第858話 義姉と実妹
前回までのあらすじ。魔王をやっつけた!!
……え、マジで?
僕達は目の前に横たわっている魔王の亡骸を見つめながら呆然と立ち尽くしていた。
「……やっ、た?」
僕はそう呟きながら、仲間達の顔を見る。皆も信じられないといった表情でお互いの顔を見ている。
「ほ、本当に倒せちゃいましたね……」
魔王を真っ二つに両断して倒したサクラちゃん本人も、自身の血に汚れた双剣を見て戸惑った表情をしていた。本来、大喜びする場面なんだろうけど、あまりにもあっさり倒せてしまったことで逆に拍子抜けしてしまう。
だが、暫くして僕の隣で呆然と立ち尽くしていたカレンさんが突然膝から崩れ落ちる。
「カレンさん!?」
僕は咄嗟にカレンの身体を支えると、彼女は震えながら口を開く。
「……勝ったの? 本当に?」
「うん、そうだよ! 僕達で魔王を倒せたんだ!」
「わたしたちの勝利です! ぶいぶい!!」
「そ、そっか……これで、肩の荷が降りたわ……はぁ………」
カレンさんは僕とサクラちゃんを見て、本当に安堵した表情でその場に座り込む。今まで気を張っていたので気が抜けてしまったのだろう。今までの凛とした佇まいが、まるで仕事が終わって家に戻ってきたOLのような姿に変わっていた。
「はは……あはは……あ~、疲れたわ……」
「お疲れ様」
僕も笑いながらそう返す。彼女と話していると、姉さんとエミリアがこちらにやってきていきなり抱き付いてきた。
「やったわね、レイくん!!」
「レイ、格好良かったですよ。最終的にはサクラに良いところを取られちゃいましたけど!!」
エミリアは茶化すように僕の後ろから抱き付いてそんな事を言う。
「エミリア様、意地悪な事を言ってはいけませんよ。……レイ様、カレン様、それにサクラ様。お見事でございました」
最後にレベッカが微笑みながら歩いてきて僕達を労ってくれた。
「あはは……皆もお疲れ様……」
「やりましたよ皆さん!! 後ろからバサーって攻撃したら魔王さんぶった切れちゃいました!!」
「いや、そんな簡単にあの巨体ぶった切れたら怖いんだけど!?」
「とんでもない怪力でしたね……」
「というより、あれは力でどうにか出来るような威力では無かったように思うわ……」
「むー、わたしそんな怪力じゃありませんよー!」
サクラちゃんだけちょっと不満そうだったが、それを聞いて皆が笑い出す。
「……って、そうだ、アカメは!?」
魔王を倒したことで浮かれてしまっていたが、アカメは魔王の攻撃から僕を庇って吹き飛ばされてしまっていた。彼女の身に何かあれば、僕は死んでも死にきれない。
「大丈夫だよ、サクライくん」
僕が慌ててアカメの姿を探すと、姿が見えなかったルナとノルンが、ぐったりとしていたアカメを背負ってこちらにやってきた。
「アカメ!!!」
「はうっ!」
僕は抱き付いてうっとおしかった姉さんをエミリアに押し付けて、彼女の元へ走って向かう。魔王の攻撃をまともに受けてしまったせいか、アカメは衣服がボロボロになっており気を失っていた。
「アカメは無事なの?」
「うん、気絶しているだけだよ」
僕は二人からアカメを預かると、アカメを一旦地面に寝かせて彼女の怪我の容態を確認する。破れた衣服の下は傷付いていないようだが……。
「応急処置は済ませておいたわ。流石に治療しないと可哀想だし」
「そっか、ありがとノルン」
彼女にお礼を言って僕はアカメの口元に手を当てて呼吸をしているかどうか確認する。
「(良かった……ちゃんと息はあるな)」
とりあえず彼女が無事な事を確認してホッとしていると他の皆も集まってくる。
「レイ君、彼女は大丈夫なの?」
やってきたカレンさんにそう質問されて僕はコクリと頷く。
「うん、だけど意識が戻らないみたいで……」
「声掛けてみたらどうです? おーい、アカメさーん!!」
サクラちゃんは彼女の耳元でそう叫ぶ。が、それでも多少身じろぎするくらいでやはり目を覚まさない。
「ダメージが大きすぎたみたいね……」
ノルンも心配そうな表情でアカメの容態を観察しながらそう言う。
「姉さん、回復魔法掛けてあげてくれる?」
「うん、分かったわ。アカメちゃんを私の膝に乗せてくれる?」
僕がアカメの上体を起こして正座した姉さんの膝の上に寝かせるのだが。
―――ゴロン。
意識が無いはずなのに、アカメが何故か姉さんの膝から転がり落ちる。
「え、何で?」
「もう一回乗せるよ?」
再度姉さんの膝の上にアカメの頭を乗せるのだが、何故か姉さんの膝から転がり落ちる。
「なんで???」
「さ、さぁ……今度は僕の膝の上に乗せてみるよ」
と、今度は僕が座って彼女の頭を自分の膝の上に乗せると、今度は普通に膝の上で横になっている。
……何なんだこれ。
「も、もしかして……起きてる?」
僕がそう質問するが、アカメは反応が無い。
「あー……レイと生き別れになったそもそもの理由がベルウラウだからですかね……」
「無意識に拒絶するくらいベルフラウさんの事が気に入らないのね」
「ふえっ!?」
エミリアとカレンさんの指摘に、ショックを受ける姉さん。
