第887話 ミリク様と征く②
前回のあらすじ。ミリク様と小旅行中。ミリク様の力で転送された僕は廃墟と化した街をミリク様の先導で進んでいく。
「お城に行くって言ってましたけど……」
『うむ、今は見る影もないが、今歩いている城下町を超えた先に城があった。とはいえ、今のお主らが暮らす王都と比べたらさほど大きな城では無いがの』
「……なるほど」
僕は周囲を見回しながらそう答える。
『何か気になる事でもあるのか?』
ミリク様は足を止めてこちらを振り向いてそう尋ねてくる。
「……この国、ええと……メサイアって名前でしたか?」
『うむ、かつてはメサイア王国と呼ばれていた国の中心部にある都市じゃ。800年ほど前に栄華を極めたが、今は見る影もないただの廃都と成り果てたがの』
「どうして、この国は滅びたんですか? もしかして魔物に滅ぼされてしまったとか……?」
『妙にソワソワしていると思っていたが、それが気になっていたのか。ふむ……レイよ、お主は何故ここが滅びたと思う?』
「え……? それは……」
突然の質問に、僕は少しだけ思考を巡らせる。
「……人間同士の戦争とか、ですか?」
『……いや、この国は近隣の国と戦争状態になったことは一度もない。まぁ、近くの国との貿易は盛んだったようだがな』
「じゃあ……疫病とか?」
『それも違う。この国が滅んだ理由は……子供が生まれなくなったじゃ』
「……え?」
予想外の理由に僕は思わず言葉を失う。
そしてミリク様は再び歩き出して、僕も歩き出す。
『驚くのも無理はないの。儂らですらこの事を知ったのは、この国が崩壊する寸前のことだったからのぅ』
「そ、その子供が生まれなくなった理由は? 魔王の仕業とかですか?」
『いいや……それは文字通り、”神”の仕業じゃよ』
「え……?」
どういうことだ? この世界の神様はミリク様とイリスティリア様なのに、まさかミリク様が……?
僕がミリク様に疑い目を向けていると、ミリク様は慌てた様子で言った。
『いや待てレイよ。儂ではないぞ。当然、イリスティリアでもない。
この国が滅びる数十年前までは、この世界を統治していたのは別の神であったのだが、この神というのがとんだ曲者でのぅ。その辺の国や村から自分が気に入った人間を浚って、好き放題やっていたのじゃ』
「……それって、もしかして”神隠し”のことですか?」
『うむ、それで合っておるぞ。
自分が気に入った女子や男児がおれば、手下を使って神の領域へ連れ去っては、自分の為に働かせたり……あるいは玩具にして弄ぶなど日常茶飯事であった。当然、そんな自分勝手な事をしていれば”主神様”が黙っておらぬ。
再三注意勧告を出したらしいのじゃが、それでも神隠しを止めぬので、主神様は重い腰を上げた。当時の神を『悪神』と認定し、儂とイリスティリアを異世界から召喚して討伐に向かわせたのだ。そして、他の神々の支援もあって儂らは無事に”悪神”を倒し、浚われた子供達を救出した……と、ここまでは良かったのじゃが……』
「何か続きがあるんですか?」
『……その時の儂らは気付かなかったのじゃが、‟悪神”は自身が滅びる前にこの国に呪いを掛けた。
その呪いは”子孫断絶”の呪い。名前通り、子孫を残せず、子供が生まれなくなる呪い。そしてこの呪いは”神隠し”によって連れ去られた子供達に掛けられた物じゃ』
「え……じゃあ、この国が滅んだのって」
『うむ。その悪神の呪いが原因じゃな。奴め、自分の事を倒した儂らへの腹いせでこのような真似をしおったのか……』
「……酷いですね」
『うむ……』
僕は思わずそう呟く。ミリク様は僕の呟きに対して小さく頷く。
『……さて、見えてきたぞ。あれが、この旧王国メサイアの王城じゃ』
ミリク様は前方を指さす。僕がそちらに視線を向けると、巨大な建造物が視界に映る。それは周囲の建物と同じように風化して朽ち果てていたが、それでも尚その存在感は損なわれていなかった。
「あれが……この国のお城ですか」
『うむ。そして当時、この国を統治していた王の住まいでもあった場所だ。さて、入るぞ……外観は何とか形は残っているが、中はどうなってるか分からん。気を付けて進むのじゃぞ』
「はい」
僕はミリク様の言葉に頷いて答えると、二人で城門を抜けて王城の中へと入っていく。
朽ち果てた外観とは裏腹に、城内は意外にも綺麗な状態で残っており、僕達が歩くと埃が舞って僅かに足跡が残る程度だった。
「中は意外と綺麗ですね」
『数百年放置されてた割には随分と形が残っておるの。これならば目的の場所が倒壊しているということもあるまい……地下に向かうぞ。儂の目的のモノはそこにある』
「何を探しているんですか?」
『この国に祭られているはずの写し鏡じゃよ。存在自体は知っておったから後々回収するつもりでいたのじゃが、すっかり忘れてしまってのぅ。おそらく当時のまま残されているはずじゃ』
そう言ってミリク様はスタスタと歩いて行く。僕は慌ててその後を付いていくのだった。
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