第859話 なにそれこわい

 前回までのあらすじ。


 激戦の末に魔王を打ち倒したレイ達(倒したのはサクラ)一行だが、魔王のレイに放った攻撃をアカメが身を挺して庇い負傷してしまった。


 なんとかアカメに応急処置を施し、その過程で未だにわだかまりのあったアカメとベルウラウの中をレイが取り持って和解させる。


 そして、彼女に無事に魔王を倒したことを告げるのだが―――


「……あの魔王を……倒した……?」


 アカメは驚いた表情で僕たちに聞き返す。彼女は魔王の近くに居た時間が長かったため、僕達よりも魔王の強さを理解していた。


 だからこそ、倒したことに驚きを隠せなかったのだろう。


「うん、アカメのお陰だよ」


「……いや、私は大して役に立てていなかった……ずっと気絶していたし」


「そんな事無いよ。アカメが僕を庇ってくれたお陰でこうして魔王を倒すことが出来たんだから……」


「……」


 僕はそう言って彼女をフォローするのだが、アカメは返事をせずに倒れた魔王の傍に近寄っていく。


「……本当に、死んでる……」


 アカメは唖然とした表情でそう呟き、魔王の傍に膝を付く。体中ズタボロの上に上半身と下半身が両断されている魔王の姿を見れば一目瞭然だろう。複雑そうな表情を浮かべながら、アカメは魔王の兜を取り、更に素顔を隠すために装着していた魔王のマスクも外す。


 その素顔は……何も無かった。文字通り、魔王の顔は何も無く、あるのは大きな黒い穴……のような物のみ。その穴はまるで深淵に続いているかのような……そんな不気味さを感じさせる。


「……」


 アカメはその穴を無言で見つめ、やがて魔王の亡骸から視線を逸らして立ち上がる。


「これで……全て終わったのね……」


 アカメはそう呟き、僕達に向き直る。


「これで私はようやくこの檻から解放される……。ありがとう、レイ……それに……あなた達も……」


「うん、どういたしまして」


 アカメの感謝の言葉に僕は皆を代表して笑顔でそう答える。……だが、アカメの表情は何故か暗いままだった。


「どうしたの、アカメ?」


「……アカメ、この男……と言っても良いのか分からないけど、コイツはどういう奴だったの?」


 カレンさんがアカメにそう質問をする。


「……分からない。魔王の近くに居た私や他の魔軍将たちも、一体何をしたいのか、どういう目的があるのかすら知らなかった」


「一応、コイツはアンタ達の総大将なんでしょ? 人間の国に魔物を襲わせたり組織立って行動してたこともあるはずなのに、何にも知らされていなかったというの?」


「私を含めた魔軍将は『魔王様の為に人間の国を攻め落とし、最終的には魔王様をこの世界に顕現させる』という目的があったのだけど、魔王が肉体を得たのはつい最近の事で、遥か昔に滅んだ先代の魔王の肉体を死霊術で復元し直して魔王の魂を定着させた。それ以降は、度々顔を見ることはあったのだけど……ただ」


「……ただ、なに? それに、魂の定着ってどういうこと?」


「……魂は本来、肉体とリンクすることで一つの生命体となる。……だけど、肉体のない魂は、誰かに呼び出されてしまうと簡単に行方を晦ませてしまう。……実際、エメシスとかいう人間の魔法使いに召喚されたことで、あなた達は呼び出された魔王と戦ったのでしょう?」


「……よく知ってるね。確かに、僕達は以前にエメシスって魔法使いに魔王が呼び出された現場を目撃してるよ」


「細かな詳細はロドクから聞いていた……その時に、呼び出された魔王の魂が、その人間に憑りついてあなた達と戦って敗れたという話は聞いている。あなた達に質問なのだけど、その時の魔王と、今回戦ったこの魔王が別人のように思えなかった?」


 アカメのその質問に僕達は顔を見合わせる。


「え、別人じゃないの?」


「……同一人物……のはず」


「コイツと?」


 僕は死んだ魔王に視線を向けて質問すると、アカメは無言で頷く。


「ふむ……あまり思い出したくありませんが、確かにあの時の魔王は……」


「……常に薄ら笑いを浮かべ、何処か喜劇を演じる役者のような不気味な態度を取っている印象でしたね……」


「……不気味なのはコイツも同じだったけど、同一人物には思えない……」


 僕達がそう答えると、アカメは言った。


「私も同意見。この魔王は、魂だけの存在の時と肉体を得た時の人格が違う……それが何を意味をするかは分からないけど……」


 アカメの話を聞いて僕達は嫌な予感がしてきた。彼女の言いたいことはこういうことだ。この魔王は、『偽物』なのではないか……と。


「ま、まさか……ね……」


「……でも、感じる魔力は本物よ。正直、彼が偽物だったとは考えにくいわ」


 姉さんはアカメが何が言いたいのかを理解した上でそう答える。


「あ、あのー、つまりどういうことです?」


 サクラちゃんが困惑した様子で僕達にそう質問してくる。状況を理解できていないのはルナも一緒で、僕達の話を聞いていてもチンプンカンプンな様子だ。


「……つまり、この魔王は、魔力だけは本物そっくりの『魔王』の紛い物なんじゃないかって話……だよね、アカメ?」


 僕はアカメが言おうとしていた事を要約してサクラちゃん達に説明する。


「うん、その通り」


「ま、紛い物……?」


「……つ、つまり、私たちが倒したこの人は、魔王でもなんでもなくて………」


『―――いや、違うぞルナ。そやつは間違いなく魔王じゃ!!』


 突然僕達以外の声が上がり、僕達はギョッして周囲を見渡した。

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