尋ねてみてください。そうすればすぐに納得してくれると思います」


 僕は真面目にそう言い返すと、彼はため息を吐いて静かに息を整えると無言で頷いた。だが、もう一人の男性は僕の事を信用しきれないようで、こう質問してくる。


「ソイツ以上に強い敵って誰だよ? アンタ達何者だ? まさか、自分は魔王を倒した勇者だとか冗談言うんじゃないだろうな?」


「……」


 あまりにも直球な質問に、僕は一瞬ポカンとなり、後ろで見ていたカレンさん達が軽く噴き出した。


「な、何故笑うんだ……?」


「だ、だってねぇ……レイ君も言い返してあげなさいよ……!」


「もう言っちゃってもいいんじゃないの、レイくん?」


 笑っていたカレンさんと姉さんが僕にそう促してくる。正直、あまり正体を明かして大事にしたくなかったんだけど仕方ない。


「その勇者……実は僕の事なんです」


「「「えっ!?」」」


 僕の言葉に、今度はその質問した冒険者と、その仲間二人が驚きの声を上げた。


「えーっと……詳しい事はギルドのミライさんを訪ねて聞いてください。僕達は今からあの魔物をどうやって倒すか作戦を練るので……」


「というわけで、三人はギルドにこの事を報告しといてね?」


「あ、ああ……分かった」


 冒険者の三人は戸惑いながらも僕達にそう返事すると、そのまま麓を降りて街へと戻っていった。


 そして僕達は改めて山の方を見て、作戦を練り始める。


「さてと……あの魔物を倒す方法だけど……」


 僕がそう口にすると、アカメが手を上げて待ったをする。


「お兄ちゃん。その前にあの魔物の事を皆に説明をしておきたい……良い? 」 


「うん、お願いできる?」


「ん」


 アカメは頷いてから、僕達にあの魔物について説明を始める。


「あの魔物は魔王軍によって製造されていた魔物の一体。

 個別の正式名称は、”改良型四式対軍用生物兵器typeタイプD”……。

 魔王軍内では、単純に『合成生物』と呼ばれていた」


 合成生物……所謂、キメラという奴だろうか?


 確かに、あの魔物は様々な魔物や生物の肉体を継ぎ接ぎしたような異物感のある外見をしていた。


「よ、よんしきかいりょう……え、アカメちゃん。もう一回言ってくれる?」


 ルナは小難しい名前に弱かったのか、ちょっと頭がパンクしそうになっていた。


「”改良型四式対軍用生物兵器typeタイプD”……覚え辛いだろうし、”合成生物”キマイラか、化け物とでも呼んでおけばいい。

 魔軍将デウス・マキナが長年研究していた造られた魔物で、本来ならば王都襲撃作戦においてアレを切り札として投入する予定だった」


「だった?」


 アカメの言葉に疑問を覚えたのか、カレンさんは眉を寄せて難しい顔をする。するとアカメはこう付け加える。


「作戦の前日に最終調整をしていた所、あの魔物は突然暴走して制御が利かなくなった。それゆえに作戦に投入することは困難となって、魔王軍が壊滅するその日までずっと地下牢に幽閉されていた」


 それを聞いたカレンさんはホッとした表情で言った。


「そういうことね……。あの魔物が王都に攻め込んできた時の事を想像すると肝が冷えるわ」


「確かに……当時対峙することになったらどうしようもなかったかも」


「わたくしもあの魔物と単独で対峙してしまえば、おそらく逃げる以外の選択肢は無かったと思われます」


 カレンさんの言葉に姉さんとレベッカも同意する。彼女達の意見は僕も同意だ。


 冒険者さん達にはああいったけど、下手をすれば魔王よりも脅威と感じるほどの威圧感があった。


「……でも、よくあんな強力な魔物をそれまで制御しきれていたわね?」


 ノルンはアカメにそする。

 しかし、質問されたアカメは意外な言葉を口にする。


「……違う。少なくとも、あの魔物は私が知っているかぎりあそこまで凶悪では無かった。あんな再生能力も有していなかったはず」


「え?」


「理由は分からないけど、あの魔物は魔王軍に幽閉されていた時よりも何倍も強くなっている」


「そんなに強くなってるの?」


 僕がアカメにそう質問すると、アカメは「うん」と頷く。


「おそらく当時の私を含めた魔軍将四人がかりで今の合成生物に挑んでもこちらが負ける……もしかしたら魔王でも止められないかもしれない」


「そんなに……? でも、何故そんなに強くなってるの?」


 姉さんがアカメにそう質問するが、アカメも理由が分からずに困惑している。


 しかし、そこにレベッカが手をあげる。


「あの、もしや”白玉”が反応したことが関係しているのではないでしょうか?」


 ”白玉”しらたま……命名したのはルナで可愛らしい名前だが、魔王の魂を感知する魔道具の名前の事だ。


 レベッカの言う通り、僕達があの””合成生物”と戦う直前に”白玉”が反応していた。


 彼女の言いたいことは僕も考えていたので、僕が補足を加える。


「レベッカの言いたいことはこういうことだよね?

 あの”合成生物”に魔王のチカラが加わってより強化されているって事」


「はい。更に付け加えるなら今まで”白玉”は1回につき誰か一人しか反応を示していないことが多かったはずですが、今回に限ってはわたくし以外にもレイ様やカレン様、それにルナ様も反応しておりました」


「つまり……」


「ええ……あの合成生物の中には、複数の魔王の魂が乗り移って恐ろしく強化されているのではないかと……」


 彼女の言葉を聞いて僕達は静まり返ってしまう。


「……多分、何度も復活するのはそれが理由なんだろうね」


「……複数の魂があるから魂のストックがあるだけ蘇生するってこと?」


「……多分ね」


 ノルンの質問に僕は頷く。 


「ええっと……」


 その意味に気が付いたルナは顔を青くする。


「あの魔物の中に取り込まれている魂を全部倒し切らないと永遠に復活するって……あはは、まさか……そういうことじゃないよね……?」


「……僕も否定したいところなんだけどね、あはは」


 ルナの乾いた笑い声に僕は乾いた笑みで答えた。すると、カレンも言葉に出ないような声をあげる。


「ヤバいわね」

「かなりヤバいよね……」


 僕もそんな声しか出せなかったが、このまま放って帰るわけにもいかない。


「質問なのだけど私とベルフラウがここに来るまでに何回アイツを倒したの?」


 ノルンがそう質問してくる。


「んーと、確か二人がやってくるまでに三回……」


「二人が来てから私が聖剣技で1回、それにレイ君も神の雷で1回倒してるのよね?」


「うん」


「……つまり、最低5回は倒していると」


「問題は後はどれだけ魂の残数が残ってるかって事になるね」


 1回倒すたびに相手は魂を一つ消費してると想定するなら僕達は今回だけで5体分の魔王の魂を消滅させた計算になる。


 しかし、今まで生きた魔物に魔王の魂が乗り移っているなんて事態に遭遇しなかったので確証はできない。


「……そうなってくると作戦も立てようがないわね。復活し続ける魔物をこちらは全力で仕留め続けるしかない」


「どうにか上手い戦い方を見つけるしかないね……」


 僕達はそう言いながら山頂の方を見上げた。こうなれば、僕達の体力が続くまで戦い続けるしかなさそうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る