第857話 激戦

『来るか……勇者一行……!』


 僕達が向かってくるのを見て、魔王は大剣を構える。


『地の利を封じたのは見事……だが、人間風情が正面からこの”魔王”とやり合おうなどと、思い上がるな!!』


 魔王はそう叫びながら、今度は自身の大剣に自身のオーラを纏わせ始める。


「レイ、アイツ何かやるつもりですよっ!!」


 エミリアがそう叫ぶと、それに応じるように魔王の持つ大剣が赤く染まり始める。同時に魔王の身体から漆黒のオーラがに魔王を中心に纏わりつき始めて強烈な旋風が吹き荒れる。


「……く!」


 あまりにも強烈な風の為、僕達は足を一旦止めてその場で踏ん張るように足を広げて魔王と対峙する。


『―――勇者の使用する武器に”聖剣”と呼ばれるものがあるが……この剣は、その聖剣の対となる武器。この剣は”魔剣”と呼ばれている』


「魔剣って……!」


 見るのは初めてだが、ファンタジーでは聖剣と並んでよく登場する武器だ。


 聖剣は聖なる力を遣い手を与えるのに対し、魔剣は遣い手の生命力などを削ってその力を増幅させる。


 大体のケースでは魔剣を所持した遣い手は不幸な結末を迎えることが多く、命を落としたり魔剣の力に溺れて暴走してしまうのが定番だ。


『……そう、魔剣は人間には扱い切れぬ。それも当然、元々魔剣は人間に扱えるように出来ておらぬ。何せ、魔剣の材料は……人間そのものなのだからな!!』


「「「!!」」」


 魔王のその言葉に、僕達は全員驚く。まさか……魔剣の材料が……人間!?


『その力……とくと味わえ……!』


 魔王がそう叫ぶと、大剣が更に赤く光り輝き、その光が魔王の身体へと纏わりつく。


『破壊魔剣……”冥王斬”!!』


 そして、魔王が技名と共に大剣を横薙ぎに振るうと、赤い光を纏った斬撃が僕達に向かって飛んでくる。


「く……!!」


「危ない、レイっ!!」


 だが、アカメが僕の前に飛び出して、自身の剣でそれを受け止めようとするが、一瞬で剣が粉々に破壊されてアカメ自身も吹き飛ばされてしまう。


「アカメ!!!」


「……」


『愚かな……貴様の持つ剣は、我の魔剣の試作段階のモノ。そのような紛い物で我の攻撃を耐えられるはずもあるまい……』



「……お前、よくも妹を!!」


 アカメを倒されて、怒りに任せて魔王に飛び掛かろうとする僕だったが、魔王が再び赤い光の斬撃を放って攻撃を仕掛けてくる。僕は構わず突っ込もうとするが、その前にカレンさんが僕の肩を後ろから引っ張って動きを止められてしまう。


「ダメよ、レイ君!!」


「……っ、カレンさんっ!!」


「ここは私に任せて、聖剣技、聖爆裂波ホーリーブラスト!!!」


 そして、カレンさんは自身の持つ聖剣アロンダイトから放たれる光の波動を魔王に放つ。その技は、魔王が放った”破壊魔剣”の赤い光とぶつかり合い、激しい爆発音と衝撃を辺りにまき散らす。


「くうぅぅっ……!!」


 だが、全力で放ったカレンさんの聖剣技を以ってしても魔王の”破壊魔剣”の威力には届かず、カレンさんの放った聖剣技は徐々に押し返され始める。


「カレンさんっ!!」


 僕は咄嗟に聖剣を構えてカレンさんの隣に並ぶ。


「レイくんっ!」


 そして、カレンさんと息を合わせて僕も同時に聖剣技を放つ。


「「聖爆裂波――――!!!」」


 同時に放たれた僕達の聖剣技は、”破壊魔剣”とぶつかり合い、激しい爆発音が鳴り響きながら拮抗する。


「くぅぅ……!!」

「ううぅ……!!」


 僕とカレンさんは必死に魔王の攻撃を防ごうとするが、徐々に押し返され始める。このままではいずれやられる……!


