第889話 ミリク様と征く④

 

 前回までのあらすじ。

 ミリク様にプライベートを暴露されてレイくん激おこ。


 用事を終えた僕とミリク様は王城を出て荒廃したメサイアの旧都市を歩いていた。


「まったく……人のプライバシーを覗き見するなんて……」


『すまぬと言っておろうが……お主男のクセに小言が多くないかのぅ?』


「余計なお世話ですよっ! それ言ったらミリク様は女性なのに変にオープン過ぎます。もうちょっと慎ましさを持ってください」


『それは偏見じゃぞ? 女だからとか型に嵌めてしまうのは良くない。男らしい女性も世の中には沢山おるんじゃぞ』


「正論ですけどミリク様も『男のクセに』とか言ってましたよね?」


『な、何のことかのぅ……近頃物忘れが多くて覚えとらんわ……』


 突然明後日の方向を向いて惚けるミリク様。それじゃあまるでお年寄りの言い訳じゃないか。


「(冷静に考えたらミリク様ってお年寄りだよね)」


 ミリク様が少し前に話していた内容を考えると、ミリク様は神様になって数百年以上の時を過ごしていることになる。


 そう考えると、もしかしたら言い訳じゃなくて本当に忘れているのかもしれない。


「すみませんミリク様。僕が間違ってました」


『な、なんじゃ突然……まぁ分かればよいのじゃ……これからは儂の言う事は素直に聞くのじゃぞ?』


「はい」


 お年寄りの話は素直に聞く。それは現代社会における鉄則である。


『(何故じゃろう。素直に言う事を聞いてくれたというのに何故か儂の心がモヤモヤしておる……)』


 ミリク様は何故か不満そうな表情をしていた。


『では廃都探索も切り上げてそろそろ帰るとしようかのぅ。レイよ、転移するので儂の近くに来るが良い』


「はーい」


 僕は返事をしながら足を止めたミリク様の近くまで歩いていく。


『では儂の手を―――』


 と、ミリク様が僕の手を掴もうとしたその時、


 ――ピカー!!


 突然、僕の頭上から魔王の魂探知機こと”白玉”が出現し、発光しながら宙に浮きあがった。


「僕の”白玉”が……!」


『む……ここで反応するということは……!』


 僕が今装備している”白玉”は、今は半径3キロ程度の範囲を索敵するように設定してある。つまりこの廃墟となったメサイアの何処かに魔王の魂が潜んでいるということだ。


「ミリク様!」


『……今回の件は魔王とは無関係の内容だったのじゃが……まぁ放置するわけにもいかんの。二人で協力して探すことにしようぞ』


「はい!」


 僕達は飛行魔法で空に浮き上がり廃墟と化したメサイアを上空から捜索することになった。



 ◆◇◆



 程なくして僕達が後にした古城の屋上にて、それらしい影の存在を発見した。


「ミリク様、あのお城の屋上の方から”白玉”の反応が強くなってます」


『うむ、さっきは見落としておったがあの周辺に淀んだ空気の流れを感じる』


 僕とミリク様は頷き合って反応のある場所に空から急接近していく。そして、目視できる程度の距離に近付いてから僕は頭の上に浮かんでいる白玉を手に掴んで全力で投球する構えを取る。


