第884話 魔王チャレンジ

 前回までのあらすじ。

 ミリク様の信者の力で白玉を量産して貰った。以上。


 魔王の魂を探知することが出来る白玉の量産に成功した。


「これを皆が持てば索敵範囲も上がって効率も良くなるはず」

「アカメとルナの負担も減りますね」


 僕は白玉を宿の皆に配布し、ミリク様に教わった使い方を全員に解説する。今回新たに以前と比べて機能が改善されており、索敵範囲が以前よりも向上しただけではなく魂を誘導させる効果まで付与されるようになった。


 ただし、誘導し過ぎると魔王の魂が街の中に入ってしまう恐れがあるので注意が必要だ。

 僕はエミリアと話し合いながら今後の事を相談する。


「これまではアカメとルナの二人に探索してもらって、魔王を発見したら通信魔法で僕達に連絡を付けて貰ってたけど、これでその手間を省けるね」


「今の所、魔王の魂の撃破数はいくつでしたっけ?」


「ええと……数えてなかったけど……最初の1体を含めて合わせて4体だったかな?」


「魔王の強さもそこそこバラつきがあるようです。最後に戦った魔王なんてレイ一人でどうにかなる程度じゃなかったですか?」


「最後のっていうと……ああ、魔王幹部級より少し弱いくらいだったかな」


「その程度なら私たち数人でもどうにか出来そうですよね。これからはフルメンバーまで集まらなくても数人集まった時点で討伐に向かうってのはどうです?」


「でも危険じゃない? 一応魔王だよ?」


「ある程度の戦力を確保した上で挑むようにします。もし戦力が整わなかった場合、白玉の索敵誘導効果を停止させればいいでしょう。そうすれば魔王の魂は勝手に離れていくはずなので」


 ミリク様曰く、肉体を得た魔王は複数の人格が混ざり合ってるので強大なのだけど、魂だけ呼び寄せた魔王は一つの人格のみが呼び寄せられて、その人格に合わせた姿と元々の能力が実体化しているらしい。


 肉体を得た魔王相手だとこちらがフルメンバーでも勝つのが非常に難しかったのだが、魂だけの魔王は人格が一つしかないため強さもそこまで脅威では無かった。なのでここからは魔王の反応をキャッチしたメンバーが仲間に協力を求め、集まったメンバーで討伐に向かうという形になる。


 とはいえ、これを他の冒険者さん達に任せるのは難しい。


 通常の個体よりも弱い魔王とはいえそれでも並の魔物とは比較にならない強さを誇っており、並の冒険者が数人集まったところで魔王を討伐するのは難しい。


 それに今回の作戦は僕達がミリク様から直接受けた依頼であり、やってる内容に関しても「魂だけの状態で浮遊してる魔王を無理矢理呼び寄せて肉体を与える」という、考えようによっては魔王軍に対しての利敵行為だ。


 誰かにうっかり協力要請してしまうととんでもないことになりかねない。


「うーん……グラン陛下に相談したかったんだけどなぁ……」


「もう遅いですよ。作戦開始前に相談するならまだしも、既にやり始めた後ではどうしようもありません」


「だよねぇ……」

 僕がガックリと肩を落とすと、アカメが慰めるように声を掛けてくる。


「お兄ちゃん、元気出して?」


「……うん……ありがとう……」


 可愛い妹に慰められて、今後の事で悩んで落ち込んでいた僕の気持ちも少しだけ持ち直した。


 ――と、その時……僕の所持していた白玉が僕の頭の上に出現する。


「これは……」


「早速魔王が見つかりましたね……」


「どうする、お兄ちゃん? 他のメンバーはすぐに合流出来ないと思う……」


 となると、この場にいる三人で向かうことになるが……。


「(接近戦が得意な僕、遠距離での魔法戦が得意なエミリア、それに個人の戦闘力が高いアカメ……この三人なら何とかなるかな……)」


 僕はミリク様から授かった白玉の力を使って、魔王の居場所を割り出す。


「距離は……東の方角に20キロくらいだね……」


「ふむ……1時間30分あれば飛行魔法で飛んでいける距離ですね」


「翼がある私ならもう少し早く行けるけど……」


「ダメだよ、アカメ。流石に単独だと危険過ぎる。三人で足並みそろえて行こう」


「分かった、お兄ちゃん」


「よし……念の為、通信魔法でカレンさんとルナに連絡を入れた方が良いかな。エミリア、頼める?」


 僕が彼女にそうお願いすると、既にエミリアは通信魔法を起動させており、二人と会話していた。


「連絡は付けておきました。カレンは今、別の仕事の最中で手が離せないようです。ルナは……ノルンと薬草採取に出掛けているようですね……」


「そっか……」


「ルナ達の方は要件が済み次第こちらに応援に来てくれるようですが、距離が少し遠いので合流に時間が掛かるかもしれませんね」


「あまり遅いと魔王が街に接近し過ぎてしまうかもしれない。王都の近くには小規模の村や港町もある。戦闘に巻き込んでしまうのは避けたい」


「了解です。なら私たち三人で行きましょうか」


 そうと決まれば、僕達は即座に宿を出て飛行魔法を使用して東の方角へと飛んで行く。


 それからほぼ想定した時間で僕達は魔王の魂を発見した。


「お兄ちゃん……アレ!」


 アカメが空間が歪んでいる場所を指差す。僕は頷いて白玉をその場所に全力でぶん投げる。すると、白玉がぶつかった箇所が光り輝き、その後に周囲に黒い煙が立ち込める。


「これが魔王の魂……なるほど……禍々しい」


 僕の前に出現した黒い煙はやがて人形を象っていき、徐々にその容姿がハッキリとしてくる。現れたのは黒い甲冑に身を包んだ一人の長身の騎士だった。

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