第915話 全力で妹を助けたいレイくん

 アカメが合成生物と戦闘を開始してから小時間経過した頃……。


 魔物の群れと戦闘を行っていたレイ達はようやく戦いを終えて一息を付いていた所だった。


「ふぅ……中々手強い魔物達でございましたね」


 レベッカは構えていた弓と矢を限定転移で消失させて一息つく。


 同じく僕とカレンも武器を収めてレベッカの元へ向かって合流して言葉を交わす。


「これで全部倒したのかしら?」


「どうかな……? 依頼書に書かれてた正体不明の魔物らしき姿は無かったよ」


 他の冒険者の情報なので曖昧な部分もあるが、遠目から正体不明の魔物を目撃したという話だ。


 魔物は確かに強力だったが、何度か遭遇して戦った経験のある魔物ばかりだった。


 かなりの魔物を倒したはずだが、僕達の受けた依頼はまだ完遂してるとも言い難いだろう。


「そもそも正体の分からない魔物ってのが胡散臭いのよね……本当にそんな魔物が居たのかしら?」


「カレン様、それは情報を持ち帰ってくださった冒険者様に失礼でございますよ?」


「嘘付いてるとは言わないわよ。でもねレベッカちゃん。遠目で確認したって事は見間違いって可能性もあるでしょう? 情報を持ち帰ってくれた冒険者の一党は魔物の群れに襲われて必死に逃げ帰ってる最中だったらしいし、動揺してて見間違えた可能性だって……」


「確かにカレン様の仰る通り、情報に間違いが有る可能性もございますが……」


「他の冒険者もこの依頼に受けたみたいだけど、魔物に襲われて事実確認を取ることも難しかったみたいだからね……」


 僕だって正直怪しいと思ってるくらいだ。アカメが言うように魔王軍が管理していた調整中の魔物が今も生きていたとしても、こんな山奥まで逃げてくるのも考えにくい。


 第一、魔王城からこの大陸まで相当な距離がある上に海を渡らなければいけないのだ。


「とにかく、先に向かったアカメと合流しましょう。その後に一旦魔物の群れを殲滅したことをギルドに報告して、改めて調査隊を派遣してもらうのが―――」


 と、カレンさんが言い掛けた時、山の頂上付近から悲鳴に近い何かの声が上がった。


「っ、今の悲鳴は……!」


「アカメの声……!? いや、アカメの声も聞こえた気がするけど、何か…… !」


 なんというか、不気味な金切り声が混じっていた気がする。かなりホラーチックで、人間とも動物の声とも形容しがたい背筋が凍るような気味の悪い声だった。


「お二人とも、上をご覧くださいましっ」


 レベッカがいち早く異変に気付き上空を見ると、険しい表情を浮かべて僕達に叫ぶ。


 レイともその声の方向に視線を向けると……。


「……なんだ、アレ?」


 僕も同じように視線を向けて思わず絶句してしまった。いや、声に出さなくても二人も全く同じことを考えていただろう。


 僕達が遠目で見たのは、山頂の上空でアカメらしき翼を生やした少女が何かを相手に必死に戦っているのと……。


 アカメが敵対する、言葉では形容しがたい異形の存在が大暴れしている姿だった。


「ま、まさか……あれが?」


「依頼書に書かれていた正体不明の魔物……なんとおぞましい……!!」


「と、とにかく……アカメを助けないと……!」


 僕達は全身の毛が逆立つような嫌悪感を感じつつも、上空に居る異形の存在とアカメに向けて走り出していた。


「あれがアカメが遭遇した魔物……!! たしかに形容しがたい姿ね……」


 カレンも僕達と同じ気持ちなのか、険しい表情で異形の存在に対して感想を述べている。


「魔王軍はあんな魔物を作り出して戦力を増強させていたとでもいうのですか……!!」


 今になって魔王軍という存在が、人間にとってどれ程邪悪だったのかを改めて実感する。


「ここからじゃ状況がよく分からないけど、アカメすら苦戦するほどよ。私たちがさっきまで戦っていた魔物とはレベルそのものが違うでしょう」


「そんな事はどうでもいい! 無駄話なんかしてないで1秒でも早く助けに行かないと!!」


 レイは二人にそう叫びながら全力疾走で駆け抜ける。しかしその時、僕達三人の所有していた魔王探知機こと”白玉”が突然発光して僕達の頭上に浮かびあがった。


「な!?」

「え!?」

「こ、これは……!」


 その光景を見て僕達は驚愕する。この”白玉”は近くに魔物の魂があれば、勝手に起動してこうやって頭上に現れる。つまり、この近くに魔王が近くに漂っているという事なのだが……。


 問題は、その反応が正体不明の魔物の方に反応を示しているという事だ。


 今までは『魂』そのものを探知していて、が近づくまで実体が無かったはず。なのに、こうして目に見える形で反応しているという事は……。


「魔王があの化け物の肉体を乗っ取って顕現してる!?」


「冗談じゃないわよ!! 私たちの許可なく勝手に魔王が復活するなんて許さないわよっ!!」


「く……正体不明の魔物で実力も未知数というのに、魔王の魂が乗り移っているとなれば……アカメ様でも苦戦するはずです」


「とにかく、今は一刻も早くアカメの所に行かないと!!」


 3人はそう結論付けると、更に走る速度を上げて山頂に向かっていく。


 しかし、彼らが必死に山道を駆けていると、その後ろから大きな飛行生物が空を猛スピードと飛んできて彼らの後ろまで迫ってくる。


「つ、次は何?」


 カレンは状況が切迫しており焦ったような表情で足を止め、背後から迫ってくる飛行生物を警戒して構える。だが……。


『サクライくん、カレンさん、レベッカさーん!!』


「ルナ!?」

「ルナ様!」


 その飛行生物は<竜化>の魔法でドラゴンの姿に変身したルナだった。彼女には、麓にいた冒険者達の治療を任せていたのだが、どうやら僕達を追って来てくれたようだ。


 僕達が足を止めると、彼女は上空で<竜化>の変身を解いて、飛行魔法を使って一気に降下して地面に降り立った。


「た、大変だよサクライくん! さっき、私の持ってる”白玉”に反応が……!」


「ルナのにも反応が!? ついさっき僕達の持ってる白玉にも反応があったんだよ!」


 僕はルナにそう返事を返しながら腕を伸ばして、山の頂上付近で戦ってるアカメと正体不明の魔物を指差す。


「あ、アカメちゃん!?」


「僕達がそれに気付いて走り出したら、あの気持ち悪い化け物に白玉が反応したんだ!!」


「おそらく、あの魔物に魔王が憑りついております……」


「ルナ。何度も悪いんだけど、もう一度変身して私たちをあそこまで運んでくれない? 流石に全力で走りながら頂上を目指すのは骨が折れそうだわ」


 カレンさんはルナにそう問いかける。いくら僕達の移動速度が速いと言ってもここからだと距離がありすぎる。しかも障害物などは迂回しなければならないので直線距離で行けるわけでもない。


「分かりました!」


 と、言って竜の姿にルナは変身する。


『皆、急いで乗って!』


 ドラゴンに変身したルナの言葉に僕達は一斉に彼女の背中に飛び移る。


『アカメちゃんのピンチだから、全力スピードで行くよ!! 振り飛ばされないように注意して!!』


 ルナはそう言いながらドラゴンの咆哮を上げて翼を大きく開いて、僕達を背に載せながら高速で山頂に向かって飛んで行った。

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