第907話 レイくんにかいしんのいちげき
ミーアの正体がエミリアであることが判明した。
レイは仲間達の元を回って無事に今回の件が解決したことを報告する。
それと一緒にエミリアがミーアであったことを仲間に明かすのだった。
「え、エミリアがミーアちゃんだったの!?」
「はい」
最初にミーアの正体に不安を持っていたカレンさんの元へ向かい、二人で事情を説明することになった。
「……」
ミーアを魔王軍の残党と勘違いしていたカレンさんは、エミリアの告白を聞いて唖然として表情を浮かべていた。
「な、なんでそんな事してたの……?」
「最初はイタズラのつもりだったんですが、色々あって正体を明かすタイミングを逃してしまいました」
「まさか中身がエミリアだとは僕も全然気付かなかったよ」
僕とエミリアは当時の事を思い出して笑いながら話す。
「もう、人騒がせな……」
「カレンだって私が魔王軍の残党だの魔物が化けてるだの言ってたじゃないですか。どっからそんな勘違いしたんですか」
「だ、だって、あまりにも不自然だったもの……」
カレンさんは自分の見当違いの推測を指摘されて慌てて言い訳をする。
しかし、突然表情が固まると、エミリアの目を見て質問する。
「……ちょっと待って」
「え? なんですか?」
「エミリアがミーアに化けていたって事は、アンタが猫の姿でレイ君の布団に潜り込んだり、一緒にお風呂に入ったりしてたわけよね?」
「あ」
エミリアもその指摘が事実だったのか、急に動きが固まる。
「言われてみると、確かに……」
実際、最初に猫に化けたエミリアと遭遇した時も僕はベッドでうとうとしててエミリアも僕の身体に乗っかって丸くなってたし、一緒にお風呂に入ってモフモフの身体を洗ってあげたり飛び出た爪を切ってあげたりしたことがある。
一緒にお風呂に入った時は下こそバスタオルで隠していたけど裸だったし、今思えば相当際どい事をしてたかもしれない。
とはいえ、僕も中身がエミリアだと考えていなかったので恥ずかしいなんて考えはしなかったのだが。
しかし、その時の事を思い出したのかエミリアは真っ赤になり、カレンさんは拳を震わせて綺麗な顔に目元をピクピクさせてエミリアを睨み付ける。
そしてその様子に焦ったのか、エミリアは突然後ろを振り向いて猛スピードで逃げていった。
「ちょ、待ちなさーい!!」
そしてカレンさんは怒った表情でエミリアを追いかけていった。
僕はそれを呆然と眺めていて―――
「わぁぁぁぁぁぁ!! 剣持って追いかけて来ないでくださーいっ!!」
「うるさーい!! レイ君と一緒にお風呂に入ったり添い寝するとか、うらやま……じゃなくて、なんて羨ましい事してるのよー!! 私もしたいのにー!!」
「言い直したのに本音がダダ漏れてますよー!!」
……二人はそう叫びながら船内で追いかけっこを始めて何処かに行ってしまった。
「えぇ………?」
残された僕は、カレンさんの普段の凛々しさが消えて、怒りの表情でエミリアを追いかけ回すカレンさんと、そんなカレンさんに追いつかれないように必死で走り回る魔法という概念を忘れたエミリアの二人を呆然と見つめながら呟くのだった……。
◆◇◆
その後、エミリアとカレンさんの追いかけっこが終わってから、僕達はカレンさんと別れてノルンの部屋に訪れていた。
そしてミーアの正体がエミリアだったことをノルンに話すと……。
「あら、そうだったのね」
と、特に驚いた様子も無くそう返された。
「もしかして、気付いてたの?」
あまりにも驚いた様子が無かったので僕はノルンにそう質問をしたのだが、彼女は軽く首を横に振ってそれを否定する。そして彼女はこう言った。
「人間が何らかの事情で姿を変えることは私の時代では珍しくないのよ。事実、私だって少し前まで『樹』に姿に変えてたし、今はこんな子供の姿をしているでしょ?」
ノルンは苦笑しながら自身の幼い身体に視線を落とす。
「すっかり忘れてましたが、その姿は本来の肉体では無いんですよね?」
「セレナさんがその身体を用意してノルンの魂を樹から移し替えたって聞いたけど……とんでもない魔法だよね」
僕とエミリアがそう質問すると、ノルンは苦笑して頷く。