「アカメちゃん酷い! 私泣いちゃう!!」
「……そういえば、アカメ様は奇襲を掛けてきた時、真っ先にベルフラウ様を狙っておりましたよね」
「あのときはベルフラウさんが死んじゃうかと思って私、泣きそうになったよ……」
「え、僕の居ないところでそんな事あったの!?」
レベッカとルナの話は初耳だった。これはアカメが目覚めた時に、兄として説教してあげないと。
「もう、アカメは仕方ないな……」
ここは兄らしく、人任せにせずに自分で妹を介抱してあげるとしよう。
「アカメ、早く起きてね……
僕はそう呟きながら、アカメの頭に手を乗せて完全回復の魔法を使う。
「ん……」
するとアカメの体から、淡い光が浮かび上がってきて徐々に彼女の身体を包み込む。そして……彼女の目がゆっくりと開いた。
「……お兄ちゃん?」
「うん、お兄ちゃんだよ?」
「!?」
僕がアカメの言葉に頷いてそう言うと、何故かアカメは顔を真っ赤にして頭を上げて起き上がる。
「ど、どうしたの……?」
「い、今の忘れて……」
「今の?」
アカメの言葉の意味がよく分からず頭を傾げる。
「ふむ……もしかして、先ほどの『お兄ちゃん』という言葉の事ではないでしょうか?」
「~~~!」
レベッカの言葉にアカメの顔が更に赤くなる。
「え、なんで? 僕をお兄ちゃんって呼ぶのがそんなに恥ずかしかったの?」
「……っ!」
アカメは顔を真っ赤にしたまま僕から顔を逸らして軽く頷く。
「(……あれ、アカメちゃん。既に何回か『お兄ちゃん』って呼んでなかった?)」
「(そうね、私も何度か聞いてたけど……無意識で言ってただけで、本人は言ったことに気付いてなかったんじゃない?)」
「(何それかわいい)」
ルナとノルンがこちらの様子を横目で伺いながらヒソヒソと話をしていたのだが丸聞こえだ。まぁそんな事は気にしなくてもいいか。
「アカメ、気にしなくても『お兄ちゃん』って呼んでいいんだよ?」
「……そ、その……少し前まで敵同士だったのに、突然そんな事言うのは……」
「いやいや、僕は全然気にしないって。っていうか、お兄ちゃんって呼んでもらえるのが新鮮で嬉しい」
一応、僕の事をお兄ちゃんって呼んでくれる子も教え子の中には居たりするけど、それはまたちょっと意味合いが違うし、同じく妹として接していたレベッカは全然呼んでくれない。
だけど実の妹だったアカメにそう呼んでもらえるだけで僕は凄く嬉しく思う。
「あ、そうだ。アカメ、姉さんを怪我させたらしいね」
「……あ、その……うん……」
アカメはバツが悪そうに俯いて頷く。
「アカメが怒る気持ちは分かるけど、今はもう敵対する関係じゃないし、反省したのであればちゃんと謝らないとダメだよ?」
「……で、でも……そいつは……」
「そ・い・つ……じゃないよ、アカメ? アカメにとっては嫌いな相手かもしれないけど、今の僕にとって、この人はお母さん代わりなんだからね」
「え、ちょっと待ってレイくん。私、お姉ちゃんじゃなくてママ代わりだったの? 恋愛感情からどんどん遠ざかってない?」
姉さんが何やらショックを受けているが、僕は気にせずにアカメと向き合う。
「ほら、アカメ。ごめんなさいって」
「ごめんなさい……」
僕がそう促すと、アカメは仕方なさそうに姉さんに謝罪する。
「まぁ……過ぎた事だし……いいわよもう。ここからはもう仲良くしましょ、アカメちゃん?」
姉さんは微妙な表情を浮かべていたが、作り笑いを浮かべて自分の手を差し出す。握手しようとしているのだろう。だが……。
「……断る」
「な、何で!? 仲直りしてくれないの!?」
「……(フイッ)」
アカメは姉さんから視線を逸らす。どうやら彼女の中ではまだ許せていないらしい。というよりは意地になってるのかもしれない。
「アカメ?」
「う……分かった……」
僕が名前を呼ぶとアカメは観念したように、渋々姉さんの手を握り返す。
「ふふ……よろしくね、アカメちゃん」
「……よろしく」
こうして、姉さんとアカメの確執は一応の和解を得て解決することが出来た。
「(……しかし、レイの前だとアカメも形無しですね)」
「(ええ、以前わたくし達にあれほどの敵意を向けていたというのに、まるで別人のように感じられます)」
「(私なんて敵意どころか一度殺されかけたわよ……まぁレイ君の妹さんだと気付いていたら、私も対応を変えたと思うけどね……)」
「(……っていうか、皆さん?)」
「(ん?)」
「(どうされました、サクラ様?)」
「(なに、サクラ?)」
「(あの時、わたしたちがアカメさんと対峙せずにレイさんに任せていれば、ここまで話が拗れずに円満解決したんじゃ……)」
「「「……」」」
「(……ま、まぁ終わった事ですし!)」
「(そ、そうでございますね!)」
「(終わりよければ全て良しよ、サクラ)」
「(あっ、はい)」
ベルフラウとアカメが和解している間、仲間たちはヒソヒソとそんな会話をしていたのだった。
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