第902話 お願い、カレンさん!!
それから僕はハイネリア先生と別れて宿に戻って、仲間に今日の話を伝えることにした。
「……って話をしたんだよ」
「見聞を広めろ……ハイネリア先生がそんな事を言うとは……」
僕の話を聞き終えたエミリアは、少し興味ありげにハイネリア先生に言及する。
「逆にいえば半年間はレイくんは自由行動できるって事よね?」
「まぁそういうことになるけど……でも、今まで学んだことと見聞広めて得た事を総括して論文を書くって課題を出されたから遊んではいられないよ?」
「何か大学生っぽいね……うう……サクライくんと同級生だったはずなのに……」
ルナと僕は元の世界では中学三年の同級生だったのだが、この世界に転生したタイミングや諸事情で肉体年齢に差がついてしまっている。僕としては今でも可愛らしいままのルナはそれはそれで羨ましいのだが、彼女にとってはそうでもないらしい。
「ルナは将来何になりたいとかあるの?」
「え、将来……? うーん、少し前までそんな事考える余裕なかったし……」
「ルナは私の弟子なのですから将来の事を考える必要ありませんよ。魔法や調合の技術に簡単な魔道具の作成。この世界で生きていけるだけの技術は私が仕込んであげます」
「えへへ……ありがと、エミリアちゃん」
エミリアはルナの才能を見込んで本格的に弟子として育てるつもりのようだ。
既に今の時点でルナはエミリアの魔力すら凌ぐ天才級の才能の持ち主なのでいずれは相当高位の魔法使いになるかもと思う。
「でも、半年の期間で見聞を広める……か。……これは、もしかしてチャンス……?」
「ん?」
姉さんの呟きに、僕を含めた皆の視線が集まる。
「ね、ねえレイくん!?」
「どうしたの?」
「も、もしよければこの機会に皆で旅行を―――」
「あ、その話はカレンさんに前に聞いたよ?」
「はうっ!?」
僕の言葉に姉さんが軽くズッコケる。
「レベッカの故郷に皆で旅行に行くって話だよね? 僕もレベッカ故郷に興味があったから『良いよ』って返事ししといた」
「「「「!!!」」」」
すると、レベッカや姉さんだけではなくエミリアとルナまでもがキラキラした目で僕の顔を見た。
「え、何その反応?」
「い、いえ……ということは、レイ様もわたくしの故郷に一緒に来て下さるのですね?」
「うん、よろしくねレベッカ?」
「……はいっ♪」
レベッカは大きな目をさらに見開いて喜色満面の笑みを浮かべた。
「こ、これで遂にお姉ちゃんもレイくんと……!」ボソッ
「?」
そんなレベッカに負けじと姉さんが何か言っていたが、想像すると怖くなるので考えないようにしといた。
――その日の夜。
宿の屋根の上にて、エミリアは通信魔法を用いてカレンと連絡を取っていた。
『そっか、レイ君もようやく時間が取れたのね。私の方から提案しておいて良かったわ』
「こちらこそ助かりました。ベルフラウに任せておくといつまでも言い出せずにタイミングを逃しそうでしたからね」
エミリアは通信魔法と映像魔法とリンクさせて、通信先にいるカレンの映像をスクリーンに映して顔を合わせながら連絡を取っている。
『レイ君も念願の先生になれたのね。それに例の件も……ここまで長かったわ……』
「今更ですが、レイが学校の先生を目指すことになるとは意外でした。ハイネリア先生と出会うことが無ければ、多分私たちと冒険者業を続けていたでしょうに……」
『……あら? もしかして嫉妬? 恩師の先生にレイ君を取られたのが寂しい?』
「ち……違いますよ?」
『ま、話は分かったわ。私の方で手配をさせてもらう。お父様に頼んで船の手配と一ヶ月くらいは向こうで滞在することを考慮して、そこから掛かる生活費も私の方で捻出しておくわ』
「……そこまでしてもらっていいんですか? 私が頼んだ手前、ちょっと申し訳ない気持ちになるんですが」
『気にしないで。レイ君や皆の為だもの。このくらいなんでも無いわ』
「助かりますが……あまり無理をしないでくださいね」
『気にしないで大丈夫よ。あと、残った魔王討伐をどうするかよね……? レイ君が魔法学校に先生として勤めるようになったら流石にそんな時間はもう無くなるし……』
「その件に関してはレイも張り切ってましたよ。旅行に行く前に皆で『魔王狩り』して出来るかぎり数を減らしておくつもりのようです」
『た、頼もしいわね……』
「まぁ主軸のレイのお陰で私たちもそこまで負担では無いですけどね。最近のレイは本当に絶好調ですよ」
『そうね……。肉体の無い魂だけの存在で本来より弱体化してるとはいえ、レイ君は単独で魔王を何体か撃破してるのよね……やっぱり規格外ね……』
「では、カレン。負担を掛けてしまいますがよろしくお願いしますね」
『任せて。それじゃあ夜ももう遅いし、通信切るわね』
「はい。お休みなさい」
そうして、通信魔法が切れてエミリアの方も通信魔法と映像魔法を終了させた。
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