「じゃあ、これを投げますよ……っと!!」


 そう言いながら僕は肩の回転を使って白玉を投げ飛ばす。僕が投げた白玉は凄まじい勢いでお城の上空を飛び越えていき、古城の屋上に直撃した。


 その瞬間、ドゴォンという衝撃音が辺りに響き渡る。すると、周囲に黒い煙が巻き起こって一つの人型の魔物が出現した。


 輪郭は身長2メートル程度のやや大柄でのっぺりとした人型の魔物で、その身体はモヤで覆われている。


「……ミリク様、行きますよ!」


 僕は彼女に声を掛けながら、鞘に納めていた蒼い星ブルースフィアを取り出す。


『……』

「ミリク様?」


 何故か返事がないミリク様に僕は首を傾げる。


『……すまん。ちょっと考え事をしておった』


「大丈夫ですか?」


『ああいや大丈夫じゃ。……いや、大丈夫でもないか。レイよ、お主一人で片付けてくれんか?』


「は?」


 突然の丸投げに、僕は思わず間抜けな声を出してしまう。


『儂は地上のいざこざに手を出せんのじゃよ。ここで見ておるから、お主一人で頑張ってくれ』


「いや、ちょっと待っ」


『では頑張れー!』


 そう言ってミリク様は僕の頭から飛び降りて地上へと降り立っていく。


「あ! ちょ……!」


 そして、僕が止める間もなく彼女は古城屋上の上空に飛んでいってしまったのだった……。


 ……え? マジで? いや、本当に?


「(あの神様……!)」


『――怒るのは良いけど、まずあの魔物を倒してから』


「……っと、そうだね、蒼い星ブルースフィア


 聖剣に宿る意思の声が聞こえて、僕は怒りを抑えてすぐに冷静さを取り戻す。魔王に視線を戻すと、魔王もこちらに向かって飛行魔法で接近してくるようだった。


 しかし、途中で足を止めて両手から何らかの魔法を放ってきた。


 ――<上級氷魔法>コールドエンド


『来る!』


「まともに食らうと動けなくなる! 高速移動して攻撃範囲から逃れよう!」


 聖剣から放たれる蒼い光が僕を包み込む。そして、その速度を徐々に上げていき……やがて一気に最高速度に達する。


 僕の周囲に白い冷気が纏わりつくと、一瞬で魔王の魔法攻撃範囲外へと離脱する。だが、それでは終わらない。


 ――<上級獄炎魔法>インフェルノ


「げっ!」


『レイ、即座に判断しないとあの魔法は逃げ場がない』


「分かってる!」


 上級獄炎魔法……エミリアが得意とする炎属性の強力な攻撃魔法だ。


 攻撃対象の中心部分に赤い霧を発生させ、数秒後に大爆発を引き起こして周囲を全て燃やし尽くす魔法である。


 さっきの上級氷魔法と比べて攻撃範囲が広くて回避が難しい魔法だ。しかしエミリアが乱発しまくっているせいでこの魔法の事は大体把握できており、その対処法も僕は知っている。


「この魔法はね……!」


 僕は蒼い星に話しかけながら飛行魔法の速度をブーストさせて、一気に魔王の所にまで急接近する。


「攻撃対象が接近し過ぎると詠唱者も巻き込まれてしまうんだ!!」


 僕は聖剣を構えながら一気に魔王の懐まで突っ込んでいく。もし、魔王がこのまま魔法を続行すると魔王自身も巻き込まれて大ダメージを受ける。もしそれが嫌なら魔法を中断するしかない。


 だが、魔王は中断する気配が無い。その場合、魔王も僕も大きなダメージを受けることになってしまうが、僕は聖剣を使っていつでも魔法障壁を発動出来るためダメージを大きく軽減可能だ。


「はあっ!!」

 僕は構わず魔王を聖剣で一閃する。それと同時に魔王の上級獄炎魔法が発動し、大爆発が引き起こされた。だが僕は聖剣による魔法障壁のお陰でダメージをほぼ無効化し、魔王は僕の攻撃によって地上の方に吹き飛んでいった。


「……しまった。ちょっと攻撃を遅らせた方が魔王を巻き込めたかも……」


『……私の力があるとはいえ、レイはほぼノーダメージ。勇者の力で純粋な魔法抵抗力も底上げされている……?』


蒼い星ブルースフィア、吹き飛んだ魔王を追うよ」


『……了解』


 僕は吹き飛ばされた魔王の後を追いかけるように飛行魔法を操り、そして地上に墜落した魔王の元へ向かうのだった。

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