第914話 バケモノ
前回のあらすじ。ミライさんに依頼されたクエストの内容にあった正体不明の魔物。その魔物が魔王軍によって管理されていた未知の魔物ではないかとアカメは推測する。
元魔王軍の幹部だったアカメは自分達が管理していた魔物のせいで人々が迷惑していると考えて一人で飛び出してしまう。彼女一人では危ういと考えたレイ達は最も戦力として適したメンバーを選出して彼女を追うのだった。
そして、目的の北の山へと向かうと、途中で怪我をしている冒険者たちと合流する。彼らに話を聞いてみると、この先に居る魔物達に歯が立たずに岩陰に隠れていたようで酷い怪我をしていた。
また、彼らからアカメらしき人物の情報を聞くことが出来た。
しかし大怪我をしている彼らを放置するわけにもいかず、先行しているアカメの身を案じたレイは、ルナに彼らの治療を任せて先に進むことを決意する。
・・・・・・・・。
レイに彼らの治療を任されたルナは回復魔法を使用して彼らの治療に専念していた。
「……もう大丈夫ですよ。足を動かしてみてください」
ルナは回復魔法を中断して自身に顔に滲んだ汗を手で拭いて、足に重傷を負っていた男性に声を掛ける。
「お、おお……動く、動くぞ……!」
先程まで青い顔をして地面に横たわっていた男性は、自分の足が元の状態に戻ったことに喜んで思わず立ち上がった。
「うぉぉぉぉ!」
だがまだ完治には程遠いのであろう、痛みを思い出したせいかその場に蹲る。
「だ、大丈夫!? アンタ何やってんのよ?」
その様子にもう一人の怪我をしていなかった女性が心配して声を掛けると、蹲ってた男性は答える。
「きゅ、急に動いたせいで足の筋肉が解れてなかった……」
「し、心配させんなよ……」
蹲った男性にもう一人の男性は呆れながらも安心したような声で男性に言う。
「それじゃあ次はお二人ですね」
「ああ、俺は後で良いからユリナの方を頼む」
もう一人の男性はそう言いながら唯一の女性の方に視線を向ける。
「私は別に……」
「俺の事は気にすんな。頼むよ嬢ちゃん」
「ふふっ、分かりました」
ルナはなんとなく二人の関係を察したのか、微笑みながら女性の傍に膝を落として背中に手を当てる。
「っ……!」
するとユリナと呼ばれた女性の顔が一瞬苦痛に歪む。女性の服に血が滲んでおりルナに手を当てられただけで反応したことから、今まで表情に出さなかっただけでかなりの怪我をしていたことにルナは気付いた。
「ユリナさん、背中の状態を確認したいので服を脱がしますね。すみませんが男性二人は……」
「ああ、近くまで見張りにでも行ってくるよ。……おい、行くぞ」
「あ、足の筋肉が固まって……と、何とか歩けそうだ」
そう言って二人の男性はルナ達の目が届かない場所まで歩いていった。
「それじゃあ服を脱がしますね……」
「ご、ごめんなさいね……いたたたた……!!」
ルナはユリナの上着に手を掛けて服を脱がすと、彼女の背中に大きな火傷があり酷い状態だった。
「酷い怪我ですね……待っててください……」
ルナは彼女の火傷の中心に軽く手を当てて回復魔法を唱える。
「どうですか……治療中はそこまで痛くないと思うんですけど……」
「あ、アナタ、まだ若いのに凄いわね……もしかして聖女様なの?」
「聖女?」
「もしかして知らないの? 魔法使いにも分類があって、回復魔法が得意な女の人は一般的には”聖女”って言われるのよ。ちなみに男性の場合は”聖者”って呼ばれるわね」
「初めて知りました……」
「回復魔法は他の魔法よりも才能が無いと効果が薄いんだけど、アナタはかなりのモノよ……それだけの魔法の才能は羨ましいわ」
「あ、ありがとうございます」
「でもアナタ達の仲間が心配ね……この先の魔物は本当に強いのよ。私達、これでもゼロタウンではそれなりに有名なパーティなんだけど、全然歯が立たなくて簡単にやられたのよ……」
「大丈夫ですよ。サクライくんは……じゃなくて、皆は私よりもずっと強いですから……」
ルナが彼女を励ますように明るい声で言うと、ユリナはニンマリ顔を浮かべる。
「な、なんですか?」
「ふ~ん、もしかしてサクライくんってアナタのコレ? 好きな人の事になると急に明るくなる女の子って多いのよねぇ」
「ほえぇ!?」
突然そんな事を言われたルナは思わず顔を赤く染めた。
◇◆◇
その頃、レイ達はアカメを追うために途中にある廃村を超えて、北の山を登り続けていた。
「アカメ、どこまで先に行っちゃったんだろ」
「こっちは徒歩だけど、あっちは空を飛んでるから仕方ないわよ」
