第853話 戦闘開始!?

 リトライ三度目。


 お腹を少し満たして申し訳程度の作戦会議の後に、今度は間を置かずに普通に入った。


「魔王!! 」


 叫ぶと同時に引き戸の扉を開けてそのままズカズカと入り込んでいく。

 魔王の姿は全身に紫と黒の鎧を装備した3メートル以上の高さのある人型の魔物だった。目元まで覆っている兜を付けているため魔王の顔は不明だ。


 その姿は以前の人間を拠り所にして降臨した時よりも遥かに巨体で外見も全然違っていたので驚きそうになったが、こちらは素知らぬ顔で武器を構えて対峙する。


『……よく来たな、我の命を狙う人間の勇者達よ』

 玉座に座る魔王は低い男の声で堂々とした声で出迎えてくれる。……心なしか声のトーンがさっきよりも低いように思うのは気のせいだろう。


 ……しかし、目の前のコイツ……本当に魔王なのだろうか?


 以前の魔王と代替わりしているため姿が違うのは当然なのだけど、それにしたって以前と姿が違い過ぎる。ルナとノルンはともかく、実際に魔王と戦ったことがある姉さん達も疑問に思っているようだ。


『……我が城内で食べる飯は美味かったか?』

「……」


 しっかり話を聞いてやがった。そんな事聞かれても、敵を目の前にしてそんな気の抜けた返答するわけがない。


「美味しかったです!!」

「サクラちゃん、空気読んで空気」


 相変わらず直球なサクラちゃんに突っ込みを入れてから再び魔王に視線を向ける。


『……もう一人の勇者、サクラ・リゼットか………』


「……わたしの名前、知ってたんですか……?」


『……当然、そしてお前がサクライ・レイか……。魔王城内で破天荒な行動を繰り返し、この魔王城を制圧した勇者二人……そして……』


 魔王は僕達から視線を逸らして僕とサクラちゃんの後ろに視線を移す。そこには僕達の仲間の姿があった。魔王の視線はその内の一人……姉さんに注がれている。


『……お初にお目に掛かる。異世界の女神……いや、元女神と言った方が正確か……名前は……』


「ベルフラウよ。まさか、魔王に挨拶されるとは思っていなかったわ。以前の魔王は見た瞬間に気味の悪さを感じてたけど……貴方は随分と雰囲気が違うわね」


 姉さんは目の前の魔王にそう言い放つ。姉さんの言う通り、この魔王は以前の魔王と雰囲気がまるで違う。


 以前の魔王はまるで何かを演じるようにやたら仰々しい口調で話していたけど、この魔王は妙に落ち着いた雰囲気で話している。明らかに人間ではないのだが、雰囲気は魔物というよりは人に近く思えてしまう。


 だが、その落ち着いた態度と、底知れない不気味さが逆に魔王としての威圧感を僕達に与えていた。


『……この姿で神族と対面するのは初めてなのでな……。いくらこの後に殺し合うとはいえ、多少なりとも礼節は弁えねばなるまい』


「この姿……?」


 魔王の意味深な言葉に僕は首を傾げる。


『……後で分かる事だ。それよりも……アカメ……』

「……!!」


 魔王に名前を呼ばれたアカメは肩をビクリと震わせて一歩後ろに下がる。僕は魔王の視線の先まで動いてアカメを庇う。


『……アカメ。以前から不可解な動きを見せていたが、この時を狙って離反したか……。お前を庇うそこの勇者を味方に付けているところを見ると、どうやらただの離反ではないようだ』


「……」


 魔王の言葉に、アカメは俯いたまま何も言わない。僕はそんなアカメを庇うように立ち塞がりながら魔王に言い放つ。


「アカメは僕の妹だ。もうお前の部下なんかじゃない」


『……ほぅ。それは驚きだ……。ロドクめ……我の許可なく昇天してしまったようだが、勇者の血筋のものを部下にしていたとは……。我はロドクを高く評価していたのだが、こんな獅子身中の虫を子飼いにしていたとなれば、我の目が節穴だったか』


「何を……」


『まぁ良い。……アカメよ、お前には最後のチャンスを与えよう』


 魔王はそう言って玉座から立ち上がる。そして、右手を振り上げると部屋全体が微かに揺れ始める。


『アカメよ……もう一度、我の配下に降るがいい。そうすれば、貴様にはこれまでの罪を帳消しにするだけの恩赦を与えると約束しよう』


「……イヤ。私はもうお前の部下になどならない」


『そんなにその勇者の傍にいるのが心地よいのか。この城はお前にとって我が家も同然だろう?』


「……冗談。私はごく平凡な暮らしをしていたところを、あの男によって拉致されて無理矢理ここに閉じ込められていただけに過ぎない。私にとってここは牢獄と同じ」


『……だが、その牢獄の中である程度の自由は与えていたはずだが?』


「……籠の中で与えられた自由なんか私は望んでいなかった。本当の居場所を見つけられた私には、ここに戻る必要なんかない」


『……そうか』


 アカメの言葉に魔王が静かに答えると、魔王は右手を振り上げて地面に叩きつける。魔王の叩きつける衝撃と同時に、部屋内が揺れ始める。


 ただ叩きつけただけでこんな揺れが起きるわけがない。僕は剣を使って何とか揺れに耐えて魔王に向かって叫ぶ。


「魔王、何をした!?」


『この場所では死合うには少々手狭だ。場所を変える』


「そんな事できるわけが……っ!!」


 魔王の言葉を否定すると同時に、部屋の奥にある壁に亀裂が走る。そして、そのまま壁は崩れ始めて僕達の退路を塞いでしまった。


 そして玉座の周囲の壁や床も同じようにひび割れて崩れ落ちていくと、そこから赤いマグマのような液体が流れ込んできて、あっという間に周囲を炎で包み込んだ。


「……こ、これは……」


『この魔王城の建てられた場所は、元々火山地帯の真上の場所でな……。魔物にとって丁度良い環境が整っている。我も、この城も、本来の姿に戻るのにちょうど良い』


 魔王はそう僕達に告げた直後、魔王の背後に巨大な火柱が立ち上る。


『―――さぁ、来るがいい勇者達よ。本来の”魔王”としてのチカラ、このマグマと共に存分にその身で味わうがいい』


 魔王はそう言い放つと同時に、火柱から剣を引き抜き僕達に襲いかかってきた。

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