第898話 三度目の誕生日
1カ月後、僕とアカメは18歳の誕生日を迎えた。今回はアカメの方に少し事情があったので身内だけで誕生日を祝うことになった。
「レイくん、アカメちゃん。二人とも誕生日おめでとー!!」
「お二人とも、おめでとうございます。また一段と凛々しく、美しく成長なされたことをこのレベッカは嬉しく思います」
「レベッカ、仰々し過ぎでは……まぁ……おめでとうございます」
姉さんとレベッカとエミリア、そして他の皆がレイとアカメの誕生日を祝ってくれた。
「皆、いつも本当にありがとう!」
「……恥ずかしいのだけど」
そんな皆の祝福に対して、アカメは言葉ではこう言いながらも満更でもない様子で照れていた。
「アカメは誕生日を祝われるのは初めて?」
「……ううん、この世界の両親と暮らしていた時に幼少の頃に一度くらいはあったと思う」
「……そう、変な事を聞いてごめんなさい」
質問したカレンさんはアカメの返答を聞いて少し暗い顔をする。そんなカレンさんの様子を察したのかアカメは苦笑交じりに言った。
「気にしなくていい。今はレイが……お兄ちゃんが傍に居るし、あなた達も……その……少しは感謝している……」
アカメは少し頬を赤らめながらそう返答する。
「……あ、アカメからまさか感謝の言葉を聞くことになるなんて……」
驚愕の表情を浮かべるカレンさんだが、そこにルナがクスクスと笑いながら言った。
「カレンさん、それはアカメちゃんに失礼だよ……アカメちゃんと友達になれて本当に嬉しいよ。これからもよろしくね、アカメちゃん」
「……! ……ありがとう、ルナ……」
そんなルナの言葉にアカメは少し驚いた後、微笑んでそう答えた。
「……誕生日かぁ……そういえば私は今年で何歳なのかしら」
テーブルでシャンパンを口にしていたノルンがそんな事を呟く。声が聞こえたので、僕は彼女のテーブルに近付いて向かいの席に座る。
「あら、レイ。私の事なんて気にせずに、あなたは子のパーティの主役なんだからもっと楽しんでなさいな」
ノルンはそういって僕に気を遣ってくれた。
「あはは……ありがとう。でも今回のパーティの主役はアカメの方だよ」
僕はそう言いながら仲間達に祝いの言葉と、ついでと言わんばかりに食べ物をいっぱい手渡されて、それを全て一人で食べ尽くしているアカメを微笑ましく見ていた。
「僕はこの世界に転移する前は両親が祝ってくれてたけど、アカメはそうじゃなかったしね……。
今、こうして僕達と過ごせるようになっただけでも奇跡みたいなものだし、これからはずっとずっと一緒に過ごして毎年祝ってあげたいと思ってるよ」
「ふふ、妹の事、本当に大事にしてるのね」
「うん、そりゃ勿論だよ」
「……なら、その事を直接アカメに伝えてあげなさい。『傍に居るんだから言わなくても伝わる』……なんて思ってると、機会を逃してしまうかもしれないわよ」
「!」
僕はノルンの言葉にハッとする。
「それ、もしかしてノルンがそうだったから?」
「……まぁね、前に言ったでしょ? 私の”弟”の話……私がちゃんとあの子に気持ちを伝えてあげていたら未来は変わったのかな……って時々考えてしまうのよね」
「……」
ノルンの呟きに、僕は何も言葉を発することが出来ない。彼女の言葉を肯定しても否定しても、その時に居なかった僕が分かった風な口を聞くのは違うと思ったからだ。
「……なんてね。私もそんなことをあなたに聞いても答えられないって分かってるの」
「ノルン……」
「大丈夫、お酒が入ってちょっとだけナイーブなってるだけなのよ。……ほら、レイも飲みなさいよ。
あなた達の世界だとお酒は二十歳になってからって聞いてるけど、この世界は別に子供だって飲んでいいわけだし、要望があればシャンパンじゃなくてもっと強いお酒も用意してあるのよ?」
ノルンはそう言いながら僕の目の前に空いたグラスを置き、シャンパンとは別の瓶を手に取って僕の目の前に置いたグラスに注ぎこむ。
グラスの中に注がれた黄色い液体に炭酸がシュワシュワと弾ける。
「ありがとう」
僕はそう言ってノルンからシャンパングラスを受け取って、それを一口飲んだ。すると……
「美味しい……!」
「ふふん、そうでしょう?」
そんな僕を見てノルンは得意気な表情になる。
「……でもちょっとアルコール強いねこれ。ビールくらいは飲んだ事あるけど、これはちょっと僕にはまだ早いかも」
初めてお酒を飲む僕がそんな感想を漏らすと、ノルンは口元に笑みを浮かべて言う。