「申し訳ございません、わたくしが飛行魔法を使えないばかりに……」
カレンの言葉にレベッカが申し訳なさそうに言う。
「レベッカが悪いわけじゃないよ。仮に僕達が飛行魔法を使えたとしてもアカメの速度にはとても追いつけないし……」
と、僕達が話しているとレベッカが急に立ち止まる。
「どうしたの、レベッカ?」
「……油断しました。わたくし達が久しぶりの登山に苦戦している間に囲まれてしまったようです」
僕達は辺りを見渡すと、岩陰から身体を休めていた大柄のコボルドやゴブリン達が身体を出して、ニヤニヤ笑いながらこちらに近寄って来ていた。
「ゴブリンとコボルト……その中位種ね……正直大した相手じゃないけど……」
「いや待って……どうやら他にも強そうな魔物が潜んでるみたいよ」
僕は奥の方を指差す。そこには、更に巨体の魔物……引き締まった肉体と巨大な棍棒を持ったオーガロードに、鋼鉄の身体と攻殻を備えたガーゴイル数匹。
更には魔王軍の残党と思われるレッサーデーモンまでもが紛れ込んでいた。
「なるほど……アカメの推測も間違ってなかったみたいね……」
「これだけの数の魔物がゼロタウンの近辺に潜んでいたとは……わたくし達が訪れなければ、いったいどれ程の被害になっていた事やら」
「……だね。普通の冒険者じゃ手に余っても仕方ないかも……」
僕達は敵の戦力を分析しながら武器を取り出して戦闘準備を整える。
「――でも、私たちの敵じゃないわ」
「ええ、カレンさんの仰る通りでございますね……何せわたくし達は……」
「こいつらの親玉の魔王を倒した勇者パーティだからね。悪いけど、この場で一匹残らず倒させてもらうよ……!」
そして、僕たちはこちらに向かってくる魔物達との戦闘を開始した。
◆◇◆
一方その頃……レイ達よりも先に進んでいたアカメはというと……。
彼女は自身の飛行能力で山頂付近まで向かっていた。そして頂上が近づくにつれて、強力な魔物達の姿を目にしてアカメは表情を曇らせていく。
「……やはり魔王軍の生き残り……まさか人里に近い場所に隠れ住んでいたなんて……」
アカメは自身の今までの行いを悔いて辛い表情をしながらも、自分の仲間だった魔物達に掌を向けて攻撃魔法を連発する。上空から地上に向けて彼女の魔力弾が降り注いで次々に魔物を撃墜していく。
「ギャアアアアア!!!」
「グアアアア!!!」
魔物達は自分達を攻撃する人間が元上司だとは思わず、訳の分からないうちに次々と空から攻撃を浴びてしまう。そして圧倒的な彼女の力には為す術がなく呆気なく打ち倒されてしまった。
人間の姿に戻ったとはいえ彼女の魔軍将としての能力は未だに健在だ。
「……虚しいものね」
アカメはそう呟きながら、魔物達の屍を一瞥してそのまま空を飛んで先に向かう。そして山の頂に辿り着いた。
「……予想通り」
アカメの視線の先には、レイ達が今まで遭遇したことのない恐ろしい魔物の姿があった。
その姿は歪で獣のようなたくましい四肢を持ちながら、上半身はアンデッドの様な人型の骸骨の上半身であり、更には背中に血塗られた内臓が翼のように飛び出して血が滴っていた。
そしてその魔物の顔は……。
「……相変わらず気持ち悪い」
アカメがその魔物を見てそう思うのも無理もない。何故なら、その魔物の顔は太った豚のような顔に膿が大量に詰まってブクブクに膨れ上がったような大きな目と巨大な口がある。
あまりにも不自然でグロテスクなその魔物の正体は、魔王軍の中でも忌み嫌われる“合成生物”の一種であった。
「お前があの魔物達を引き連れてこの山を支配していたのか……?」
アカメはそう尋ねるが、そのグロテスクな魔物は筆舌に尽くしがたい奇怪な声を上げるだけだ。彼女の姿を認識しているのかすら定かでは無い。
「……もういい。目障りだから消えて」
アカメは目の前の魔物に言葉など無意味と考えて掌を魔物に向ける。そして先程殲滅した魔物達のように目の前の魔物を魔力弾で葬り去ろうと考えたのだが……。
次の瞬間、アカメの頭上に彼女の持つ”白玉”が出現した。
「何故、このタイミングで……? ……はっ!?」
その瞬間、アカメは気付く。白玉が反応しているのは目の前の魔物に対してだという事を。
そして、魔王探知機である”白玉”が反応したということは……。
「……まさか、コイツの肉体に魔王の魂が―――」
次の瞬間、合成生物は恐ろしい悲鳴のような声を上げながら、背中に生えた内臓が更に飛び出してアカメに襲い掛かった。
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