「ええ、エミリアのお姉さん……セレナの禁呪によって仮初のこの肉体を作り出して私の魂をこの中に移し替えてくれたの。お陰で今はこうして自由に動けるようになったわ」
「元々はどんな外見をしてたんですか?」
エミリアはノルンにそんな質問をする。それは僕も気になっていたことだ。今でこそ子供の姿だが、樹に姿を変える以前の彼女は成人した女性だったと聞いている。
「んー……一時的に姿を再現出来ない事もないけど……見たい?」
「是非」
「僕も見たいかも……」
エミリアと僕がそう答えると、ノルンはベッドから立ち上がる。
「じゃあ……二人には特別ね……ちょっと待ってて」
ノルンはそう言ってから部屋の中央に移動して、こちらに振り向いてから目を閉じて、小さな声で何らかの呪文を唱える。
すると……彼女の身体の周囲がもやに覆われてはっきりと見えなくなった後、彼女の小さな身体が少しずつ変化して大きくなっていく。
そしてそれに伴ってもやから溢れ出す膨大な魔力とは別の力が彼女の身体に流れていき、その輪郭が大人の姿へと変わっていく。
最後にもやが晴れると、彼女は完全に大人の容姿をしており若干露出の多い巫女服をアレンジしたような服を身に纏っていた。
「……」
「……」
姿を変えたノルンを目撃した僕とエミリアは、彼女の容貌の変化に驚き戸惑いながらも……。
僕は彼女の美しい姿に見惚れてしまっていた。エミリアもその美貌には驚きながらも見惚れているのが分かる。
彼女の容姿は男の僕だけじゃなくて同性のエミリアをも見惚れてしまうほどで、姉さんやカレンさんとも違う別次元の美しさであり、神々しさすら感じさせる。
外見の年齢はおそらく二十五歳前後くらいなのだろうが、その表情は穢れのない柔和な表情で無垢清廉な印象を与える。だが決して幼いわけではなく、美貌と女性の理想とも言える完璧なプロポーションを持っており、そして巫女服という神聖な衣装を袖を通しているためかどこか神々しい。
「こんな感じの外見だったと思うのだけど。……どうかしら、何か感想ある?」
ノルンは少しだけイタズラっぽい子供の表情を浮かべて僕達に感想を求める。それがまた理知的な彼女とギャップがあってより魅力的に感じさせた。
その姿は可憐で美しく、そして知性と神々しさを感じさせる。
男女問わず思い描く絵画に描かれた天上の女神を想起させる姿だった。
「(ノルンがこんな綺麗な人だったなんて……)」
別に容姿が優れていたからというわけじゃないだろうが、ノルンの弟さんが彼女の事を生涯ずっと気に掛けていたのも納得がいってしまう。
これほど美しい姉が近くに居たなら弟さんも彼女に強く惹かれてしまうだろうし、周囲の人々が彼女に向ける目もおそらく羨望だけでは済まなかっただろう。
弟さん……相当苦労しただろうなぁ……。
「もう……二人とも、私は感想を聞いてるのよ?」
「あ、いや……」
ノルンが困ったようにそう聞いてくるので僕は慌てて返事しようとするが、これだけは正直な感想を言いたかった。
「すごく綺麗です……」
「っ!!」
「あら、ちょっと大げさな反応じゃない? でもありがとう、レイ」
僕がそう正直に答えると、ノルンは美しい笑顔で素直な反応で返してくれた。しかし、同時に隣のエミリアがビクリと反応して僕の方を向いて声をあげる。
「ちょっ!? レイ……! 元彼女の前でよくそんな言葉を堂々と言えますねっ!?」
「だ、だって……本当にノルン綺麗なんだもん……! エミリアだってさっきまでぼーっとして見惚れてたじゃないか!」
「そ、それは……」
僕の言葉にエミリアはチラリとノルンの方に視線を向けると、顔を赤らめて俯いてしまった。
「ええと……二人の反応、何かおかしくない?」
「いや、ノルン本当に綺麗だから……女のエミリアから見てもそう思わない?」
「(コクン)」
僕の質問にエミリアは頰を真っ赤に染めて俯きながら頭を小さく縦に振る。彼女の様子を確認したノルン自身も顔を赤らめ、困ったように視線をキョロキョロとさせていた。
「……なんか少し恥ずかしいわね」
そんな照れた様子を見せるノルンは、大人の女性ながらも思春期の少女の様な初々しさすら感じさせる。そんな彼女にレイは胸のときめきを隠せないのだった。
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