第897話 アカメちゃん大混乱

 それから更に数日後の話。


「みゃ~」


「あはは、くすぐったいよミーア」


 レイとミーアは、自室のベッドの上で寝転んで戯れ合っていた。


「みゃ~」


 ミーアと呼ばれたその猫はレイの体の上に乗っかってゴロゴロと喉を鳴らしてレイに甘えている。そんなミーアを彼は優しく撫でた。


 ――ガチャ。


 そこにアカメが扉を開けて入ってくるのだが。


「お兄ちゃん、話が………」


 アカメはレイと猫が楽しそうにじゃれている場面を目撃して硬直する。


「アカメ、何か用?」


「……お兄ちゃん、ちょっとその猫借りて良い?」


 アカメは静かな口調でそう言うが、迷いなく部屋に入ってきてレイの身体の上に乗っかっているミーアの身体を素早く持ち上げる。


「みゃぁ!」


 ミーアは抵抗してバタバタと手足を動かしているが、アカメはそんなミーアに一切動じず首の後ろを摘まんで持ち上げて猫のようにレイから引き剝がす。


「あっ、ちょっと……」

「大丈夫、ちょっと話し合うだけ」


 そう言ってアカメはミーアを連れて部屋から出ていってしまった。


「……話し合う?」


 レイは不思議そうに首を傾げるが、遊び相手が居なくなったのでレイは大人しく机に座って参考書を取り出す。


「……最近、勉強サボりがちになったなぁ……ハイネリア先生に怒られちゃうかも……」


 そう思いレイはパチンと自分の頬を叩いて勉強に勤しむことにした。


 ◆◇◆


 レイの部屋から出たアカメはミーアを連れたまま無言で自室に向かっていく。


「……おや?」


 しかし丁度そのタイミングで階段から上がってきた人物が、ミーアを連れたアカメがすごい剣幕で自分の部屋に入っていくのを目撃していた。



 ――アカメの部屋にて。


 レイからミーアを借りてきたアカメは猫を自室のベッドに降ろして、自分は絨毯の敷いてある床に体育座りして猫と向き合う。


「みゃぁー……」


 ミーアは不満そうに鳴くが、そんなミーアにアカメは言った。


「猫の真似は止めなさい、エミリア。ここにはお兄ちゃんは居ないんだから加減変身を解いて」


「……みゃ?」


 ミーアは首を傾げるが、アカメはそのまま続ける。


「最近ずっとその猫の姿になってお兄ちゃんにベッタリじゃない。

 貴女が普段の態度のせいで素直になれず、猫の姿になって構ってもらおうとしてるのは分かるけど、お兄ちゃんは勉強で忙しいのは知ってるでしょう? これ以上お兄ちゃんに迷惑を掛けるつもりなら、私が許さない」


 アカメはそう言ってエミリアを睨みつける。しかし……。


「みゃぁ?」


 ミーアはそんなアカメに対して首を傾げるだけだった。そんなミーアの態度に苛立った様子で立ち上がって言い放つ。


「……もういい。貴女がしらばっくれるのなら、この事をお兄ちゃんに言いつけてやるんだから」


「みゃ!?」


 部屋を出て行こうとするアカメに焦ったのか、ミーアはベッドから降りてアカメに駆け寄り、彼女の足に必死にしがみ付く。


「ちょっと止めてよ、エミリア!!」


 アカメは少し大きな声を挙げてミーアを振り払い、部屋を出て廊下に出る。すると――


「私の名前を叫んでどうしたんですか、アカメ?」


「……?」


 いきなり声を掛けられてアカメはそちらを振り向くと、そこにはエミリアが居た。


「……え?」

「……?」


 エミリアとアカメはしばしの間無言でお互い見つめ合う。そして……。


「みゃー」


 二人の足元をミーアが駆け抜けて何処かに走り去って行った。その様子をアカメは呆気にとられた様子で見ていた。


「……ねぇ、エミリア?」

「なんですか? アカメ」


 二人はそう言って再び無言で見つめ合うが……。


「あの猫、貴女よね?」

「私はここに居ますが」


「……」

「……」


 二人は黙って見つめ合う。そしてアカメが静かに口を開いた。


「……どういうこと?」

「私はあなたが何を言いたいのかさっぱりですが……」


「……ちょっと、頭が混乱してきた。外に出て頭冷やしてくる……」

「あ、はい」


 アカメは頭を抱えて窓の扉を開けて、天使の翼を生やして宿屋の外に飛び出す。そんな彼女の様子を後ろから眺めていたエミリアは、彼女が遠くに行ったことを確認するとため息を付く。


 そして、一言。


「いってらっしゃいまし、アカメ様」


 次の瞬間、彼女の姿に靄が掛かり姿が変化していく。背丈が徐々に低くなっていき、黒髪だった髪が銀髪へと、そして黒目だった瞳が深紅の赤い目となった。


「エミリア様、今回は”貸し”という形にしておきますね」


 そう言って彼女……レベッカは、優しく微笑んで自室へと戻っていった。

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