『はははっ……! 勇者だけでなく他にも聖剣使いが居たとはな……だが、無駄よ。この”冥王斬”は、勇者の聖剣と対となる魔剣の極致。その威力は、並の聖剣の比では無い!!』


 魔王がそう叫ぶと同時に更に力を強める。


「く……!!」

「こ、このままじゃ……!」


 もう駄目だ……!と思った瞬間だった。


<極大氷魔法>フィンブル


 次の瞬間、魔王を中心に極大の吹雪が上空から襲い掛かった。


「な!?」

「エミリア……!?」


 突然の攻撃に魔王も、カレンさんも僕達も驚きを隠せず、思わず攻撃の手を休めて上空を見上げる。するとそこには、杖を構えているエミリアとルナの姿があった。


「今です、二人とも!!」

「は、早く……!!」

「うん!!」


 二人が作ってくれたこのチャンスを僕達は無駄にしない。


 エミリア達が放つ極大魔法は魔王の周囲に張り巡らされた闇の障壁に阻まれてダメージこそ通っていないが、先ほどと比べて破壊魔剣の威力が若干下がっている。


 障壁を張り巡らせたことで攻撃に転用していた魔剣の力が弱まっているのだ。攻め込むタイミングはここしかない。


「カレンさん、全力で行くよ」

「ええ!!」


 僕とカレンさんは同時に聖剣の力を最大までブーストする。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「たぁぁぁぁぁぁ!!」


 そして、僕とカレンさんは剣と剣を重ね合うように振りぬくと、僕達の聖剣が輝き始め、光り輝く巨大な斬撃が放たれる。


「いけぇぇぇ!!」


 僕の叫び声と共に放たれた巨大な光の剣は、少しずつ魔王の破壊魔剣の赤い閃光を押し始めて少しずつ魔王に近づいていく。


『ぐ……!!』


 だが、魔王も力を振り絞っているのか、エミリア達の魔法を防ぎながらもギリギリの所で踏みとどまり、再び拮抗状態となってしまう。


『……さ、流石……勇者とその仲間達よ……だが、貴様らと我では、決定的な力の差がある……これで終わりだ……!!」


「く……!!」


 魔王の力は完全に僕達の攻撃を上回り、徐々に僕達の斬撃を押し返していく。このままでは……。


『ははははは!! 死ね、勇者よ!!』


 そして、魔王が勝利を確信した瞬間だった。


「―――穿て、全てを貫く神速の矢」


 レベッカの凛とした声がレイ達の聞こえたと同時に、魔王の左腕が吹き飛んだ。


『があああっ!!』


 突然の攻撃に魔王は絶叫しながら後退し、僕達から距離を取ろうとする。


 だが、魔王の足は無数の植物のツタが巻き付き、更に魔王の周囲から突然魔力の鎖が四肢に向かって巻き付き、魔王の動きを封じる。


 姉さんとノルンの攻撃だ。二人の能力によってまともな身動きが取れなくなった魔王だが……。


『ぐ……!! まだだ!!』


 だが、それでも魔王は自分にまき付いたツタと鎖を力づくで引き千切りながらこちらに歩いてくる。


 ここまでのダメージを負いながらも、それでも怯まずに僕達への戦意が衰えない魔王のその強さに戦慄と恐怖を覚えてしまう。


 ……だが、魔王は失念していた。


 勇者は”二人”居るということを……!!


「―――バックスタッブ」

『!?』


 いつ回り込んだのか、まるで最初から居たかのように魔王の背後から突然、サクラの声が聞こえたと同時に、魔王の右銅と左銅に狙いを付けてサクラの双剣がまるで巨大な鋏のように魔王の胴体を挟み、そのまま魔王の肉体を両断する。


『ガッ……!?』


 魔王の目が大きく見開かれ、背後に立ったサクラの姿を視認する。


『ば……かな……』


 魔王は信じられないといった表情で、残った右腕でサクラの身体を握りつぶそうとするが、既に限界だったのか大量の血を流しながら上半身と下半身がズレていき、そのまま地面に倒れ伏した。


『この、魔王が………………だが、我は………』


 そして、魔王は最後にそう言い残しながら動かなくなった。

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