第885話 物理的魔王
前回のあらすじ。
魔王(騎士タイプ)が現れた!!
敵はこちらが身構える前に襲い掛かってきた!!
「二人とも、下がって!!」
僕は鞘の剣を抜きながら一歩前に出て、剣を振りかぶって攻撃を仕掛けてきた魔王の一撃を受け止めた。
「ぐっ……!」
魔王はその力で僕を押し切ろうとしてくるが、僕はその剣圧を何とか押し返す。
「お兄ちゃん!!」
「レイ!」
アカメとエミリアの二人が僕の援護に入ろうとしたが、それを僕が制止する。
「大丈夫……はあっ!!!」
掛け声と同時に聖剣の能力の一端を開放、聖剣の障壁バリアを自分中心に放つことで周囲に衝撃を与えて魔王を後退させる。
「■■■■」
すると、それに怒ったかのように魔王が言葉にならない呻き声をあげながら僕を睨みつけてくる。そして先程よりも更に速い速度でこちらに迫って再び剣を振りかぶってくる。
「(見た目通り、完全な接近戦特化か……!)」
僕はその勢いのある攻撃をのらりくらりと受け流しながら何とか凌いでいく。
何とか攻撃に転じたいところではあるが、最初の一撃を無理な態勢で受け止めてしまったばかりに少々腕が痺れて攻撃に転じることが出来ない。そんな僕の様子を見かねた後ろの二人は距離を取って魔力を溜めながら隙を伺っているようだが、僕と魔王がかなり近距離で打ち合っているせいで下手な援護が出来ず、強引に割り込んで攻撃しようものなら僕を巻き込みかねないため動くに動けないでいる。
「(なら……!)」
次の攻撃を凌いだタイミングで、僕は後方に一歩引いて距離を取ろうと考える。
そして予想通り大ぶりの攻撃を仕掛けてきた所で、僕は後ろに大きく一歩下がってその攻撃を回避し、同時に突きで相手の胴体に攻撃を加えて転倒を狙う。
転倒こそしなかったものの、一撃を受けた魔王は一瞬動きが止まり、その隙に僕はさらに一歩下がって再び武器を構える。
これでエミリア達が攻撃を仕掛けるチャンスが生まれた……筈だったのだが、
「―――■■■■■」
咆哮とも悲鳴とも言い難い雄叫びを上げて、僕達に一瞬動揺が生まれてしまう。その隙に魔王は、先ほどよりも更に早い踏み込みで僕に急接近して、剣を横に薙いでくる。
「くっ!!」
相手の攻撃速度が早過ぎて回避は不可能。僕は正面に構えていた剣で咄嗟に防御するが、魔王は更に雄たけびを上げながら凄まじいスピードで追撃を加えてくる。
は、早い……! 剣の技術はそこまでだけど、単純な身体能力とパワーが段違いだ。
それに折角距離を取ってエミリア達の攻撃のタイミングを作ったというのに、こうまで僕に張り付いて仕掛けてくると仲間達も手が出せない。
「(……なら、僕が抑え込むしかない!)」
素の身体能力ではどうやっても不利な状況ではあるけど、少しずつ腕の痺れも消えてきた。僕は聖剣の力を使って身体能力を底上げする。
そして後ろの二人に向けて振り向かずに叫ぶ、
「二人は手を出さないで!! 何とか僕一人でどうにかしてみせるっ!!」
そう言いながら僕は今まで防戦一方だったところを、打って変わってこちらが仕掛けていく。
「たあっ!!」
僕が放つ攻撃を魔王は剣でガードするが、今度はこちらがそのまま追撃を放つ。
しかし、僕の追撃もあっさりガードされてしまい、今度はその隙を突かれて魔王が僕の首元を狙って剣を横に薙ぎ払ってくる。
「レイ!!」
「……っ!!」
僕の名を呼ぶエミリアの声に応える余裕は残念ながら無い。
魔王の攻撃を後ろに仰け反りながら何とか僕は回避するが、その勢いを利用して魔王は更に追撃を繰り出してくる。僕はどうにかそれを回避したり剣で防ぐが、やはりパワーの違いで徐々にこちらが劣勢に陥ってくる。
……だが、一見戦況不利なこの状況で、僕は徐々に活路を見出しつつあった。
「(魔王の動きが少しずつ読めてきた)」
この魔王の剣裁きは素早くて威力も申し分ないのだが、攻撃を繰り出すタイミングで必ず相手は一瞬だけ「溜め」を作っている。
具体的には剣を振るタイミングで、魔王は一瞬腕を引き戻す予備動作を行って攻撃を繰り出してくる。そこで若干のラグが発生するお陰でこちらの咄嗟の防御が間に合っている状態だ。
おそらく魔王になる前の人間の頃のクセが残っているのだろう。
「溜め」の時間こそ0.1秒にも満たない時間ではあるが、その予備動作が判れば攻撃のタイミングを完全に読むことが可能だ。
僕は魔王の攻撃を受け流し、あるいは弾きながらもこちらの攻撃を差し込むタイミングを見計らう。
そして、魔王の引き戻し動作が大きくなったタイミングで―――
「そこ!!」
僕は最速のタイミングで突きを行って魔王の剣を弾き飛ばす。
「■■!?」
そしてそのままがら空きとなった魔王の首元を狙って僕は剣を振り下ろした。
肉がざっくりと抉れたような不快な感触を感じながら、次の瞬間、魔王の首があった根元からドス黒い血が迸り、魔王の首だけが宙に舞って地面に転がった。
首が吹き飛んでから数秒後、噴水のように血が迸る魔王の胴体はビクンビクンと痙攣を起こしながらその場にドサリと倒れる。
そして周囲の地面を薄汚れた血で染めながら、魔王の肉体はゆっくりと黒い煙となって消滅していった……。
「……っ……終わったか」
魔王が完全に消滅したタイミングで、僕は止めていた息を吐き出して緊張を解く。そして後ろから二人が走ってきて僕に声を掛けてきた。
「レイ! 無事ですか!?」
「お兄ちゃん、怪我は無い?」
僕は彼女達を安心させるために無理矢理笑顔を作って無事であることをアピールする。
「大丈夫大丈夫……ちょっと疲れたけど無傷だよ」
そう言いながら僕は剣を地面に突き刺してからポケットに入れてあった布を取り出して、剣に付着した魔王の血を拭う。
「ほ、本当に一人で倒してしまうとは……」
「……流石、お兄ちゃん……強い……」
「あはは、アカメの兄だもん。多少ブランクがあるくらいでは負けたりしないよ」
僕は笑いながらそう虚勢を張るが、実際は結構危なかった。
少し前にカレンさんと訓練を行ったおかげで対人戦での感覚を取り戻せていたのが勝てた理由だろう。お陰で対人戦特有の相手の動きを観察するだけの余裕が残っていた。
「さ、倒したし帰ろうか」
「ですね……」
「もう少しで日が沈む……ベルフラウの夕食に間に合うよう素早く行動すべき」
「「……ぷっ」」
アカメのその抑揚のない言葉の中に、確実に自分の欲求が混じっているのを聞いて僕とエミリアは思わず噴き出した。
「な、何……?」
アカメは自分が笑われている事に気付き、少しムッとした表情をする。
「いえ……前はあれだけベルフラウの事を嫌ってたのにって思いまして……」
「アカメ、今は姉さんの作る料理大好きだもんね」
「……っ!」
僕が冗談めかしてそう言うと、アカメは顔を真っ赤にしてエミリアの胸をポカポカと叩いた。そんなアカメを宥めながら僕たちは王都へと帰還するのだった。
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