第856話 遠距離合戦

『さぁ……第二幕の始まりだ!!』


 魔王がそう叫ぶと、僕達も武器を構えて戦闘態勢を取る。


『では、地の利を活かしてこちらは先手を打たせてもらう』


 魔王はそう言いながら全身の鎧を激しく脈動させる。


「な、何だ……!?」


「ちょっと嫌な予感がしますねぇ……」


 サクラちゃんがそういうと同時に、魔王の周囲のマグマの海がまるで蛇の様にうねりを上げながら魔王の身体に巻き付く。


『はぁぁぁぁっ!!』


 魔王が叫ぶと身体を覆うマグマが魔王の肉体に吸収され魔王の身体が燃え上がる。更に、感じる魔力が今までよりも増大して威圧感が凄まじい。


「来るわよ……!! みんな気を付けて!!」


 カレンさんは剣を構えて僕達に注意する。その言葉に全員が頷くと、魔王の巻き付いたマグマがまるで意思を持った無数の大蛇のようにこちら側へ伸びて同時に襲い掛かってくる。


「そ、そんなのアリ?」


 ルナは魔法かも分からない攻撃に驚愕している。だが、驚いている間にマグマの大蛇の数が魔王の身体から次から次へと生成されていき、既に何匹かはこちらの射程距離に突入していく。


 僕は戸惑う彼女の前に出て、聖剣の名を叫びながら剣を構える。


蒼い星ブルースフィア、行くよ!!」


 名を呼ぶことで彼女ブルースフィアの意思が強く僕に伝わり、蒼い星から青い光が放たれ同時に大きく振りかぶる。


 青い光は虹のように軌道を描きながら、仲間達に襲い掛かってきたマグマの大蛇を次から次へと迎撃して吹き飛ばす。


 聖剣の光に吹き飛ばされたマグマの大蛇は、まるで水風船のようにはじけて周囲に飛び散り、その衝撃でマグマの海が衝撃で波を作って魔王に襲い掛かる。


『やるな、勇者……だが!』


 しかし、マグマの海に呑まれた魔王は、まるでダメージを受けた様子もなく、悠然とその場で構えていた。


「ノーダメージですね……」


「あれほどの高熱の溶岩を身に受けたというのに……あの鎧にそこまでの耐久性能があるのでしょうか」


「どうかしらね……」


 レベッカの考察にカレンさんは疑いの目で魔王を睨みつける。


「で、どうするのレイくん。レイくんの聖剣の力があれば攻撃は防げるけど、あれだけのリーチの攻撃を仕掛けてくるとこっちも手が出せないよ?」


「……そうだね」


 姉さんの尤もな言葉に僕も頷く。


 魔王との距離はおよそ五十メートル強といったところ。離れているがここが平地であれば決して手が届かない距離じゃない。


 だが魔王の周囲はマグマの海に囲まれており、マグマの海からは魔王の鎧から生成された大蛇がまるでこちらを待ち構えているかのように胴体部分から首を伸ばしている。


 こちらがマグマを飛び越えて動こうとすれば即座に攻撃を仕掛けてくるだろう。仮に迎撃を全て突破しても待ち構えているのはあの魔王。もし返り討ちにあってマグマの海で落とされてしまえばこちらは為す術もなく全滅だ。


 正面から突撃したとしても結果は目に見えている。なら……。


「全員、魔法で攻撃!!」


 相手の射程距離に対抗するにはやはり攻撃魔法が有効だ。僕の指示に全員が頷き、魔王に向けて一斉に魔法を放とうとする。


『無駄だ!』


 僕達が魔法を放つ前に魔王は大剣を構えて叫ぶ。すると、魔王の身体から発生したマグマの大蛇達がまるで生きているかのようにうねりを上げていき、こちらに向かって襲い掛かってくる。


「迎撃!!」


 僕は皆にそう指示を下して、仲間達は一斉に襲ってきた大蛇たちを魔法で迎撃する。大蛇たちは凄まじい速度でこちらに向かってくるが、その本体はマグマそのもの。


 質量はそこまでではないため、強力な風の攻撃魔法をぶつければとりあえず相殺が可能だ。攻撃魔法が苦手な姉さんとノルンは無理をせずに自分に近付いてくる確実に一体一体を処理していく。


 エミリア、カレンさん、ルナの三人は魔法力のスペックが桁外れな為、束になって襲い掛かってくるマグマの大蛇たちを魔法一発であっさり蹴散らしていく。


 サクラちゃんは最前線で双剣を振るって防御、レベッカは最後尾に就いて全体を俯瞰しながら動き出そうとする大蛇を矢を射って事前に潰していく。 


 だが、いくら迎撃しても、マグマの大蛇は倒した次の瞬間には新しい大蛇が生まれて再び襲い掛かってくる。


 このメンバーであれば数十分拮抗状態に持ち込むことも可能だろうが、底なしのマグマから生み出される大蛇たちを何百何千と迎撃していてはいずれこちらの魔力が枯渇してしまう。


「……どうすれば」


 こうなれば、危険覚悟で魔王に突っ込むか?


 僕でであれば聖剣の力を身に纏ってしまえば、大蛇程度の攻撃なら鎧袖一触だ。だが、肝心な魔王はそうはいかない。僕は魔王を見据えながら考える。どうすればこのマグマの海を突破して、魔王に致命の一撃を叩き込めるのか。


 魔王を倒す術は即座に思い付かない。だが……。


「……そっか、エミリア、ルナ!!」


 作戦というほどの事ではないが、思い付いた手を実行する為に二人の名前を呼ぶ。


「はい?」


「なに? サクライくん」


「二人は大蛇じゃなくて、マグマの海そのものを全力で冷やして!! マグマの温度を下げきってしまえば溶岩が固まって大蛇も生まれなくなるはず!!」


「「!」」


 僕の言葉にエミリアとルナは顔を見合わせて頷き合い、攻撃対象を大蛇では無くマグマの海へ向ける。そして二人は声を揃えて魔法を発動させる。


「魔力強化……<上級氷魔法>コールドエンド!!」

「魔力強化!! <中級凍結魔法>ダイヤモンドダスト!!」


 エミリアとルナが魔法を唱えた瞬間、二人の身体に刻まれた”魔力強化”の魔法陣が同時出現し、魔法の出力を数倍まで跳ね上げていく。


 すると彼女達の魔法がマグマの海に飛んでいき周囲数メートルと急速に熱を冷ましていく。熱が冷めた部分は急速に温度を下げたおかげで固まり始める。


「出来た!!」

「だ、だけど……範囲が狭すぎるよ!!」


 彼女達が固めた部分はごく数メートル範囲だ。周囲のマグマは相変わらず煮えたぎっているため、時間が経てば再び溶け始めて元に戻ってしまう。


「二人とも連続で放ち続けて!! 時間さえ置かなければマグマは温度が下がって岩の塊になっていくはず!!」


 僕の言葉に二人は頷き再び氷魔法を放つ。僕とカレンさんも彼女達を手伝って氷魔法を放ち続ける。そして、ある程度固まったところで大蛇たちの動きが一気に鈍くなった。


 これで相手の攻撃を抑制したうえでこちらが動くことが出来る足場の完成だ。


「今だ!! 皆、僕に続いて!!」


 そう言いながら僕はエミリア達がマグマの海の中心に作ってくれた道を全力で駆ける。そして、仲間達もそれに続いて魔王の元へと疾走する。

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