第916話 お姉ちゃん、動きます

 少しだけ時間を遡り、レイ達が北の山に到着して魔物との戦闘を始めた頃……。


「お姉ちゃんが居ないところで大変な事になりそうな予感!!」


「なによ藪から棒に……」


 ゼロタウンで待機していたベルフラウとノルンは仲良く喫茶店でお茶をしていたのだが……。


 何かを感じて不思議そうな表情を浮かべながら立ち上がって、突然喫茶店を飛び出していった。


「全く、しょうがない元女神様ね……」


 ノルンはベルフラウの奇行に呆れながらカップに注がれたレモンティーを飲み干してから彼女を後を追う。そして会計を済ませて店を出ると、ベルフラウが女神パワーで上空に浮かんで祈るようなポーズでブツブツと何か呟いているのが見えた。


 ノルンは彼女に聞こえる様に声を張り上げる。


「ベルフラウー、どうしたのー?」


 ノルンがそう叫ぶと、すぐにベルフラウはノルンに呼ばれたことに気付いて地上に降りてくる。


「レイくん達がピンチになりそうな気がするの!!」


「それ、本当?」


「元女神様としての勘!」


「……元神様なだけに信ぴょう性がありそうなのが面倒ね。どうするの?」


「私たちも行きましょう!」


「今から北の山に?」


「そう!」


「飛行魔法を使ってもかなり距離があると思うのだけど?」


「大丈夫! 可能な限りレイくんの近くまで空間転移するから!!」


「空間転移の距離はせいぜい数キロが限界じゃなかったの?」


「レイくんへの愛があれば!」


「あれば?」


「色んな意味で頑張れると思うのっ!!」


「……そう」


 そんな会話をしながら、二人はレイ達の元へ向かうのだった。


 ◆◇◆


 そして今現在のレイ達は……。


 ドラゴンになったルナの背中に乗ってレイ達は山頂まで辿り着いた。


 上空には得体の知れない化け物の上半身とアカメが対峙して戦っているのが見える。


 彼女は自身が使える独特の魔法で化け物と戦いを繰り広げているのだが、彼女の使用する闇属性の魔法は化け物には相性が悪いらしく、決定打には至っていないようだ。


 しかし、アカメも負けておらず、持ち前の身体能力で回避と攻撃を同時に行いながら化け物を圧倒している。


 一方、化け物の方は背中から飛び出した肉塊を鞭のようにしならしながらアカメに向かって攻撃を繰り返している。


 その攻撃もアカメは見切っているようで、紙一重で回避してアカメは優位に攻め立てている。


 だが……。


「アカメ様の攻撃が殆ど通じておりません……!」


「戦況有利に見えるけど、アカメはかなり無理をしているように見えるわね。少しでも不意を突かれたら、多分……」


 カレンさんはアカメの戦闘を見て冷静にそう呟く。と、その時……。


「ぐっ……!」


 化け物の攻撃がアカメの右肩を僅かに掠める。今まで余裕を持って回避していたアカメだったが、体力の消耗が激しいのか回避が間に合わず、少しの傷を負う。


「アカメ!!」

『サクライくん、一気に浮上するよっ!!』


 ルナがそう叫ぶと彼女は背中の翼を一気に羽ばたいて急上昇する。そのタイミングでアカメが僕達の存在に気付いて、こちらに注意が向いてしまう。


「……っ、お兄ちゃん!」

「アカメ! 危ないっ!!」


 次の瞬間、アカメの背後から彼女の隙を狙うように化け物が体の至る所から触手のような肉塊が飛び出して彼女に襲い掛かった。


「しまった!!!」


 アカメは反応が遅れて肉塊の触手に拘束されてしまう。


「アカメっ!!」


 僕はルナの背中から飛び出して、彼女に纏わりついた触手を剣で斬り付ける。その隙にルナは化け物の後ろに飛んで、ルナの背中から化け物に弓を構えていたレベッカが化け物の胴体を矢で射抜く。


『GGGAAAAAAAA!!!』

 

 レベッカの放った矢は彼女の得意魔法の<重圧>グラビティが付与された一撃だ。その威力は魔物に腹に大穴をあける程に強力である。


 それだけのダメージを受けた化け物は、気味の悪い叫び声を上げて苦しみ、同時にアカメを拘束していた触手が解けて彼女も解放される。


 そして空に投げ出されそうになったアカメの身体を僕は両手でキャッチして、そのまま山頂までゆっくりと飛行魔法で降下していく。


「アカメ、大丈夫!?」

「う、うん。……ありがとうお兄ちゃん」


 アカメは僕にお礼を言うと、僕から目を逸らして若干気まずそうな表情をする。


「もしかしてさっきの掠り傷が痛いの……?」


「そうじゃない……けど……私が勝手に飛び出していって、こんな無様な姿を晒してしまった……」


 その言葉を聞いて、アカメが僕達に相談せずに勝手に飛び出してしまった事を気にしていることに気が付いた。


「あー、確かに僕達に相談してから言ってほしかったかも。アカメが急に飛んでいくものだから、僕達もちゃんと準備が出来ないまま追いかけてきちゃったし……」


「……ごめんなさい」


「いいよ、気にしないで。妹のちょっとしたわがままだと思っておくよ」


「お兄ちゃん……」


「でも、次からはちゃんと相談してね」


「反省する……」


 アカメは僕の言葉に素直に頷いてくれた。


「あのー、お二人とも……兄妹仲良くてとても和ませて頂いているのですが……」


「今、まだ戦闘中よ!! そういう話は後にして、後!!!」


 ルナの背中に乗って降りてきたレベッカとカレンさんが僕達に向かってそう叫ぶ。


「あ、そうだった……」

「ごめん」


 僕とアカメは共闘していたカレンさんに謝罪する。そして、地上に落下した化け物に止めを刺すべく僕達は地上に降り立ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る