第908話 猫かぶりエミリア
前回までのあらすじ。エミリアがミーアの正体だった事が判明。ノルンの元の姿がとんでもない事も判明してレイはノルンの美貌に見惚れてしまった。
「それじゃあ二人とも、またね」
「あ、はい」
「い、行ってきます……?」
一時的に大人の姿に戻ったノルンに見送られてレイとエミリアの二人は部屋を出る。そして二人は言葉もないまましばらく黙々と廊下を歩いて、適当な場所で足を止める。
「……って、いつまで顔赤らめてるんですかっ!!」
エミリアは突然大声を上げてレイの胸倉を両手で掴んで揺する。
「いやぁ……だって、ねぇ?」
「ノルンが想像以上の美人だったことは私も認めますけどねぇ。いくらなんでもデレデレし過ぎじゃないですか!?」
エミリアは頭をふりふり怒りながらそう話す。
しかしレイは困ったような表情を浮かべてこう言い返した。
「別にデレデレなんかしてないって……。それよりレベッカ達の所に行こうよ」
「絶対嘘ですっ!!」
二人はそうやって喧嘩しながらレベッカ達に事の報告に向かったのだった……。
◆◇◆
そうして喧嘩しながら二人で船内を歩いていると……。
「お兄ちゃんにエミリア……二人とも少し様子が変……」
「あ、本当。おーい、サクライくーん!」
アカメとルナが僕達に気付いて声を掛けてくる。
船内で姿を見掛けなかった二人だが、どうやら二人は外に出て固まって行動していたようだ。
「アカメ」
「それにルナも一緒ですね」
「外に出て風に当たってた……二人は?」
アカメが僕達にそう質問する。
「うん、実はさっきまで猫のミーアを連れてきた犯人を捜してたんだけどね。なんと驚くことに……」
「……もしかして、猫の正体がエミリアだったって話?」
「え、知ってたの?」
アカメがあまりにもあっさり言い当てるので、僕は拍子抜けする。
すると、エミリアがバツが悪そうに言った。
「……実は、随分と前にアカメには正体がバレていまして」
「なんだ、そうだったんだ。アカメも知ってたなら言ってくれたらよかったのに……」
「口止めされてた……」
「私は初耳だよ~。エミリアちゃん、どうやって猫ちゃんの姿になってたの?」
「姿形を変化させる
「へぇー、そんな魔法が……私も使ってみたい!」
「かなり高位の魔法なのでいきなりは難しいと思いますよ」
ルナは変身魔法に興味深々のようだ。
僕は攻撃魔法と回復魔法しか使えないけど、高位の魔法は僕が想像するよりも多彩だ。他にも身体を巨大化させる魔法や天候を操作する魔法。幻覚を見せて周囲を偽装する魔法などもあったりする。
アカメに関しては魔王軍に育てられたということでかなり特殊な系統の魔法を使いこなせるらしい。
「……ところでお兄ちゃん」
「何、アカメ?」
「……何かあった?」
アカメが意味深にそんな質問をしてくる。
「特に何も無いけど……って」
僕がそう答えると、アカメがグイッと顔を近づけて僕のおでこに自分のおでこをくっつけてくる。
「ちょ……アカメ? 一体何してるの……?」
僕は動揺しながら彼女にそう尋ねたが、彼女はどうやら真剣に何かを確認しているらしく、僕の質問には答えない。
そしてしばらくして、僕の額から自分の額を離し……。
「普段よりも体温が0.1℃高い気がする……心拍数も少し上がっている」
「いや、アカメに急に近づかれたからドキドキしてるだけだって」
「……そう?」
アカメはいまいち釈然としない様子で引き下がった。きっと、まだ納得しきってないのだろう。
だが、エミリアがアカメに近付いて耳元で何をボソッと囁く。
「実は……」
「!」
アカメは驚いた表情をして僕に視線を戻す。
「え、何?」
「……ノルンが大人になってお兄ちゃんが欲情したってエミリアが」
「欲情なんてしてないよ!?」
エミリアめ、妹に余計な事を……。
「え、え? よ、欲情……? どういうこと?」
エミリアのせいでルナまで僕の方を変な目で見つめてくる。
「誤解だよ。エミリアも変な事を言わないで」
「ですけど……」
不満そうな表情を浮かべるエミリア。
僕は誤解を解くために、ノルンの部屋で起きた出来事について説明することにした。
「ノルンちゃん……そんなに綺麗だったの?」
「レイは完全にベタ惚れしてノルンに熱い視線を送ってましたよ……」
「い、いや、そんな事無いよ? 女性に失礼な視線を向けちゃダメってカレンさんから教わってるもん」
「いや、明らかに見惚れてましたよね」
「……はい」
言い訳はどうやら無理っぽいので、素直に頷く。
「ふ、二人もノルンに会いに行けば分かるよ。多分、まだ大人になったノルンの姿を見れると思うから……」
僕がそう言うと二人も興味があったようで、少し相談してからアカメとルナはノルンの部屋に向かっていった。
その後、僕とエミリアは姉さんのいる部屋に向かった。
ドアをノックして姉さんの許可を貰って部屋に入るとレベッカも一緒で、どうやら雑談していたようだ。そして猫のミーアがエミリアだったことを伝えると……。
「ふふ、わたくしは存じ上げておりました」
「お姉ちゃんもさっきレベッカちゃんに聞いたところ」
と、二人ともすでに猫のミーアの正体について知ってるような様子を見せる。
「やっぱりレベッカは知ってたんですね……」
「申し訳ございません。エミリア様が何かを隠されていることは薄々気付いていたのですが、わたくしからそれを言うのは憚られまして……」
「いえ、気にしないでください」
「……って事はなに? もしかして、エミリアがミーアだったこと知らなかったのって僕だけだったりする?」
「一応、ノルンやルナも気付いてはいなかったみたいですけどね……」
「ドンマイ、レイくん♪」
姉さんにそう励まされてしまった。
「でも、猫ちゃんに変身してたエミリアちゃん、大胆だったわよねー」
「え?」
「確かに……普段はレイ様とはある程度の距離感を置いて接しているように思えたのですが……」
「うぅ……」
姉さんとレベッカの言葉で何となく察した僕は、エミリアの方を無言で見やる。すると、エミリアはそれに気が付いたのか顔を赤くして早口でまくし立てた。
「ち、ちが……わなくもないですけどっ!! あれはその……そう、猫だから! 猫だからあんな事したんですっ!!」
確かに、猫のミーアとして接していた時の彼女は僕にベッタリで凄く甘えん坊だった。気が付くと足元に擦り寄ってきたり、僕に構ってほしそうに可愛らしい声で鳴いたりと……。
中身がどうあれ、僕にとってミーアとの触れ合いは至福の時間だったので全然不快ではないが……。
「も、もう猫に変身したりしませんから、これ以上の詮索は許してください……!」
二人のからかいに耐えられなくなったのか、エミリアは顔を真っ赤にしてそう叫ぶ。
だけど、それはそれで僕が困る。
「エミリア……お願いがあるんだ」
「な、何ですか?」
「これからも時々ミーアに変身して僕に甘えてほしいんだけど」
「羞恥プレイ!?」
「普通にミーアも可愛いからもっとその姿で遊んであげたいだけだってば」
「うぅ……分かりましたよ……」
エミリアは僕の要求を渋々受け入れた。その後、再びミーアに変身してもらい、僕が満足するまで猫になった彼女を抱っこして過ごした。
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