第901話 先生に報告
前回のあらすじ。
教員資格認定試験に受かった! 以上。
「おめでとうございます。これでレイさんもれっきとした『先生』ですね」
「いえ、それもこれもハイネリア先生が僕に丁寧に指導してくれたお陰です。今まで本当にありがとうございました」
僕ことレイは今まで丁寧に指導してくださったハイネリア先生の元を訪れていた。
一週間前から魔法学校は子供達は長期休みの期間に入っており、その担任を兼任しているハイネリア先生も休暇を取っているという話だ。
「いえいえ、私は大した事はしておりませんよ」
先生はそう言って首を横に振るが、僕は首を振る。
「そんな事ありません。先生のお陰で僕はこの短期間で多くの事を学ぶ事が出来ました。授業だけじゃなくて子供達や先生方への接し方に認定試験に向けての勉強と何から何までずっとお世話になりっぱなしです」
「そうですか……ふふ、そう言って頂けると私も教えた甲斐がありますね。あの時、レイさんを誘って正解でした」
ハイネリア先生はそう言って嬉しそうに笑う。そんな先生の姿を見ていると僕も嬉しくなるし、この人に指導してもらえた事を誇りに思う。
「さて、これでめでたく先生の長い長い道のりの第一歩を踏み出した、レイ先生の最初の課題ですが――」
ハイネリア先生は眼鏡を掛け直して、今までの温和な笑みから表情をキリッと切り替える。
「は、はい……!」
「……まずは、レイ先生に今まで学んだ事を形にして頂きたいのです」
「形……ですか?」
ハイネリア先生の返しに僕は首を傾げる。すると、先生は自分の背後にある机の引き出しを開けて中に入っている数枚の紙を取り出した。
「これは……?」
「レイ先生がこれまで学んできた事をまとめた資料です」
「え?」
僕は驚きのあまり目を見開いてしまう。そんな僕の反応を見たハイネリア先生は苦笑する。
「この1年半、レイさんが聖職者の仕事に関わるようになってレイさんが学んだ事、疑問に感じた事、そしてそれによって得た事。
それをこの紙を元に、レイ先生に書き起こして頂きたいのです。それが私の思う先生への第一歩だと考えています」
「それはつまり、僕の意見や考えを纏めた論文みたいなものですか?」
ハイネリア先生はコクリと頷く。
「レイさんの教育係として色々とご指導してきましたが、レイさんの知識はまだまだ乏しく不十分です。なのでまずは知識を増やして頂く必要があります。これからのレイさんは見聞を広めて、それを指導に活かす事が求められるでしょう」
「そう……ですね。確かに僕はまだまだ未熟です……」
僕はハイネリア先生の言葉を聞いて深く自分の事を考える。
「これからしばらくの間、魔法学校は休日の期間に入っていますが、その間にレイさんには見聞を広めて頂きたいと思います。
様々な地を巡って、色々な人々を交流し、この国にはない文化を学び、それを教育に活かして頂きたいのです。そして、最終的にそれを論文に纏めて頂きます」
「つ、つまり旅をして見聞を広げて来いという事ですか?」
「はい。レイさんにとって、この旅はきっと大きな糧になるでしょう。そうですね……期間は……」
ハイネリア先生は僕の目を見つめてそう思案する。
「魔法学校の休日は数ヶ月続きますが……レイさんが教員として加わるのはまだ時期尚早かもしれません……そうですねぇ……半年後、というのは如何でしょうか?」
「は、半年も……生徒の顔を見れなくなるんですか……!?」
僕がそう必死な声を出すとハイネリア先生は苦笑する。
「うふふ……別に半年間顔を出すなとは言ってませんよ? 」
「あ、すみません……早とちりしました」
「ただ、今は貴方自身の更なる成長が第一です。教員資格の試験にも受かりましたので、私以外の方々も少しずつレイ先生の事を認めて下さってくれるようになりました。良い傾向です。
ですがそれでもまだ貴方の事を、力だけ優れた子供だと認識している失礼な方も少数います……ですので、彼らを見返すくらいに成長してほしいのです」
「……はい」
教員免許が無かった僕を白い目で見ていた先生の事は薄々気付いていた。
怖くて実際に確認することは出来なかったが、ハイネリア先生もその事は認知していて僕の事を気遣ってくれていたらしい。
僕が考えていると、ハイネリア先生は僕の肩をポンと叩いて言った。
「というわけでレイさん……いえ、レイ先生!」
「は、はい!」
「私は、今から敢えて、貴方を谷底に突き落とします!!」
「……?」
ハイネリア先生の妙な言葉に僕は首を傾げる。すると、先生はにっこりと笑って言った。
「勿論、そのままの意味ではありませんよ?『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』という言葉があります。目に入れても痛くない可愛い子供を涙を呑んで敢えて厳しい態度を取って突き放すことで、独り立ちさせて成長を促すという親心です。つまり、私は敢えて今からレイ先生に厳しい指導を心がけることにします。覚悟は良いですか?」
「……あ、あの?」
「はい?」
「それを最初に僕に言ってしまうと、意味が無いんじゃ……」
僕がそう言うと、ハイネリア先生は「あ」と声を漏らして固まった。そして、恥ずかしそうに顔を赤くするのだった。
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