第876話 多分、そこまで考えてないと思うよ

【視点:レイ】


 レイとベルフラウが脱衣所の前のベンチで休んでいると、ボロボロになったアカメとエミリアがやってきた。


「ふ、二人ともどうしたの? 服がボロボロじゃないか」


「喧嘩でもした?」


 僕と姉さんが心配して二人に尋ねると、二人は気まずそうに互いの顔を背ける。


「なんでもない……」


「あはは……ちょっと手合わせしてただけですよ」


「それならいいんだけど……。あ、そうだ、アカメ。ミーア見つかった?」


 ミーアというのは僕の部屋に遊びに来る猫の事だ。アカメはミーアを追って廊下を出ていったのでもしかしたら捕まえてくれたのかと思ったのだが。


 何故かアカメは無言でエミリアを睨んで、睨まれたエミリアは僕から慌てて顔を逸らしていた。


「エミリアがどうしたの?」


「……なんでもない」


「……? よく分からないけど、ミーアは見つからなかったんだね。あの子、いつの間にか部屋に入ってきて、気が付いたら居なくなっちゃうんだよね」


「……だそうよ、エミリア」


「わ、私に話を振らないでください」


 何故か、エミリアが顔を真っ赤にしながらアカメに抗議している。


「どうしたの、二人とも? ……っていうかミーアってレイくんの部屋に時々遊びに来る猫の事よね? 名前付けたんだ?」


「うん。名前ないと不便だからね」


「なんでミーアって名前にしたの?」


「……特に何かを参考にしたわけじゃないんだけど……」


「ミーア……エミリアに名前似てる……」


「!?」


「いや、偶然だけど……なんでエミリアはそんなに顔を赤くしてるの?」


「なんでもないです……。わ、私、身体が汚れてるので、お風呂入ってきますね」


 エミリアは上ずった声で叫ぶと、さっさと脱衣所の中に入っていった。


「どうしたんだろ、エミリア?」


「……」


 アカメは僕をジッと見てから、「……私も入ってくる」と呟いて脱衣所の中に入っていった。


「?」


 僕と姉さんは首を傾げるが、アカメとエミリアが出てくるのを待つことにしたのだった。


 それから二人が出てくるのを待ち、僕達は雑談室に集まる。その後にレベッカ達を呼んで僕は話を始めることにした。


「明日、ミリク様の所へ皆で行こう」


 僕は机を挟んで皆にそう告げると、皆は顔を見合わせる。


「お兄ちゃん……アイツから連絡が来たの?」


「うん、以前から言われてた話だと思う。アカメも来るように言われてるよ」


 僕がそう言うとアカメは少し嫌そうな顔をする。


「いつ連絡が来たのですか?」


「お風呂入ってる時」


「何故そんなタイミングで……」


「それは僕が聞きたい」


 ミリク様が突拍子がないのはいつもの事だが、一番油断してるタイミングを狙って連絡してきたのは流石と言わざるを得ない。


「学校はどうするんです?」


「明日は僕は休みだから問題ないよ。それよりもサクラちゃんとカレンさんにも来てもらいたいんだけど」


「ふむ、サクラ様は今、ミーシャ様とアリス様と共にサクラタウンに戻っていると聞いております」


「じゃあサクラちゃんは来れないか……カレンさんは?」


「カレンなら私の方から連絡しておきますよ」


「よろしくね、エミリア」


「では、外に行って連絡を取ってきますね」

 そう言ってエミリアは一人雑談室から出ていった。


「明日はカレンさんの都合が付いたら朝から行くつもりだから、皆宜しくね」


「……私のせいで申し訳ない」


 アカメが皆に申し訳なさそうに謝罪する。

 それを見たレベッカはアカメに柔和な笑みを浮かべて言った。


「お気になさらないでくださいまし、アカメ様。わたくし達もこうしてアカメ様と共に寝食を共に出来るようになって、とても穏やかな時間を過ごしております」


「レベッカ……」


「あの女神は私たちに何させるつもりなのかしらね?」


 姉さんの口にした疑問を聞いて僕達は考えを巡らせる。が、魔王を倒して平和になった今、思い当たるような事は特に思いつかない。


「考えても仕方ないし、明日考えましょうか」


「そうだね……」


 そうして、その日の夜は解散となった。

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