第881話 やり込み編突入(違う)
前回までのあらすじ。
朝ご飯食べてたらミリク様に呼び出し喰らって魔王討伐する羽目になった。以上。
魔王討伐の開始直後、僕たちが一斉に攻撃を仕掛ける。
まずは後衛のルナの炎魔法が発動する。
「―――炎よ!
ルナの掌から放たれた小さな火球が前衛を追い抜いて、肥大化しながら魔王の元へと向かっていく。
だが、魔王は避ける素振りも見せずにその場から動かない。そして火球が直撃したかと思った次の瞬間、魔王は手を突き出して火球を受け止める。掌が焦げて煙が上がっているがほぼノーダメージ。だが、元々魔王相手にそんな単発攻撃で仕留められると思っていない。
「行きますよレベッカ!!」
「はい!!」
次にエミリアとレベッカが掛け声を出し合いながら、それぞれ魔力弾と弓による射撃で、魔王の頭部と胴体を同時に狙い撃つ。それぞれの攻撃が螺旋のようにグルグルと回りながら、魔王の肉体の部位を削り取ろうとするが、次の瞬間に狙った部位の周囲がモザイクのように曖昧になり攻撃が無効化されてしまう。
「無効化されたっ!?」
「いえ、どちらかといえばすり抜けたというのが正しいでしょうか? 存在が希薄ゆえに、直接的な攻撃に対しての無効化能力があるようですね……」
「面倒な……」
エミリアはそう言いながら魔王を睨みつける。
次に接近戦を仕掛けた僕とカレンさんがそれぞれの剣で魔王に攻撃を仕掛けるのだが、突然魔王がその場から一瞬で消え去って少し離れた場所に姿を現す。
「っ!? 空間転移!?」
「く、レイ君、反撃が来るわよ!!」
カレンさんがそう僕達に叫ぶと、魔王の両手から魔力が収束されていく。そして魔王は両手を僕達に向けて突き出して、そこから赤黒い光を放つビームのような攻撃を放ってきた。
「――させないわ!!」
そこで後方で待機していた姉さんの結界魔法が発動。
僕達の周囲に光のウェーブが出現して、その攻撃を防いでくれる。
「……攻撃の隙を狙う」
そして、その隙を狙ってアカメが魔王の周囲に闇属性の攻撃魔法を上空から解き放つ。
魔王の周囲に小爆発が何度も引き起こされ、魔王は短距離ワープで何度も逃げるのだが、足が止まった一瞬の隙を突いてノルンが溜めていた大魔法を発動させる。
「<邪気封殺>」
彼女の魔法が発動すると同時に、何処からともなく紙吹雪が風と共に舞い散って魔王の身体に纏わりついて、纏わりついた箇所から身体が黒ずんで石になっていく。
「……こうなってしまえば、さっきのようにすり抜けることも出来ないでしょう? さぁ、レイ!」
「……っ!」
ノルンの言葉に頷いて、僕は全力で軸足に力を入れて剣を斜めに構え、腰を低くして突きの体勢を取る。
そして、一息で敵の間合いに入り込み―――
「これで―――終わりっ!!」
そのまま、魔王の右肩辺りから左銅にかけてを一気に切り裂く。グシャアアアア……と鈍い音が鳴り響き、魔王はドサリとその場に倒れ込んだ。
「……」
僕は振り返り、倒れ込んだ魔王を見る。魔王は無言で倒れたまま微動だにせず、数秒後には砂の粒子のように崩れ去って風と共に消えていった。
「……倒したのかしら?」
「……多分」
油断なく剣を構えていたカレンさんは、敵が完全に倒れた事を確認して剣を鞘に納める。そこで僕達も緊張を解いて武器を収めて集まる。
「……意外とあっさり倒せちゃったね。サクライくん」
ルナは先程まで魔王だった砂の粒子を近くに転がっていた木の枝でツンツンと突きながらそう言った。
「だね……正直、こんなに簡単に倒せるとは思わなかったよ」
間違いなく強い相手だったのだが、それでも今まで戦った他の魔王と比べるとそこまで強さを感じなかった。
単純な攻撃力も姉さんの結界魔法で防ぐことが出来たし、防御面に関しても攻撃をすり抜ける能力と短距離ワープが強いだけで、ノルンの<邪気封殺>で封じて斬り裂いただけで勝負が終わった。
「魔王って言ってもピンキリなんですねぇ」
「ふむ……ともあれ、これにて一件落着といったところでしょう。皆様、お疲れ様でございました」
レベッカはそう言って僕達に労いの言葉をかける。
「よし、これでようやく僕達の戦いは終わりかな」
「呆気なかったけど、誰も犠牲にならずに戦いを終わらせられるならそれに越したことはないものね」
「……早く帰って眠りたいわ……」
僕の言葉に姉さんとノルンも疲れた顔で同意する。ノルンは戦いの疲れのせいか、そもそも寝不足だったのか瞼が閉じる寸前だ。
そして、僕達は完全にお祝いムードになって帰宅を済まそうとするのが――
――うむ、皆の者、よくやったぞ!!
姿が見えないので空気と化していたミリク様の声で僕達は我に返る。
「あ、ミリク様」
「駄女神様、まだ居たんですね」
エミリアが余計な一言を呟く。威厳ないけどこの人一応神様だぞ?威厳ないけど。
――うむ、皆の活躍は見させて貰ったぞ!! 次も期待しておるからの!!
……ん? 次?
「……あ、あのミリク様。今、なんと?」
レベッカが恐る恐るミリク様に質問する。
――ん?
「今、『次も』と言ったように聞こえたのだけど?」
――うむ、言ったの。それがどうかしたのか?
「どういうことでしょうか? これで世界は平和になったんじゃ……?」
話が違うとばかりにカレンさんが慌ててミリク様にそう尋ねると、彼女はあっけらかんとした声でこう答えた。
――何を言っておるのじゃ? 今のは魔王の表面化した人格の一つでしかないぞ? 魔王に混在した人格はまだ100体くらいはおるからのぅ?
「……それって、つまり……」
まさかと僕は思わずカレンさんの方を見る。
――うむ、目指せ残り100体じゃ!!今のように魔王を100体しばき倒せば世界は恒久的に平和になるに違いない!!
「……」「……」「……」
僕達は顔を見合わせ――
「「「「「えぇーーーーーー!?!?」」」」」
僕達の悲痛な叫びが周囲に木霊するのだった。
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