第877話 神様からのお仕事①
次の日の朝。僕達は王都の入り口付近に一旦集合してから、残るカレンさんを待つことにした。
「おーい!」
待ちあわせて十数分後、女性の通る声が周囲に響き渡る。僕達が声のした方向を振り返ると、そこにはこちらに手を振る旅姿のカレンさんの姿があった。
「みんな久しぶり。元気だった?」
艶やかで細い美しい青色の長い髪を手で抑えながら、こちらに走ってくる。
「カレンさん!」
僕達もカレンさんの方へと近づいていくと、互いに挨拶を交わす。そして、カレンさんは僕の手を握って優し気な表情を浮かべてこう言った。
「久しぶりね、レイ君。最近だと冒険者家業を引退して学校の方を頑張ってるみたいね。順調?」
「あはは、順調かどうかは分からないけど頑張ってるよ。カレンさんの方は? 誕生日過ぎた後も、しばらくの間は実家に戻ってたってサクラちゃんから聞いてるよ?」
カレンさんは既に二十歳の誕生日を迎えており、以前、僕達もその時にカレンさんの実家のパーティに呼ばれていた。
二十歳となったカレンさんは以前よりも更に綺麗になっており、誕生日パーティでもその美貌に招待されていた貴族の男性らにアプローチを受けていたようだ。もっとも、カレンさんは全ての男性のアプローチを丁重に断っていた。
なおその場面を僕は凝視していた。後で姉さんに聞いたところ、「魔王と戦う時よりも敵意を放ってたわ」と言われてしまった。
「平和になったからお父様とお母様に帰って来いと言われてね。ここ周辺もまだ復興の最中だったから家に帰るのが後回しになってしまったのだけど、陛下に頼んで暇を貰って一ヶ月帰省してたのよ。
少し前まで意識不明で動けなくなってたし、その後も結局魔王討伐までずっと戦いに身を置いていたのもあって、二人とも私の顔を見てホッとしていたわ」
両親の事を語るカレンさんは、とても嬉しそうに見える。
僕達が話していると姉さんが僕の隣まで歩いてきてカレンさんに言った。
「カレンさん、身体の方はもう大丈夫そう?」
「ええ、心配かけてごめんなさいね。ノルンのお陰で魔王の呪いも完全に消えたのも確認出来たし、私はもう絶好調よ。何なら平和になってちょっと身体を持て余しているくらい」
カレンさんは腕に握りこぶしを作るようなポーズを取って元気さをアピールする。
「で、そのノルンは何処に居るの? 彼女に改めて礼を言っておかないとって思ってたんだけど」
「あ、ノルンならそこに」
エミリアは入り口の壁際を指差す。そこには壁に背をもたれながら目を閉じて瞑想……ではなく、どう考えてもスヤスヤ眠っているノルンの姿があった。
「あ、相変わらずね……」
カレンさんはそんなノルンの姿を見てクスッと笑う。
「あれでも前よりは睡眠時間が減ったくらいだよ。最近はちゃんと朝から起きてるし」
少し前は昼食の時間にようやく起きてくるか、朝食食べたら即自室で寝てしまうかの二択だったので、大きな進歩ではある。
「まぁ皆元気そうで安心したわ……それと」
カレンさんはそう言って一人の人物に視線を向ける。視線の先には無表情で視線だけをカレンさんに向けるアカメが立っていた。
「……」
「アカメ、八ヵ月ぶりかしら。エミリアから通信魔法で話だけは聞いていたのだけど、本当に人間の姿になってたのね」
「……カレン・ルミナリア。私に何か言いたい事がありそうな顔ね」
「気のせいよ。アンタがもう敵じゃない事も分かってるし、無事に元の鞘に収まったことは素直に良かったと思ってる。ただ、問題だけは起こさないでくれると助かるわ」
「……少なくとも、私にそんな意思はない」
「ならいいわ」
アカメの言葉にカレンさんは頷いて、こちらを振り返る。
「少し時間を取ってしまったわ、ごめんなさい。……さ、早速行きましょう。あの洞窟に行くのよね?」
「うん、それじゃあルナ」
「はーい」
僕が声を掛けると、待ってましたとばかりにルナが竜の姿に変身する。
◆◇◆
そして、ドラゴンの姿になったルナの背に乗せてもらい、僕達は例の洞窟の奥へとやってきた。すぐにミリク様の声が脳内に響いて、僕達はミリク様達の領域へと転移する。
そして、目覚めた僕達は目の前の褐色美人のミリク様と対面する。
『さて、儂の事は既に皆知っていようが、何人か初対面の人間がおるので一応自己紹介をしておこう。
儂はこの世界を支える二柱の一角の大女神、大地を司る女神ミリクじゃ。この世でもっとも偉い存在じゃぞ、敬うが良い』
ミリク様はそう言いながら高笑いをする。
この中で初対面なのはカレンさんとノルンの二人なのでその二人に対しての挨拶なのだろう。
二人は苦笑してミリク様の前に出て挨拶を行う。
「……大変失礼しました、ミリク様。カレン・フレイド・ルミナリアです。この度は、この領域に私達を迎え入れてくれたこと、感謝いたします」
「……ノルジニア・フォレス・リンカーネインよ」
『うむ、苦しゅうないぞ! ……時に、ノルジニアよ』
ミリク様は満足げな表情を浮かべるが、ノルンの方を見て表情を少し硬くする。
「……何?」
『お主は国土神じゃな。ということは実質儂の部下のようなものじゃ! 何かあったら儂に相談すると良いぞ!』
「国土神?」
聞き慣れない言葉に僕は首を傾げる。
「国土神って、何をする神様なんですか?」
『大陸一つを管理する神の事をそう呼ぶのじゃ。ちなみに儂は世界全土を管理しておる最高神じゃぞ!』
そう言ってミリク様は胸を張る。が、その後すぐにガックリと項垂れた。
『……ともあれ、実際のところイリスティリアと半々で管理してるわけじゃがの……。そして、実はこの上の神もおるから、儂も最高神といっても最高ではないじゃ……』
「それはそうよ、主神様は全ての次元を統治しているのだから」
ミリク様の言葉に姉さんが呆れて声を出す。神様にも色々あるらしい。
「私が神だと気付いてたの?」
『人間の目には見えぬが、お主に少し信仰が溜まっておるからの。まだまだ見習いレベルじゃが、ある程度蓄積されていけば神としての能力が解禁されていくはずじゃ』
「そう……アドバイスありがとう。まぁ、何かあったら相談しに来るわ……」
『ちなみに、相談の見返りとしてお主の信仰の1割を頂くからそのつもりでな』
「ボッタクリじゃない……」
ノルンはそう言ってため息を吐く。
『さて、一通り挨拶は済んだのじゃが……そろそろ本題に入るぞ』
ミリク様はそう言って姿勢を整えて僕達を眺める。普段のおちゃらけたミリク様の態度と違う事に気付いた僕達は、皆真面目にミリク様の言葉を待つ。
『では……お主らには魔王討伐を言い渡す!!』
………………。
ミリク様の発言に僕達は困惑する。
「……あの、ミリク様?」
『ん? どうしたレイよ。そんな「何言ってんだ、この人」みたいな顔をしよって』
まさにそういう顔をしていたようだ。
「いや、魔王討伐とか言われても、そもそも半年前に僕達は魔王を倒したのですが」
『……おお!! 言い方が悪かったの!!』
ミリク様は手をポンと叩いて、説明を始めた。
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