第886話 ミリク様と征く①

 それから更に2週間が経過し、僕達の魔王狩りは順調に進んでいった。


 今までで討伐した魔王の数は既に十体を超えており、白玉の量産をあってか以前と比べて確実にペースが上がっていた。


 ここ最近、魔王の討伐に力を入れているため、僕は魔法学校の手伝いを休むことが多くなっており、空いた時間は仲間との戦闘訓練に力を費やしていた。


 そして、魔王との戦いや訓練を繰り返す毎に一つの確信を持ち始めていた。


 僕の勇者の力―――それが消えずに残っていることに。


『なぬっ!? 勇者の力が残っているじゃと!?』

「はい」


 もはや日課になりつつあった魔王の討伐を終えた僕は、帰りの道中で仲間と別れて、単身でミリク様の元へと訪れていた。目的はミリク様にこの事を伝えて事実確認をする為だ。


『それはおかしいのだ、レイよ。儂は間違いなくお主に貸し与えていた勇者の力を回収しておる。今のお主は勇者としての能力は消えて普通の人間と大差ない状態の筈じゃぞ?』


「……ですよね。僕も最初はブランクが長くて以前のように戦えなかったからそう思っていました。でも……」


 気付き始めたのは以前の騎士タイプの魔王と戦った時だ。


 あの戦いはエミリア達の支援が期待できない状態で事実上魔王との一騎打ちとなってしまったのだが、苦戦しながらも僕は単独で勝利することが出来た。


 魔王城で戦った魔王と比べると弱い個体だったが、それでも勇者の力無しの僕が単独で勝てるような相手ではなかったはず。


 僕自身の力は勇者としての能力がかなりの割合を占める。事実、勇者として未覚醒の状態だったときはカレンさんに全く歯が立たなかった。だが前の手合わせで結果的には負けたが互角の戦いが出来た。


 そして数日前に、僕は戦闘の勘を完全に取り戻したことを確信してカレンさんに再び勝負を挑んだ。


 以前の手合わせはカレンさんが加減してくれていたことが目に見えて分かっていたので、今回は遠慮せずに本気で来てくれと頼んだのだ。


 そして誰にも知られることなく、僕とカレンさんの本気の勝負が始まった。魔法や聖剣技などは使わず、純粋な剣技での戦いだがそれでも全力の勝負だ。


 以前にレベッカと戦った時よりも更に長く、互いに限界まで疲弊した勝負だった。


 そして数十分にも及ぶ激戦の末に―――


「たああっ!!」「……っ!」


 カレンさんの剣を手元から弾き飛ばし、彼女の胸元に剣先を突きつけたところで勝負が付いた。


「これは私の負けね……」


 カレンさんの剣を僕の剣で弾き飛ばしたところで、カレンさんは降参の意を示す。


 闘技場を借りてカレンさんと手合わせをして、僕はついにカレンさんに初勝利を収めてしまった。


 僕も彼女もかなり疲弊していたため、戦いが終わるとすぐに地面に座り込んでしまったが、お互いに表情は柔らかくカレンさんも負けたというのに嬉しそうな顔をしていた。


「負けたのに、清々しい気分なのよ。……ありがとう、私を超えてくれて」


 そう言われて、僕は嬉しさで泣きそうになった。


 そしてカレンさんに勝てたことで以前よりも強くなっていることを確信した。


「カレンさんとの勝負で、むしろ以前よりも強くなっているとそう感じました」


『俄かには信じがたい話じゃが……』


「でも、事実です」


『……むぅ』


 僕が断言するとミリク様は無言になって何かを考え始める。


「ミリク様?」


『……来い、レイよ。お主の力を試したい……そうすれば、あるいはお主の力の根源が分かるかもしれん』


「試すって……どうやって?」


『今からお主をとある場所に転送する』


 そう言った瞬間、僕の足元に魔法陣が出現して一瞬で視界が切り替わる。


 そして僕が辿り着いた場所は――


 ………。


「ここ、何処?」


 僕とミリク様が転移した場所は、見たことも無い古びた廃墟の街だった。


 しかし、誰も居ない。


 何十何百年前に滅んだのかは分からないが、街の建物の悉くは風化しており、原型を殆ど留めていない。


『旧王国メサイア。かつて繁栄を極めた古の国………懐かしいのぉ……』


「懐かしい?」


『うむ……儂がこの世界に顕現した切っ掛けでもある……あれから千年近くの時が経っておるのか……随分と時間が経ったものよのぅ』


「ミリク様がこの世界に顕現したって、どういうことです?」


『……今は関係ない話ではあるが、神が代替わりした時の話に遡る。この世界で神が代替わりするパターンは二つあるが、一つは神自身が相応しい後継者を人間から選んで力を譲渡すること』


「……力を譲渡って、まるで『勇者』みたいですね」


『似たようなものであるな。元より、この神のシステムは、我ら神を統括する主神様によって生み出された物である。そのシステムを真似たのが『勇者』の譲渡システム。……まぁ、ぶっちゃけるとパクった形になるの』


「その”主神様”は怒ったりしないんですか?」


『あの方はのぅ……我らのように人間に近い感情があるか怪しいところではあるから何とも言えん……まぁ今は関係ない話なので割愛するがの』


 ミリク様はそう言いながら崩壊した建物の方に歩いていく。僕も周囲を見渡しながらミリク様の後を付いて行く。


 そしてミリク様は何処かの民家だったと思われる風化した建物の壁部分に手で触れる。すると壁は音もなく崩れて砂へ変わり、風に吹かれてそのまま飛んでいってしまった。


『先程の話の続きじゃが……神が力を譲渡する以外にも神が代替わりするケースもある。

 それは世界を統治する神が”悪”と断定された時、主神様が異世界から英雄級の力を持った人間が召喚さして、その神を討伐すると言ったパターンじゃ。

 その時に召喚されたのが、儂とイリスティリアの二人。討伐に成功した人間は、その神の力を吸収して新たな神となり、代わりに世界を統治することになる』


「ミリク様もイリスティリア様も元は人間だったってことですか?」


『神としての威厳を保つために言わない様にしておったが、儂とイリスティリアは元人間じゃよ……と、話が逸れてしまった。

 お主と行きたい場所はここではなく、この街の先にある城の中に向かう。……本来であれば、この場所は神聖な場所として立ち入りが禁じられておるのだが、もはやそれも関係あるまい』


 そう言ってミリク様は僕の方を振り向いて言った。


『さぁ、レイよ。一緒に行こうぞ』

「あ、はい」


 ミリク様の先導の元、僕達は朽ち果てた街の中を城を目指して歩き出した。

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