「あら、ならこれで大人の仲間入りね」
「そうだね。せっかくだし、もうちょっとだけ味見してみようかな……」
そう言うとノルンが減った分のお酒を注いでくれる。
「話は変わるけど、もうすぐあなた試験なんでしょ?」
「うん、来月の頭くらいに教員資格認定試験があって、そこで一定の基準を満たせば、晴れて教員免許が交付されるんだって」
「ふーん、大変ね。それで? どんな試験なの?」
「筆記と実技試験があるんだけどね。筆記の方はちょっと苦手な部分が多くて……特に魔法分野がね……」
「魔法は感覚的に覚える人と、数的理論に基づいて覚える人で分かれるから大変よね……。エミリアはどっちも得意らしいけど、レイは多分感覚で覚えたタイプでしょ?」
「うん。ノルンも?」
「……私はどうだったかしらね。巫女をしていた時に親からみっちり英才教育を施されてたけど、魔法は感覚的に覚えるタイプだったと思うわ。気が付いたら使えるようになってたし」
「そっか……」
「アドバイスをするなら魔法分野の筆記試験って、その人の感性を見るものだからこれが『正解』ってものが無いのよ。
だから用意された回答と別の回答が出されたとしても、その人の理論がしっかりしていれば減点されないわ。……まぁ、その理論を説明できないなら別だけど」
「なるほど……」
僕はノルンのアドバイスに頷く。
「それで? 筆記試験以外に実技の方もあるのよね?」
「うん、でもそっちは多分大丈夫だと思うよ。ハイネリア先生に実技のチェックしてもらった時に、『全く問題ない』って太鼓判押されたもん」
「へー……実技ってどんなことするの?」
「生徒達への指導の仕方やどのように授業を行うかってのが最重要だけど、それ以外にも戦闘実技とか魔法実技とかもあるよ。
指導する時に生徒達に下手な教え方すると怪我させちゃうかもだし、偏った教え方をするとその後の生徒達の伸びに大きく関わるし」
「そう……大変ね、指導者って……」
ノルンはそう言うとシャンパングラスを回して中の液体を揺らす。
「……で、合格する自信は?」
「……正直、ないです」
ノルンからの質問に僕はそう答える。
「あら弱気ね。でも、今までだってそれなりに冒険者としても勇者としても相当な修羅場を潜ってきたんだし、そこまで不安になる必要はないんじゃない?」
「いや……それはそうなんだけどね。その冒険者業というか……勇者業というか……」
そう言葉を濁しながら、グラスの中の黄色い液体を口の中に注ぎ込む。シュワシュワの炭酸が脳を刺激してくれて身体が暑くなってくる。
ちょっとお酒に酔い始めてるのかもしれない。
「……? ……ああ、そういうこと。要するに、最近魔王討伐で勉強の時間が足りなくて、筆記試験の勉強が疎かになってるって事?」
ノルンにズバリと現状を言い当てられた僕は苦笑いを浮かべる。
「あはは……やっぱり分かるよね……」
「それ以外にも問題はありそうだけどね。あの”ミーア”って名前を付けた猫ちゃんと遊ぶ時間も関係してるんじゃない?」
「う……何故それを……?」
「だって、その猫ってどういわけかあなたが部屋に居る時しか姿を現さないし、部屋に籠ってる時って大体勉強の時間でしょう?
そんな時にその猫が部屋から出てきてあなたに構ってもらいたがって、あなたが相手をしていると勉強ができない……って感じなんでしょ?」
「……その通りです」
そして、あまりの可愛らしさに無視しようにも出来ないというのが本音である。
「今度、その子が遊びに来たら私の所に来て。勉強の間は預かっててあげるわ。キリが付いたら遊んであげればいいじゃない」
「え、いいの?」
「巫女として振る舞う間は人と接するのは禁じられてたけど、動物は無関係だったし小動物には懐かれていたのよ」
「うーん……じゃあ、次にミーアが遊びに来たときはノルンに任せるよ」
「ふふ……ミーアと遊びたい気持ちは分かるけど、少なくとも教員試験が終わるまでは我慢なさい。煩悩を断ち切って勉強に集中すればきっと大丈夫よ。私も暇な時は試験の事で相談に乗るし」
「ありがとう、ノルン!」
僕はそう言ってグラスに入ったシャンパンをグイッと一気に飲み干す。そんな僕を見てノルンは微笑み、そして静かに言った。
「応援してるわ」
「うん、やれるだけ頑張ってみるよ」
僕はノルンと約束して、その後もお酒を飲んでパーティを楽しむのだった。
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