第861話 僕達は、平穏な日々に帰結する
それから二週間後の話―――
目的の魔王討伐を成し遂げた事で、僕達は国王陛下から勲章と褒賞を受け取る事となった。
他にも国王陛下と共に魔物達と戦った冒険者や騎士達も、国王陛下から十分な恩賞を与えられ、その代表の僕達は王都の民衆の前で大々的に表彰される事となった。
「魔王を討伐し、よくぞ世界を救った。その武勇に敬意を表する……!」
「我らが英雄、勇者様!!」
「キャー!! レイ様ーーーー!!」
「うおーーーーサクラちゃん可愛い~!!!」
そして……最後に僕とサクラちゃんが一緒に壇上に上がって民衆から大きな拍手を受ける。
中には僕達をアイドルか何かと勘違いしてるんじゃないかと考えたくなるような無駄に熱量のある歓声を受けて唖然としていたけど、それでも僕達は仲間共々笑顔で手を振って民衆の歓声に応えた。
「皆、ありがとうです~~~♪ サクラ、これで大ヒーローになる夢が叶っちゃいましたっ!!」
「あはは……良かったね、サクラちゃん……」
熱量の籠った声援を送られてテンションが最高潮になっているサクラちゃんを見て、僕は若干冷静さを取り戻しながら一緒に手を振る。
「……」
魔王は倒され、あれほど活発的に動いていた魔物達も今は総大将を失ったためか、以前と比べてかなり大人しい。魔王軍の被害を受け続けていた街や村などの復興もこれでかなり早く進むだろう。魔王が討伐された情報は国中どころか世界中に広まるほどの騒ぎとなり、僕もその知名度から一躍時の人となってしまった。
あまりにも情報の拡散が早くて困惑してたのだが、どうやらミリク様とイリスティリア様が何か余計な事をしたらしい。
そのお陰で静かに暮らしたかった僕達は、陛下に頼まれてこうして王都への凱旋パレードに参加することとなったのだ。凱旋ってネタで言ってた筈だったのになぁ……。
そういう経緯があって、普段人の前で目立つ事を嫌う僕は、正直クタクタで早く帰って寝たいとさえ思っていた。
「あ、レイ様! 魔法学校の生徒さん達がこちらを見ておられますよ」
「え!? どこどこ!? どこにいるのレベッカ!?」
「ええと……レイ様の正面よりやや右側に……ハイネリアという女性の方と一緒に子供達が手を上げてこちらに笑顔を向けておられます」
「あ、本当だ!! フゥリ君とネィル君も居る!! おーい、ネィルくーん!」
子供達の愛らしい笑顔で気力を取り戻した僕は全力で手を振り返した。
………。
「……さっきまで疲れ果てた顔してたのに、子供達見た瞬間元気になりましたね……やっぱりロリコンなのでは……」
「でも声に出してるのは男の子よ?」
「あは、あはは……サクライくんはきっと子供好きなんだよ……多分……」
「ルナちゃん、顔が引きつってるわ……」
レイ達が張り切っている中、彼らと一緒に声援を送られている仲間達も、それぞれ疲れ切った表情で声援に応えていた。
だが今回の凱旋パレードで本当に平和な世の中になったことを実感できると、皆その疲労も悪くないとばかりに笑顔で手を振っていた。
「レイ君、サクラ……あんなに笑顔で手を振って……二人とも……立派になったわね」
「あらあらカレンさんってば、目に涙溜めてどうしたの? 二人が立派に成長して嬉しいの?」
「ち、違うのよベルフラウさん! 私は二人の保護者みたいなものだし、嬉しさと寂しさで感極まってるだけで……決して泣いてなんかいないんですから!!」
「……泣いてるじゃない。意外と涙もろいのね、あなた……」
「泣いてないわよ、もう……ううぅ……」
ノルンの一言で、遂に決壊したのか、カレンさんは両手で顔を抑えて肩を震わせ始めた。
――こうして、僕達の勇者としての戦いの日々は終わった。
これから僕達は戦いの日々から遠ざかり、平和な世界で僕達は平穏な暮らしを歩んでいく事になるのだろう。
僕があの世界で命を落とし、この世界に転生してから既に二年以上、大好きな女神様と、そして大切で大好きな仲間達との日々は、かけがえのない宝物となった。
………。
……………。
…………………。
歴史に名を残す僕達の冒険はこれで終わった。
華々しい英雄譚の様な活躍も、胸躍る冒険の日々も、神々との邂逅も、素晴らしい仲間達との絆も、魔王との戦いの日々も――
英雄としての僕達の歴史の物語は、これにて完結する。
だが……僕達自身の話は、まだ終わっていない。
英雄として称賛されるような話ではなくて、特別じゃない人としての日々。
この物語を閉じるのは、まだ少し先の話になる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
まだ最終回ではありませんが、次回からはエピローグの内容に移ります。
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