第867話 レイ達のその後④

 次の日の朝―――


 アカメを加えたレイ達はいつも通りの朝食を終えて、それぞれが各々の行動を始める。


「ではレイ様、わたくし達はギルドに行って参ります」


「特に目ぼしい案件が無ければ、調合素材の買い出しをしてから帰ります。食事はこっちで済ませるつもりなので昼食は不要ですよ」


 食事を終えて少ししてから、エミリアとレベッカが冒険者としての仕事の為に先に宿を出ていく。


「うん、いってらっしゃーい」


「気を付けてねー」


「二人とも、門限までには帰ってくるのよー」


「……昨日も思ったのだけど、いつからここは門限が付いたのかしら」


 それを僕とルナと姉さんとノルンが見送る。

 彼女達を見送ると、残ったメンバーは姉さんと一緒に食事に片付けを始める。

 すると、ソワソワした様子のアカメが、僕に話しかけてくる。


「その……」


「どうしたの、アカメ?」


「……何か、した方がいい?」


「何かって?」


「……掃除とか、洗濯とか」


 そう質問され、アカメが自分だけ特に役割が無かったことを気にしていた事が何となくわかった。


 アカメは今の所お客さん扱いだから、そんな事全然気にしなくても良かったんだけど……。


 すると彼女に気を遣ったのか、ルナがアカメに声を掛ける。


「あ、そだ! じゃあ、アカメちゃん。私とお風呂の掃除する?」


「お風呂……? 」


「私達、この宿を貸し切ってるから殆ど私たちしか入ってないの。だから自分達で掃除しなきゃなんだよね」


「……分かった。ルナと一緒にお風呂の掃除をする」


「うんうん、その意気だよ! じゃ、早速お風呂場にレッツゴー!!」


 そう言ってルナはアカメの手を引っ張って風呂場へ向かった。


「あらあら……いつの間にか、アカメちゃんとルナちゃん仲良くなってたのねぇ」


「そうだね……」


 僕は昨夜の二人の話を頭に浮かべながら頷く。


「じゃあ、お姉ちゃんは食器を洗ってくるわね。レイくんは今日どうするの?」


「んと、午前中の間は昨日と同じように魔法学校でハイネリア先生の手伝いをしてくるよ。あと少ししたら出るから」


「分かったわ。お弁当は要る?」


「ん、大丈夫。今日は早めに戻ってくるからお昼はこっちで食べるよ」


「りょうかーい」


 姉さんはそういうと、鼻歌を歌いながらトレイに食器を乗せて食堂を出ていった。


 そして、僕とノルンだけ食堂に残った。


「ノルン、頼みがあるんだけど」


「何?」


「今日、僕が仕事から戻るまでの間、二人の事を見ていてほしいんだ」


「二人って、アカメとルナのこと?」


「うん。特にアカメは、今の姿で外に出ていくと危ないと思うし……」


「……そうね。彼女、以前にこの街で騒動を起こしたって話だったわね。……でも、なんでルナもなの?」


「うん……実はね……」


 僕は昨夜聞いたルナの身の上話をノルンに説明する。


「……そんな事があったのね」


「あ、この話を僕が聞いていた事は内緒にしておいてね。盗み聞きした形になってしまったし、ルナも僕達には知られたくないと思うんだ」


「安心して、勿論彼女達に尋ねることもしないし誰にも言うつもりはないわ」


「ありがとう……。多分、ルナはアカメと自分が似たような境遇な事に共感を持ったんだと思う。だからアカメの事で感情的になっちゃうこともあるかもしれない。だから……」


「何かあったら、私が彼女達のブレーキになってあげて……ということね?」


「うん……」


「任せて。私はこれでもあなた達よりもずっと大人よ。いざとなればちゃんと諭してあげられるわ」


「助かるよ。……にしても、ノルン、また向こうに戻らなくも大丈夫なの?」


「フォレス王国の事? 少し前に戻って国王と色々相談を受けたけど、上手くやっていけそうよ。何かあれば、私は夢の中でお告げも出来るし」


「ならいいんだけど……」


「どうして、そんな事を気にして……。あ、そういうことね……」


 ノルンは僕も見て表情を緩める。


「私がまた帰っちゃうんじゃないかって、不安なんでしょ?」


「え、あ……いや……その……」


 図星を突かれて、僕はしどろもどろになる。


「ふふ、大丈夫よ。私はもうあなた達と離れるつもりはないわ」


「ノルン……」


「それに……レイが私の事を必要としてくれている限り、私はあなたの傍を離れない」


 そう言ってノルンは僕の手をそっと握ってきた。そして、僕の頬に軽くキスをする。


「あ……」


「……さ、そろそろ時間よ。早く学校に行ってきなさい」


 ノルンはそう言って僕から離れると、食堂の出口へ歩いていった。


「……」


 僕は彼女にキスされた頬を手で抑えながら顔を赤らめていた。


 レベッカやカレンさんですらあんな不意打ちは中々してこない。ノルンは普段の表情の変化が乏し過ぎて分かりにくいけど、僕に対しての好感度が凄く高いのかもしれない。


「……アカメの事だけじゃなくて、自分の事も考えておかないと……」


 結局、僕も彼女達との関係性を保留にしてしまっている。いずれは自分なりに答えを見つけないと……。


「(……ん、そういえば、魔王討伐直前に姉さんが、終わったら話したいことがあるとか言ってた気がするんだけど……?)」


 あまりにも意味深過ぎて思わず茶化してしまったのだけど、あれ以降何も言ってこないから完全に忘れてた。


「……まぁ、今度質問してみようかな。それじゃあ、僕も行くか……」


 僕は宿主さんに預かって貰っていた荷物を受け取って宿を出て、学校行きの馬車乗り場へと急ぐのだった。

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