第913話 北の山へ

 前回のあらすじ。


 僕達はギルド職員のミライさんと久しぶりの再会を果たす。


 色々労ってくれた後に、ミライさんから依頼を受けることになった。僕達は依頼を承諾してから一旦宿に戻り、エミリアを除く仲間達とその内容を詳細を話し合う事に。


「それでレイくん。依頼書の内容はどうなってるの?」

「ええとね……」


 僕はミライさんに渡された依頼書の捲って中身を確認して読み上げる。


「……北の山にある以前に廃村が魔物の巣になっているから、それを討伐してほしい……。

 どうやら昔を懐かしんだ村人さんが様子を見に行った時に廃村が魔物の巣になってる事が発覚して、その後冒険者ギルドに依頼を出したけど、討伐に向かった冒険者一党が返り討ちになったらしいね。今でも時々冒険者さん達が挑んでるみたいだけど……」


「ふむ……ミライ様が高難易度の依頼だと言っていたのも理解できますね」


「あと返り討ちになった冒険者の目撃談も書いてある……見た事も無い魔物が居たらしいよ。少し離れた場所で目撃したからどういう種類の魔物か詳細は書かれてないけど、一応警戒した方が良いかもね」


「うーん、ここにきて新種の魔物? 魔王が倒されたってのに……」


 カレンさんが首を傾げるが、隣で一緒に話を聞いていたアカメが何か思案する様に顎に手をやりながら呟く。


「……もしかしたら、魔王軍で調整中だった魔物が逃げ出して、野良の魔物達を引き連れてるのかも」


「調整中? それどういうこと?」


 アカメの発言にカレンさんは聞き返すが、アカメはちょっと溜め息を吐いて答えた。


「言葉通り……魔力から自然に沸く魔物以外にも、何らかの薬や細胞を投与されて強化された魔物も存在する。

 魔王軍の大半の魔物は戦力を増強する為に、魔物を品種改良した結果……普通の動物より強いモンスターが何種類か出来たけど、野生の本能のまま勝手に暴れさせるよりも調整が必要で……」


「で、僕達が魔王を倒しちゃった結果、その魔物が野生の魔物に紛れて逃げ出しちゃった……とか?」


「……その可能性は高いと思う」


 アカメは僕の推測に肯定する。


「どのみち、これは魔王軍のせい……元魔王軍の一員だった私が解決すべき事案」


 アカメはそう言いながら宿の外に出る。


「アカメちゃん? まだ作戦も立ててないよ?」


「……ルナ。今回は皆を巻き込めない。元魔王軍の幹部として、私が一人で行く」


 アカメはそれだけ言うと、背中から天使の翼を生やして宿から飛び立って行った。


「アカメちゃん!」


「……仕方ないわね。あの子一人じゃ不安だし、私たちも急いで行きましょう」


「メンバーはどうする? ドラゴンに変身できるルナは確定だろうけど、流石に私たち全員運ぶのは負担でしょう?」


「だね……」


 ノルンの言葉に僕は肯定の意思を示して、誰を連れていくか考える。


「今回は敵が未知の存在だからね。まずカレンさんとエミリアは確定として……」


「レイ君、エミリアは今頃、自分の魔道具回収の為に駆け回ってるわよ」


「……すっかり忘れてた。なら僕とカレンさんとレベッカの三人で行くよ。姉さんとノルンは留守番をお願い」


 選定基準は純粋な戦闘力の高さだ。


 リーダーの僕は当然行くとして、前衛として優秀なカレンさんと、支援能力が優れており前衛でも槍で戦えるレベッカ、この三人で行けばどうにかなるだろう。魔物に囲まれた際の突破力を考慮すると、エミリアも加わるのが最適解となるんだろうけど……今回は諦めるしかない。


「気を付けてね」

「もし何かあったら戻ってきてねー」

「うん、それじゃあ行ってくるよ」


 僕達は二人と別れて、先に宿を飛び出していたルナに声を掛ける。


「ルナ、メンバーは決まったよ。アカメは?」


「アカメちゃん、凄いスピードで飛び出していったよ! 心配だから早く急がないと……<竜化>!」


 アカメが心配のあまり、ルナは急いで<竜化>の魔法を使用して、その身を美しいドラゴンへと変化させる。


『さぁ、乗って!!』


 僕達はルナの翼に乗り、飛び立って北の地へ急いだ。


 ◆◇◆


 廃村に到着した僕達が辺りを見回すと、岩の物陰に隠れて傷付いている冒険者っぽい恰好をした3人を発見した。


「大丈夫!?」


 僕は急いで駆け寄り確認すると、その3人は疲れ果てていて動く事すら辛そうであった。


「ぞ、増援か? 助かった……」


「あなた達、冒険者? ここの魔物、数も凄いけど物凄く強くて私たちじゃ歯が立たないわ」


「悪いことは言わない……アンタ達だけじゃ頭数足りないから出直した方が……」


 男性2人と女性1人のパーティのようだ。


 あちこち怪我をしているようで、男性の一人は足の骨が折れてしまって動けない状態だった。


「酷い怪我ね……」


「レイ様、この男性の方、足の骨が折れております……大丈夫でございますか?」


 レベッカが足の骨が折れて横たわってる男性を気遣って声を掛ける。


「っ……いたた……」


 男性は足の痛みで顔を顰めてレベッカの気遣いに返事も出来ないくらいに重症のようだ。すぐに治療しないと不味いかもしれない。


「ルナ、この人達の怪我の治療を任せていいかな?」


「うん!」


 僕が彼女にそうお願いすると、すぐに回復魔法で足の骨が折れた男性の治療を始める。


「すみません、僕達以外に誰か来ませんでした? 具体的には、背中に天使の羽の生えた女の子を探してるんですけど……」


「いや、そんな奴は見てないが……」


「あ、もしかしたら私見たかもしれない。逆光でちょっと見辛かったけど、それらしい人影を見たような……」


「そ、それって何時くらいです?」


「……十分くらい前かしら?」


「分かりました。情報ありがとうございます……ルナはこの人達の治療に専念してて、僕達はアカメを追うよ」


「うん、私も終わったらすぐに変身して向かうよ」


 ルナは怪我の治療を行いながら僕達にそう言った。ルナ達に見送られて、僕とレベッカとカレンさんの三人でアカメを追う事にした。

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